48 兄との会話 04
私はお兄様と握り合っている手とは別の手を、お兄様の手に重ねます。
「もし私とお兄様が婚姻することになるなら、お兄様は私を幸せにしてくれますか?」
「ああ。そうなったら君を幸せにすると約束するよ」
「……私もそうなったらお兄様を幸せにしてあげられると思います。お互いに幸せになれると思います」
「そうだね。お互いに幸せになれるだろうね」
お兄様の返事に迷いは見えません。お兄様と私は血縁としてはいとことはいえ、兄妹として育ってきたのですが、私には不思議と抵抗感はありません。それは私が重度のブラコンだからでしょうか。
私はお兄様に恋心を感じ始めています。それはまだライラ殿下やパトリシア先輩ほど確固としたものではないのだとは思います。ですがお兄様と婚姻したらお互いに幸せになれるとは思うのです。
お兄様の手を握る手に少し力が入ります。お兄様も優しく握り返してくれます。
「お兄様は……いえ、なんでもありません」
私はつい聞きそうになって、恐怖感にとらわれてしまいました。私は聞こうとしていました。お兄様は私を妹としてだけではなく、女性としても愛してくれているのかと。
そういうわけではないと答えられるのはもちろん怖いです。ですがもっと怖いのは逆の時、私を男女の意味でも愛していると言ってくれた時です。そしてそう答えてくれるかもしれないと思うのです。
そうなれば私のお兄様に対する恋心は燃え上がるでしょう。その結果、おそらく最終的には私とお兄様が婚姻することになるのでしょう。政略としても私とお兄様が婚姻することはライラ殿下やパトリシア先輩とよりもよほどまっとうなようですから。
ですがそれでは私は競争もせずにライラ殿下たちからお兄様を奪うことになりかねません。それは卑怯だと思いますし、ライラ殿下たちも不満に思うかもしれません。もし私がお兄様と結ばれるとしても、堂々と競争した末であるべきだと思うのです。
そして私と婚姻するよりもあの方たちと婚姻する方がお兄様が幸せになれるのならば、私はおとなしく身を退かなければなりません。お兄様は私の幸せを願ってくれています。ならば私もお兄様の幸せを願わなければなりません。そしてあの方たちもお兄様を幸せにできる方たちなのだと思うのです。
「まあでもまずは私と君は大賢者を目指さないとね。君の前世での家族に手紙を届けるためにも」
「はい。お兄様も私が前世の家族に手紙を出すことに協力してくれますか?」
「かわいい妹の頼みは聞いてあげないとね」
本当にお兄様はいい人です。お兄様は単純に善良な人ではないことは理解したつもりですが、少なくとも私にとってはこの上なく愛情深いお兄様です。私の前世での家族に手紙を届けることは途方もない難事である割には、お兄様にもワイズ伯爵家にも利益はないのですから。
握っているお兄様の手を両手を使って口元に運び、その手の甲にキスをします。お兄様がビクッとします。こんなお兄様もかわいいですね。
これは私にとってお兄様と共に大賢者を目指すという誓いの儀式です。
「お兄様。共に大賢者を目指しましょう」
お兄様も私の手を取り、その私の手の甲にキスをします。照れくさいですが、幸せな気分になります。
「ああ。誓おう。君と共に大賢者を目指すと」
そのお兄様の真剣な表情とまなざしに胸が高鳴ります。
ふと、私の中に残念という感情もあることに気づきました。もっと踏み込んでほしかったと。もしかしたら私は心のどこかで期待していたのかもしれません。お兄様が私の唇にキスしてくれることを。ですがこんな妄想をしてしまうとは、私のお兄様への恋心は実は相当強いのでしょうか。それともブラコンに恋心がくべられて、一気に燃え上がろうとしているのでしょうか。
その煩悩を今は振り払います。私はお兄様と共に大賢者を目指すのです。




