33 王女様と王子様 02
クリフ殿下がお兄様と私に視線を向けて、穏やかな笑みを浮かべました。
「オリヴァー。エマ。改めて、久しぶりだね」
「お久しぶりです。クリフ殿下。以前あなたが王太子殿下ということを存じ上げず、無礼なことを申し上げたことをお許し願いたいです」
「お久しぶりです。クリフ殿下。あの時は生意気なことを申したことを、ご容赦をお願いいたしたいです」
「いや。謝る必要なんてないよ。むしろ礼を言わせてくれ」
私は内心で冷や汗を流しています。クリフ殿下は懐かしそうな顔をしていますが。クリフ殿下はあの時も年上のお兄様をオリヴァーと呼び捨てにしていましたが、この方はどこかの貴族の子だろうと思って気にしていませんでした。あの時はクリフ殿下は偽名を名乗っていたのですが、印象には残っています。
「クリフ。オリヴァーたちと知り合いだったのですか?」
「ええ。オリヴァーとエマは私にとって恩人なのです」
「恩人?」
「ええ」
どうもクリフ殿下は怒るどころか感謝してくださっているようですが、私は内心の冷や汗が止まりません。この方が下劣な人だったらワイズ伯爵家にまで累が及ぶ恐れがあります。
「私が数年前までは勉強嫌いだったことは姉上もご存じでしょう?」
「ええ。あなたは剣の稽古は熱心にしていたのに勉学からは逃げ回っていましたわね。教育係も困り果てていましたし」
数年前に私とお兄様がお父様たちに連れられて王都に来た時、お兄様と私の二人だけで王宮図書館で本を読んでいましたら、そこにクリフ殿下が声をかけて来たのです。この方は周りの人たちが勉強しろとうるさいと愚痴をこぼしていました。そこにお兄様と私は生意気な口出しをしてしまったのです。
「あの時オリヴァーとエマと出会って、その言葉で私も勉学も疎かにしてはならないと思い知ったのです。そして学ぶことも楽しいのだと、その態度から学んだのです。ですからこの二人は私にとって恩人なのです」
「そういうことですか。オリヴァー。エマ。感謝しますわ。あなたたちがいなければクリフは愚かな王に至っていたかもしれません。あなたたちは王国にとっても恩人なのかもしれませんわね」
「もったいないお言葉です。このオリヴァー・ワイズ、これからも王国の臣として精進する所存です」
「私も今後クリフ殿下の学友となり、耳障りなことも言ってしまうかもしれません。どうかその際もご寛恕をお願いいたします」
お兄様と私の態度は卑屈にすぎると思う人もいるかもしれません。ですがこの方々は王族であり、クリフ殿下は将来王になる可能性が高いのです。私たちが下手なことをすれば、最悪ワイズ伯爵家が取り潰されることにもなりかねません。
「オリヴァー。エマ。姉上に対してはともかく、私にはあの時のように気軽に接してくれないかい? これは命令じゃない。学友としてのお願いだ」
「……承知しました。クリフ。君が王太子殿下だったとは思ってもいなかったよ」
「クリフさんと呼ばせていただいていいですか?」
「ああ。そう呼んでくれる方がうれしい。コンスタンス。君も私をクリフと呼んでくれ」
「……はい。クリフさん」
クリフさんは命令じゃないと言いましたが、私たちにとってはどうしても命令という意味も持ってしまいます。王族と貴族の関係はそう簡単に親密になれるものではないのです。この先共に学んで信頼関係を築けば、お互いに個人的な友情が成立するのかもしれませんが……
「そしてオリヴァー。これからはオリヴァー先輩と呼ばせてもらうよ?」
「喜んで。何かあれば言ってくれれば相談に乗るよ」
「お願いするよ。オリヴァー先輩」
お兄様は少なくとも表面上は全く動揺する様子を見せていません。さすがはお兄様です。私はここまで完璧に振る舞っているという自信はありません。コニーもガチガチに緊張していますし。




