49 ザカライア学院入学
私とお兄様がザカライア学院に到着して十日。いよいよ私が学院に入学する日です。大賢者ザカライアの名を冠する学院に入学するのに、子孫たる私がこの日に間に合わないのでは話にならないので、私たちは十分に余裕を持って学院に来ていたのですけどね。
大講堂に並ぶ制服を着た私たちの前にある演壇にはノーマン・アストン学院長。偉大なる賢者として知られている方です。この方も大賢者の称号は得られていないのですが。王国全体でも大賢者の称号を得られるのは一世代に一人いれば多い方なのです。学院長は見た目には人の良さそうなおじいさんという感じですね。
「諸君らは本日よりこのザカライア学院に入学する。諸君らには貴族もおれば平民もおるが、この学院内では諸君らは学友じゃ。互いに壁を作らずに交流することを期待する」
学院長はそう言いますが、少なくとも貴族派的な考え方をする人たちは平民たちを見下すでしょう。平民にも貴族たちに対しては壁を作る人もいるでしょう。新入生の大部分は貴族で、平民はコニーを含む三人しかいないのですが。
「このわしの言葉を建前としか思わぬ者もおるじゃろう。現実としてはこの理想を守らぬ者も多いのも事実じゃ。じゃがあまりに目に余る場合は放校処分になることもありうるのは、心するようにな。言うまでもなく、このザカライア学院から放校処分になるのは家名に泥を塗ることであるからな」
生徒が放校処分になることはまずないそうです。まさに学院長が言ったようにそれは家名に泥を塗ることになるのですから、学院としてもうかつにそうすることもできないと。だからこそフリント先輩のような下劣な人もまだ生徒としてこの学院にいるのだと。
ですがフリント先輩についてはライラ殿下がフリント伯爵家に圧力をかけてくださるそうです。クリフさんもあの先輩の所業を聞いて、フリント伯爵家を取り潰すことも厭わないと怒っていましたね。ディスキン先輩もフリント先輩たちを全くかばわずに突き放していました。
お兄様はそれはまだフリント先輩とその同列の下劣な人たちに対して圧力をかけるためのポーズだろうと言っていました。ですがフリント先輩が行動を改めないならフリント先輩は放校処分になり、あんな人を出したフリント伯爵家も取り潰されることも本当にありうるとも言っていました。王国の歴史にはそんな事例もあるのです。
ですが私もそれをただの他人事と考えるわけにはいきません。私が愚かなことをすれば、私も処分の対象になりうるのですから。
学院長のお話の後、在校生の代表としてライラ殿下が、新入生の代表としてクリフさんが挨拶しました。それで全体での集会は終わり、新入生も上級生もそれぞれの教室に移りました。
上級生と同様、新入生も魔法使い科と騎士科に分かれます。これは完全に分かれているわけではなく、転科することも自由です。学ぶうちに別の科の方が相性がいいことがわかることが時々あるからだそうです。
私とコニーは魔法使い科を選びました。ディクソン先輩に連れられていたヘンズリーさんも魔法使い科です。魔法使い科の人数は現時点では23人です。平民はコニーだけですね。クリフさんは騎士科で、この教室にはいません。
教壇に立った先生が挨拶をします。補佐の先生たちも並んでいますね。
「皆さん。私はブルーノ・アボット。一年魔法使い科の統括教師です」
アボット先生はいかにも魔法使いという様子のおじさまです。そのアボット先生の目が鋭くなりました。
「あらかじめ言っておきますが、このクラスにも平民の子がいます。ですが学院においては貴族も平民も区別はせず、同じ生徒として扱うことはお忘れなきよう」
アボット先生も人道派的な考え方をする人なのでしょうか。学院の教師は貴族の子女が大部分を占める生徒から侮られないように貴族出身の人が選ばれるそうです。その言葉と雰囲気に首をすくめる様子を見せる人たちもいます。反感を示す様子の人たちもいますが。
「ではまずは皆さんに自己紹介をしてもらいましょう。まずはファーバーさんに紹介してもらいましょうか」
「はい。私はルシア・ファーバーですわ。言うまでもなく、ファーバー公爵家の娘です。まあ数年間学業を共にするのですから、私の名と顔は覚えておきなさいな」
級友にはファーバー公爵家の令嬢もいます。現当主のファーバー公爵は宰相で、その孫のルシア・ファーバーさんに応対する際には配慮も必要そうです。先生が最初に指名したのは、宰相閣下の孫娘に対する配慮もあるのでしょう。
そうして順に自己紹介をしていき、コニーの番です。
「コンスタンス・アシュビーと申します。私は平民ですが、精一杯努力しますので、皆様と共に学ばせていただきたいです……」
コニーは基本的には気が小さい子ですしね。平民と貴族の違いを意識して注意しておけばそうそうトラブルにはならないというお兄様のアドバイスも、この子の頭の中にはあるでしょう。その遠慮がちな自己紹介には、特に悪印象を受けた様子の人はいなさそうです。平民のコニーを見下す様子の人も少なからずいますが。
自己紹介は続き、私の番です。
「ワイズ伯爵家のエマ・ワイズと申します。私はまだただの未熟者ですので、この学院で皆さんと共に学び、そしていつかは大賢者になることを目指しています」
教室にざわめきが広がります。ですが私のことを身の程知らずだと思っている人はいなさそうです。私は大賢者ザカライアの子孫なのですから。先祖が偉大だったからといって、私も偉大な人になれる保証などありません。ですが私はお兄様と共に大賢者を目指すのです。




