22 食堂にて 05
時間になり、食堂に集まった人たちに順次料理が運ばれて来ます。貴族の子女を待たせるわけにはいかないと、配膳のメイドは多数動員されていますね。平民のコニーはそうやってサービスされることに居心地の悪さを感じている様子を見せていますが。
そうして準備が整ったところで、お兄様が立ち上がりました。
「ご注目をお願いいたします。食事前に失礼いたします」
そのよく通る声に、食堂中の人たちの視線がお兄様に集まります。お兄様は丁寧な言葉を使っていますが、お兄様は今年三年になり、この場には最上級生の四年になる人たちも、そしてワイズ伯爵家よりも格上の家の人たちもいるからでしょう。
「そろそろ新入生たちが入寮を始めます。新入生には新しい環境に戸惑う人たちもいるでしょう。そのような新入生を見かけましたら、学院内の案内をお願いいたしたいです」
そのお兄様の言葉には裏の意味もあるのではないかと思います。フリント先輩のような下劣な人が新入生に絡んだら守ってあげてほしいと。貴族派の人たちには関心がなさそうな人が多いようですが、お兄様の言葉に同意する様子を見せている人たちもいます。
人道派の人たちは基本的にお兄様の言葉に同意しているようです。ですが人道派の先輩たちにも関わりたくないという様子が垣間見える人たちもいます。これがディスキン先輩が言っていた、人道派の人も必ずしも信じていい人ばかりではないということなのかもしれません。
ディスキン先輩が立ち上がりました。
「学院において年少者の面倒を見るのは年長者の義務だ。皆も貴族としてそれを心得ろ。特に年長者が年少者を食い物にすることなどもってのほかだ。先程まさにそれをしようとした下劣な者がいたのだがな」
フリント先輩はこの場にはいないようです。おそらくディスキン先輩を恐れて、今日は食事は持ち出して自室で食べる気なのでしょう。貴族派の人たちには呆れたような顔をしている人もいれば、釘を刺されたと思ったのか苦い顔をしている人もいます。おそらくフリント先輩たちのような下劣な人は他にもいるのでしょう。
お兄様が続いて言葉を発します。
「そして皆さんも知ってのとおり、新入生は正式に入学するまでは一人で図書館に入ることはできません。ですがそれまでにも図書館に入りたいと望む新入生はいるでしょう。そのような新入生を見かけましたら、図書館に連れて行ってあげていただきたいです」
コニーも図書館に入れずに困っていましたしね。新入生は知り合いが学院内にいる人は多くはないでしょうし、入学までの時間を過ごすためにも図書館に入りたいと思う人もいると思います。勉強熱心な人もいるでしょうしね。
ディスキン先輩が続けます。
「新入生相手に教師役までしろとは言わない。皆も図書館で思い思いの本を読めばいい。だが質問をされて答えられるならば答えてやるべきだ」
図書館に入れてもらえば新入生も自由にしていいわけではありません。図書館の中でも上級生や教師に一緒にいてもらわないといけないのです。私もお兄様に一緒にいてもらう予定だったのですしね。お兄様なら私にわからないことがあっても的確に答えてくれるのでしょうけどね。
お兄様が発言します。
「食事の前に失礼しました。ですがディスキン先輩がおっしゃるように、学院において下級生の面倒を見るのは上級生の義務です。それをお忘れないよう」
「大半の者は見て見ぬふりをするのだろうがな。諸君らも貴族であるのだからそれも仕方があるまい。だが少なくとも下劣な真似はするな」
ディスキン先輩の言葉は皮肉っぽいですが、実際に新入生に親切にしてあげる人は少ないのでしょう。貴族派の人たちには首をすくめている人たちもいます。その人たちにも後ろめたいという思いくらいはあるのかもしれませんね。
「では、神々に収穫を感謝し、食事を始めましょう」
「神々に感謝を」
お兄様とディスキン先輩の言葉と共に食事が始まります。
ですが私は神々だけではなく、民にも感謝しなければならないと思います。食材を生産して用意するのも調理するのも配膳するのも、全て平民がしてくれるのですから。私がお父様たちにそう言った時、お父様たちは満面の笑みを浮かべてその通りだと言ってくれました。ただこの私の考えは貴族派の人たちの多くには受け入れられないでしょう。




