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50 入学時実力判定試合 01

 入学二日目。私たち一年魔法使い科の生徒は屋外の訓練場に来ています。隣のフィールドにはクリフさんたち一年騎士科の人たちがいるようですね。人数は騎士科の人の方が多いです。

 前に立ったアボット先生が宣言します。



「ではこれより一年魔法使い科入学時実力判定試合を開始します。現段階での成績はあくまで参考ですが、皆さん真面目にするように」



 このザカライア学院では入学早々に現時点の実力を判定するための試合があるのです。もちろん入学時に強かったからといって卒業時でも学年有数の力の持ち主であるとは限りません。最初は弱くても在学中に大きく実力を伸ばす可能性もあります。ただ入学時の力関係がずっと続くことも珍しくはないようです。この時点で強い人はそれまでにも努力してきたのであり、入学後も努力する可能性が高いと。その努力の差を(くつがえ)すほどの才能の差がある人は滅多(めった)にいないと。

 この試合は魔法使い科と騎士科では別々に行います。距離が離れたら魔法使いが有利ですし、近距離では戦士に対して魔法使いが対抗するのは困難ですから、どちらにしても不平等ですからね。



「戦うことは騎士や兵たちにさせればいいと考える生徒もいるでしょう。ですが敵はそんなことには構ってくれません。皆さんも王から命じられれば戦いに(おもむ)くことはありうるのです。戦場では戦う力を持たない者は死ぬだけです」



 死ぬ。その先生の言葉に息を飲む人たちもいます。その人たちは貴族の義務を十分には理解していないのでしょう。

 ザカライア学院の生徒に戦闘力が必須とされるのは、生徒のほとんどである貴族には王の命令があれば魔族や他国との戦いに兵を出す義務があるからです。その軍勢の指揮を当主やその家族が取ることも当たり前のようにあるそうです。ですが指揮官を狙って強力な敵が急襲することもしばしばあるそうです。そのような場合に指揮官にせめて逃げるだけの力がなければ、容易に討ち取られて軍勢が瓦解(がかい)する恐れもあります。その確率を下げるためにも学院の生徒には戦闘科目が必修とされているそうです。



「とはいえ、素質的にどうしても戦いには向かない人もいることは事実です。そのような生徒には無理に強くなるための訓練はさせず、政治面での教育がメインになります。ですがそのような人も戦場に(おもむ)かざるをえないこともあるのです」



 戦いに向かない人でも最低限でも自分の身を守れるようにするための訓練は必修だそうです。この世界は決して優しくはなく、いつ危険にさらされてもおかしくはないのです。



「戦う自信がない人は、試合は不戦敗を選ぶことも許可します。それで今後の成績に悪影響が出ることはありませんので、自信がない人は遠慮なく申し出るように」



 貴族の子女にもまだ戦う訓練をしていない人もいるでしょう。訓練をしていても素質がない人もいるでしょう。学院では戦う力を持たない人に対して無理に戦うための訓練はさせないそうです。それで卒業後危険にさらされても自己責任になるのですが。



「自分たちが危険を(おか)す必要はなく、危険なことは他人にさせればいいと考える人もいるでしょう」



 貴族階級の人たちには、騎士や兵を戦場に派遣して自分は屋敷にとどまるという選択肢もあります。ですがそのような行動は好ましくないというのが、アーヴィン王国における貴族社会での風潮のようです。



「ですがそんな人に臣下たちがいつまでもついて来てくれるかというと、そうではないでしょう。そんなことを続けていれば臣下たちにも不満がたまり、いずれ裏切られるかもしれないのです。現に先王国はそうして弱体化して滅んだのです」



 先王国は無責任と権威主義がはびこり、国を弱体化させて滅んだとされています。ワイズ伯爵家はその状況を(うれ)いてアーヴィン王国の建国に協力したそうです。アーヴィン王国もそのような結末を迎えてもおかしくはないでしょう。

 統治者の死は混乱をもたらしかねないのですから、統治者は命を危険にさらすべきではないと記す本もあります。その考え方は正しいと思います。ですがトップが危険を(おか)すからこそ配下たちもついて来るのだと記す本もあります。それも正しいと思います。どちらがより正しいのか、私にはまだ判断できません。

 ですが自分自身は絶対に安全な場所にいて他人を死地に送り出すことが正しいとは、私には思えません。統治者が死ねばその領土全体が混乱に(おちい)り民も苦難に()う恐れもあるのですから、統治者は危険に身をさらすべきではないという考え方も理解はできるのですが……

 ふと思い出しました。大賢者ザカライアの手記を。彼は、自分の身を危険にさらすことなく己の野心や欲望のために他人を戦争に駆り出す人を嫌悪していたようだということを。そして大賢者ザカライアから嫌悪されるであろう人は、前世でも今世でも読んできた歴史の本にいくらでも例があります。


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