30 図書館にて 02
私とお兄様とコニーは図書館の閲覧室で本を読んでいます。コニーは私が選んだ本を読みながら時々紙にメモをしています。この世界でも植物性の原料を使用した紙が普通に使用されていて、それほど高価でもありません。さすがに膨大な量を使い捨てにできるほど安価でもありませんけどね。
コニーがページをめくる手を止め、悩む様子を見せています。
「コニー。なにかわからないことがあるのですか?」
「はい……このあたりなのですが……」
「……それは私も知識としては知っていても理解はしていませんね」
「そうだね。それは実務に携わって知識を完全に自分のものにしないと本当に理解するのは無理なことなんだろう」
「なるほど……」
コニーがわからなかった場所は私も理解しているとは言えません。それはまだ学生で実務に携わってはいないお兄様も同様なようです。
私は知識としては知っていることも自分のものにはしていないのです。その本を著した大賢者ザカライアは専門ではなくても土木や治水のこともきちんと理解していたのでしょうから、まさに大賢者と言うにふさわしい方だったのでしょう。そして私とお兄様もその高みを目指すのです。
「でも知識があれば実務に携わると段違いに早く習得できるはずだ。だからこそ本を読むことには大きな意義があるんだ」
「はい」
お兄様の言葉に私とコニーが返事をします。周りの人たちの迷惑にはならないように、声は抑えめに。
お兄様の言うとおりなのでしょう。ただ知っていてもその知識を使いこなせなければ意味がないのでしょうが、知っていれば最初からある程度はうまくできる可能性が高いでしょう。たとえ失敗しても、どこに問題があったのかを把握するのも早くなることも期待できます。そうした経験をして知識を本当に自分のものにすることができるのでしょう。
「コニー。あなたの故郷はそれほど遠くない場所に山があって、そちらから川が流れているのですか?」
「はい。そうです。それがどうかしたのでしょうか?」
「こちらの本にそういった場所での総合的な治水について書いてあります。入門書を読んで基礎を理解してから、こちらの本を読んでみるといいかもしれません」
「はい。ありがとうございます」
コニーが題名と私が言ったことを紙にメモします。
今私が読んでいる本はコニーの故郷の治水にも役に立つかもしれません。私が前世で読んだ本にも同じようなことを書いた本がありました。つまりこの内容は魔法を使えない人でも実現できるということです。前世の世界には魔法はなかったのですから。コニーの故郷で多くの魔法使いの協力を得られることは期待できないでしょうから、普通の人たちでもできるということは重要です。
「私が読んでいる本の方はコニーの期待には添えなさそうだ。悪い本ではないのだけどね」
「魔法使いの協力が必要なのですか?」
「ああ。かなりの人数のね。この内容を実現するにはどれも国家事業クラスの活動になるだろう。維持にも継続的に人出を必要とするものも多い」
ザカライア学院の図書館ともなれば愚にもつかない本はないのでしょう。ですがそれがどんな状況でも役に立つとは限りません。
「でもお兄様はその本を読むのはやめる必要はないと思っているのですね?」
「ああ。逆に言えば国家事業クラスの事業には有益な知識なのだからね。エマも後で読むといいよ」
「はい。お兄様」
大賢者を目指すともなれば国家レベルのことも考える必要があるのでしょう。そういう意味ではその本を読むことは無駄ではないのでしょう。
「オリヴァー先輩たちはそれほどのことも考えているんですね……」
「ああ。私はエマと共に大賢者を目指しているからね」
昨日お兄様とお互いの手の甲にキスしたことを思い出して、赤面しそうになりました。とっさに心を落ち着かせたのですが。
「オリヴァー先輩もエマさんもすごいです……」
「コニー。私はあなたとはライバルになれるのではないかと思うのですけどね。共に学び研鑽する」
「そんな……私なんかが……」
「コニー。あまり自信がなさ過ぎるのも良くないよ。エマがそう言うならば、君にはそれに値する素質があるのかもしれない」
「は、はい」
平民のコニーの自己評価が高くないのは仕方が無いのでしょう。でも私と共に学ぶうちにこの子も自然と自信がつくと思います。この子が増長してしまう恐れはたぶんないのでしょうけどね。




