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27 兄との会話 04

 私は長椅子に座ってお兄様に寄り添い、手を握り合っています。ふと思ったのですが、これは客観的に見たら恋人同士の逢瀬(おうせ)そのものに見えるのではないでしょうか。ですが離れる気にはなりません。



「エマ。お互いに秘密を告白してしまったね」


「はい、お兄様」



 お兄様の肩に頭を預けます。もうお兄様には隠し事をしなくてもいいのです。そしてこのことは学院の長期休みに屋敷に帰ったらお父様とお母様にも告白しましょう。お兄様がどんな人なのかはおそらくお父様は気づいているのでしょうけどね。

 お兄様が私の手を握る手に少し力を込めます。



「ザカライア学院は、現在のワイズ伯爵家とは直接の関係はない」


「はい」



 お兄様の声は冷静を通り越して冷たいものに聞こえます。

 このザカライア学院はワイズ家初代ザカライアが創設したのですが、現在はワイズ家とは直接の関係はありません。ワイズ家の者もこの学院に入学することになっているのですけどね。



「だけどこの学院は現在のワイズ家にとってもとても重要な存在なんだ。ワイズ家が生き残るためにね」


「え?」



 初耳です。どういうことでしょうか。



「ワイズ家は代々平民たちを擁護(ようご)し、学院においては人道派を維持している。ワイズ家の者が学院にいない間は人道派が極度に勢力を落とすこともあるけど、それも復権させている」


「はい」


「それにはワイズ家にとっての生き残り戦略という面もあるんだ。アーヴィン王国が成立する前からそうしてワイズ家は生き残ってきた」


「どういうことですか?」


「貴族社会は権謀術数(けんぼうじゅっすう)が渦巻く魔窟(まくつ)だ。そんな中でワイズ家が生き残るために平民たちを味方につけ、そして学院に入学する優秀な平民をワイズ家に好意的にさせるという思惑(おもわく)もあるんだ。学院を卒業した平民が貴族に引き上げられることもあるしね」


「なるほど……」


「そしてアーヴィン王国初代国王もかつては学院に在籍した平民だった。その初代国王から好意的に思われたからこそ、ワイズ家は王朝が交代しても生き残った」


「はい」


「だけど平民にも貴族に取り入って栄達を図ろうとする者はいる。利益で動く人間は利益で裏切る。利益を提供し続ける限りはそうした人もそうは裏切らないけどね。それは覚えておく方がいい」


「……はい」



 お兄様の声はゾッとするほど冷たいです。お兄様に平民を利用する思惑があったことは、そして疑いの目でも見ていることは少しショックです。ですがお兄様にも平民に対する善意もあるのでしょう。そうでなければ、お兄様が人道派の人たちからあれだけ(した)われ、貴族派の人たちからも見込まれるなんてことがあるはずがありません。

 そしてそれはワイズ伯爵家の生き残り戦略として有効に機能していることも十分に考えられます。平民擁護派はアーヴィン王国においては主流派ではないのかもしれません。ですが傍流(ぼうりゅう)での中心的な位置にワイズ家がいるのかもしれません。

 こういった政略に関する本は私も読んだことはあり、知識としてはあります。ですがそれを実践しようにも私には経験がなく、うまくできる自信はありません。



「でもそれだけでは真の友人を作ることはできない。コニーはたぶん本当にいい子なんだろう。仲良くするんだよ?」


「はい!」



 冷たかったお兄様の声が暖かくなりました。やっぱりお兄様は平民を利用するだけの人ではありません。それがうれしいです。



「ワイズ家は代々権力の中心には近づきすぎないようにして来た。下手に権勢を振るうと他の貴族たちから嫉妬(しっと)されるし、王家からも(うと)まれかねないからね」


「はい」



 アーヴィン王国の歴史にも一時期権勢を振るってもその後没落した貴族もいくつもあります。私が前世や今世で読んできた歴史に関する本にもいくつもそのような事例がありました。代々のワイズ家当主はそれを避けてきたのでしょう。



「だけどあまりに弱小だと何かあれば簡単に潰される。そうされないためには潰されないだけの力も必要だ」


「はい」



 これもいくらでも例があることです。アーヴィン王国にもその他の国にも。その程度の弱小貴族は歴史にさえ名前がろくに残らないようなのですが。



「恐怖されるほど強くはない。(あなど)られるほど弱くはない。そうしてワイズ家は生き残ってきたんだ」


「はい」



 言うのは簡単です。ですが代々のワイズ家当主はどれほど苦心してそれを成し遂げてきたのでしょうか。そしてお父様は現にそれをしていて、お兄様もその準備をしているのでしょう。



「エマ。君にも私の手伝いをしてほしい」


「はい! お兄様!」



 私はお兄様の手を握る手に力を込めました。お兄様も握り返してくれます。

 私はうれしいのです。お兄様が私に頼んでくれたのが。お兄様は私をただの庇護(ひご)対象と考えるのではなく、私を頼りにしてくれたのです。


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