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36 王女様と王子様 05

 クリフ殿下が私を見ました。ライラ殿下も私を見ます。王族お二方に注目されて、緊張します。



「エマ。君もオリヴァー先輩と同じ意見かい?」


「はい。私はお兄様に全面的に賛同しています。私たちは民を守り、(いつく)しまなければなりません。それは私たち自身のためでもあります」


「そうだね」



 ここまではお兄様が言ったことを繰り返しただけです。クリフ殿下も軽く流します。



「そしてライラ殿下は意見が異なるのだと思いますが、私は民の声も聞かなければならないと思います。統治者も失敗をすることがある()であり、その失敗に自分で気づける人ばかりではないと思うのです」


「そうですわね。ですが民の声を聞かずとも臣下が忠言をしてくれるでしょう。それはあなたはどう思いますか?」


「臣下の方々も完璧な()ではありません。民がどこに不満を持っているのか、統治のどこに問題があるのか、民の視点からでないとわからないこともあると思うのです」



 この私の返答はお父様たちによる教育と、そして前世と今世で私が読んできた本から考えた、私自身の意見です。その上でお兄様と考えが一致したのです。

 クリフ殿下とライラ殿下の私を見る表情に感心したような色が浮かびました。私の返答はこの方たちを不快にせずにすんだようです。このお二方もディクソン先輩と同じように高潔で、そして他の人の言葉を聞く度量(どりょう)を持つ方々なのだと思えます。

 このような方々が王国の未来を(にな)うなら、王国の未来は明るいと思えます。あのフリント先輩のような下劣な人々が未来を担うならば、未来は暗いであろうとしか思えませんが。

 下劣でも有能な人はいるのでしょう。ですが高潔で有能な人が統治者になる方がいいに決まっています。高潔で無能な人については判断に困るのですが、本人は能力に恵まれなくても人格的魅力で有能な人たちを引きつけることもあるようです。最悪なのが下劣で無能な統治者です。ですが歴史を見るに、そういった最悪な統治者は(まれ)と言うほど少なくはないようです。

 ですがライラ殿下は私の言葉に納得したとまでは言えない様子です。



「民にも聞くに値する意見を言える者も存在するのかもしれません。ですがいるとしてもほんのわずかでしょう。大部分は目先の利益しか考えないでしょう」


「目先の利益を優先する人が多いであろうことは、私も否定はできないと思います」


「ならばわざわざ民の意見を聞く必要があるとは思えませんが?」


「聞くに値する意見を言える人も、民にもいると私は思うのです」


「さすが兄妹ですわね。オリヴァーと同じことを言うとは」


「光栄です」



 お兄様と同じことを言うと言われるのはうれしいです。私の意見はお兄様と一致しているということを、他の人からも認めてもらえたのですから。

 ライラ殿下の私を見る目は、見定めているという様子に思えます。この方は私を認めるに値する人なのか、それとも愚にもつかない人なのか、見極めようとしているのではないかと思います。



「あなたの考えはあなた自身のものなのですか? それともあなたはオリヴァーの言葉を繰り返しているにすぎないのですか?」


「私自身の考えです。教育の結果、同じように考えるようになったことはありえますが。ただ私は政治的な教育はそれほどされていませんので、政治的な能力はお兄様に大きく劣ると思います」


「なるほど」



 ライラ殿下がうっすらと笑いました。私を認めてくださったのかそうではないのか不安ですが。

 このことはお兄様と示し合わせて言っているわけではないのです。私自身で考えてこう思うようになったのです。



「それに貴族ならば高潔で賢明かと言うと、そうとは限らないと思います。貴族にも尊敬に値する方はいらっしゃるようです。ですが貴族にもその地位にふさわしい精神を持つとは思えない人もいることは、私も実感してしまいました」


「そうですわね。貴族にも下劣で無能な(やから)もいます。残念なことながら、そのような輩はごく少数と言えるほど少なくはありません」


「まあね。私と姉上も王族という身分だといろいろな人を目にするからね」



 ライラ殿下は(ほこ)を収めてくださったようです。このことについては分はあると思っていました。パトリシア先輩とロニー先輩の会話から、この方は下劣な人を嫌っていることはわかっていましたから。

 クリフ殿下も私を試すかのように言葉を発します。



「エマ。君は私たち王族も含めて完璧な人間はいないと思うんだね?」


「はい。お兄様と私も含めて完璧な()はいないのだと思います。あるいはそれに近い方はいるのかもしれませんが、神々でもなければ完璧な統治をすることは不可能だと思うのです」


「なるほど。君も賢者と呼ぶにふさわしい子のようだ。そして私も君の考えに同意するよ」


「そうですわね。さすがはオリヴァーが自慢の妹と言うだけのことはありますわね。自分は絶対に正しいのだと思い上がってはいない様子なことも含めて」


「ええ。この子は私の自慢の妹です」



 クリフ殿下もライラ殿下も私のことを認めてくださったようで、穏やかな笑みを浮かべてくれました。私は内心ではホッとしました。その私の内心はライラ殿下も見抜いていらっしゃるようですが。私はお兄様ほど内心を隠すのが上手ではないのでしょう。

 私はこの考えが間違いではないという自信はあり、それを言ったのですが、それを認めてくださる人ばかりではないことはわかっているつもりです。そういう意味で私は幸運だったのでしょう。この方々が下劣な人でしたら、私に不快感を示したと思いますから。

 ですがもしかしてお兄様はいろいろな所で私を自慢の妹と言っているのでしょうか。それはうれしいとも思いますが、ちょっと恥ずかしいです。


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