表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/61

31 図書館にて 03

 お兄様が懐中時計を確認しました。そろそろ昼食の時間です。

 この世界にも機械式時計はあり、貴族ならば懐中時計くらいは持っているものです。うっかりネジを巻き忘れて時間がわからなくなる失敗をすることもあるのですが。魔法を使用した半永久的に正確に時を刻み続ける時計もあるのですが、携帯できるほど小型化するのは現在の魔法技術では無理なようです。



「エマ。コニー。そろそろ昼食の時間だよ。食堂に行こう」


「はい」



 私は返事しますが、コニーは本に没頭して気づいていないようです。コニーの肩に手を置くとビクッとしました。



「コニー。食事に行きますよ」


「あの……もう少し……」


「おなかがすいたまま勉強しても効率は良くないですよ」


「……はい」



 懐かしい会話です。私はお母様たちから(たしな)められる側だったのですが。コニーはまだ本を読みたいと後ろ髪を引かれている様子です。本当にこの子は私にそっくりです。



「ははは。エマ。懐かしい会話だね。君も母上からよくそう言われていたね」


「もう! お兄様! 私にも先達(せんだつ)ぶらせてください!」


「ははは。図書館では静かにするようにね」


「……あ。すいません」


「ふふふ」



 コニーにも笑われてしまいました。

 周りで本を読んでいた人たちも、もうそんな時間かと、本を返す準備を始めています。

 不意にお兄様が私の頭をなでました。思わず頬が熱くなるのを感じます。



「エマ。君にはそうやって自分の失敗を他の人にはさせないように助言する優しさがある。それは君の素晴らしい点だよ」


「は、はい」



 お兄様にも困ったものです。恋愛下手なお兄様にとってはこの行動にも深い意味はなく、兄妹としてのコミュニケーションのつもりなのでしょう。その何気ない行動が私の恋心をかき立ててしまうことにも気づいていないのでしょう。もう15歳にもなって人目のある場所でこんなことをされるのも気恥ずかしいですが。

 その私をコニーは微笑(ほほえ)ましそうに、でも(うらや)ましそうに見ています。よほど関係が近くないと異性の頭をなでるなんて非常識ですから、コニーがお兄様にそうしてもらうには恋人にならないと無理でしょうけどね。

 そこに二人の人が近づいてきました。一人はディクソン先輩です。お兄様が私の頭をなでるのをやめたことは、少しホッとすると同時に残念だとも思ってしまいました。



「オリヴァー」


「お騒がせしてすいません。ディクソン先輩」


「すいません……」


「なに。この程度かわいいものだ」



 ディクソン先輩にも今のちょっとした騒ぎを見られてしまったようで、少し恥ずかしいです。ディクソン先輩には私を(とが)める様子はなく、穏やかな笑みを浮かべています。

 ですがもう一人、新入生らしき男の人はコニーに対する視線は好ましいものではありません。見下しているような視線です。その身なりからして貴族とわかりますが、この人も貴族派的な考えをしているのではないかと思います。



「こちらのバーナビー・ヘンズリーも新入生だ。この男もおそらくはエマとアシュビーと同級生の魔法使い科になるのだろうから、君たちにも紹介しておこうと思ってな」


「ヘンズリー男爵家の次男、バーナビー・ヘンズリーです。以後よろしくお願いします」



 私たちも自己紹介します。ヘンズリーさんのコニーに対する視線は好意的なものではありませんが、毛嫌いしていると言うほどでもないように見えます。ディクソン先輩とお兄様の前だからか、コニーの自己紹介を邪魔する様子もありませんでした。

 おそらくディクソン先輩は新入生の面倒を見ることを実践しているのでしょう。人に言うだけではなく自分自身も実践するこの人は、尊敬するべき人なのでしょう。私とは一部考え方の相違もあるのですが、それはこの人は尊敬するべき人という事実を覆い隠すものでは、少なくとも私にとってはありません。



「この男も貴族派的な考え方をしているがな。だが下劣な男ではないようだ。断定するにはまだ早いが」


「ディクソン先輩のご期待に添えられるように精進(しょうじん)します!」



 ヘンズリーさんのディクソン先輩を見る目には明らかに敬意が()もっています。この様子なら確かにこの人は下劣な人ではなさそうです。確信するにはまだ早いのでしょうけどね。

 この人の熱心に会話する声は読書中にも閲覧室(えつらんしつ)に響いていました。途中で音遮断の魔法を使ったのか、それとも本を読むことに集中したのか、声は聞こえなくなりましたが。



「ヘンズリー君はディクソン先輩とは以前からの知り合いだったのかい?」


「いえ。今日初めてお会いしました。ですがディクソン先輩とお話しして、尊敬するべき方だと思ったのです」


「そうか。ディクソン先輩は尊敬するべき人だ。それはこのオリヴァー・ワイズも保証するよ」


「はい!」


「オリヴァーにそうも持ち上げられると、私としては居心地が悪いがな」



 短時間でこれだけディクソン先輩を尊敬するようになった様子なことは、ヘンズリーさんも悪い人というわけではないのだと思います。下劣な人ならディクソン先輩に取り入ろうとする様子を見せたり、あるいは逆に距離を取ろうとする様子を見せるのではないかと思います。ですがヘンズリーさんはディクソン先輩に(あこが)れる様子を見せています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ