32 王女様と王子様 01
昼食も終わって、私とお兄様とコニーは図書館に戻っています。コニーは待ちかねたという様子で本の続きを読んでいますね。私とお兄様も治水や土木について記した本を読んで、コニーの参考になりそうな本があれば教えてあげています。コニーは本に集中すると周りが見えなくようで、私が肩に手を置いて呼びかけることもあるのですけどね。
ディクソン先輩もヘンズリーさんと数人の新入生らしき人とこの閲覧室にいますが、熱心に議論をしているようです。音遮断の魔法を使って他の人の迷惑にならないようにしているようですが、その口が会話の形に動いているのは見えます。他に貴族派らしき先輩で新入生をここに連れて来てくれている人は見当たりません。まだ新入生がそれほど到着していないからということもあるのでしょうが。
トビー先輩も平民の新入生らしき人を連れてきてあげているようです。人道派の先輩たちも貴族の人も新入生を連れて来てあげているようです。
そうしてしばらく本を読んでいたら、声をかけられました。
「オリヴァー」
「これはライラ殿下。学院に戻られたのですね」
お兄様に声をかけたのは、いかにも高貴な雰囲気がただようきれいな女の人です。
お兄様が優雅に立ち上がって礼をします。私とコニーも本を読むのをやめて立ち上がって礼をします。コニーは今回は気づいたようです。ディクソン先輩たちを含む閲覧室にいる人たちも気づいて、同じように礼をしますね。
お兄様は言いました。ライラ殿下と。私は緊張しています。それはこの王国の第一王女殿下の名前なのですから。ライラ殿下に並んでいる、新入生らしきこちらもいかにも高貴な男の人には私も見覚えがあったりしますが。
「ええ。私が戻ったのですから、あなたは学院の門で出迎えるのが礼儀ではありませんこと?」
「失礼いたしました。ですが先触れがありましたらともかく、そうでなければいつ殿下がお戻りになるか私にはわからないことはお許しください」
パトリシア先輩がこの方を高慢なお姫様呼ばわりする理由が理解できました。確かに王女殿下が学院に来られるなら出迎えるのが臣下としての礼儀なのですが、事前にいつ来るかも知らされていないのに出迎えろとは無茶な話です。
「姉上。オリヴァーの言うとおりです。それに私たちもこの学院では一生徒にすぎません」
「それは建前ですわ」
「それを堂々と言うのも問題があると思うのですが……」
ライラ殿下にもの申したのはライラ殿下に並んでいる男の人です。この方は言いました。姉上と。
「失礼。オリヴァーとエマにも本当の名前で自己紹介するのはまだだったね。私はクリフ・アーヴィン。今年このザカライア学院に入学する。あの時は偽名を名乗ったのはすまなかったね」
「こちらこそ失礼いたしました。改めて自己紹介させていただきます。私はワイズ伯爵家のオリヴァー・ワイズと申します。エマ。コニー。ライラ殿下とクリフ殿下にご挨拶を」
「お目にかかり光栄です。ワイズ伯爵家の娘でオリヴァーの妹、エマ・ワイズと申します。私も今年入学します」
「コンスタンス・アシュビーです。私も新入生です。私は平民なのに殿下方にお目にかかるのは恐縮ですが……」
「あなたたちもわかっているでしょうが、私はライラ・アーヴィン。第一王女ですわ」
アーヴィン王国王太子クリフ殿下。とてつもない重要人物です。この方は将来この王国の王になる可能性が高いのですから。私とお兄様はこの方に面識があったのですが、この方が王太子殿下ということは知りませんでした。ライラ殿下は自己紹介も上から目線ですが。
ライラ殿下がコニーに視線を向けました。
「オリヴァーが平民を連れているとは思いましたが、教育は行き届いていますのね」
「こちらのコニーは、ニューランズ将軍の下で活躍していた平民出身の導師の私塾で教育を受けたとのことです」
「そう。まああなたがオリヴァーに面倒を見られているというなら、あなたも私の言葉を聞くことを許可しましょう」
「か、感謝いたします……」
コニーはガチガチに緊張していますね。王族の方々を前にすれば当然ですが。私も緊張していますし。
「姉上。そこまで高飛車に言わなくてもいいのではありませんか?」
「王家の一員たるもの、臣下や民から軽侮されてはなりません。クリフ。あなたも自覚なさい」
「はぁ……王宮ならばともかくここは学院で、学院の生徒たちは学友です」
クリフ殿下はライラ殿下の物言いには思うことがあるようです。ただライラ殿下のおっしゃることにも理はあります。王家が臣下や民から軽視されるわけにはいかないと。歴史の本にも臣下が専横を振るって国が乱れた事例はいくつもありました。それには統治者が軽視されたことを原因とするものもあるのかもしれません。
ですが私個人としてはクリフ殿下のような方の方が好ましいとは思います。貴族派の人たちからすればライラ殿下の態度を良しとするのかもしれませんけどね。特権意識を持つ人は、高い位の方が自分以外の人に対しては高圧的に接して、自分に対しては親密に接してくれるなら、さらに優越感をくすぐられるのかもしれませんが。




