16 訓練場にて 03
パトリシア先輩がお兄様をじっとりとした目で見ました。美人な先輩がそういう顔をすると、威圧感があります。
「ところでオリヴァー」
「なんだい?」
お兄様はそんな目で見られる理由がわからないようで、戸惑う様子を見せています。
「私のことはパトリシアと呼んで、その子のことはコニーなのかしら?」
これは、パトリシア先輩はお兄様がコニーを愛称で呼んで自分は名前で呼ばれているのが不満ということでしょうか。
「え? 君には一年の時パティと呼んでいいかと聞いたら、次そう呼んだらひっぱたくと言われて睨まれた覚えがあるよ?」
周りにいる人たちが何人か吹き出しています。パトリシア先輩がその人たちをキッと睨んで、その人たちは慌てています。私もこの顔で睨まれたら震え上がりそうです。きれいな顔だけに迫力がありますから。
「なんでそんな前のことを覚えているのよ……あなたにならパティと呼ぶことを許してあげるわ」
「うーん……今更そう言われる理由もわからないんだけど……じゃあこれからはパティと呼ばせてもらうよ」
「ええ!」
パトリシア先輩は喜びを露わにしています。もしかして先輩はお兄様のことが……
お兄様はパトリシア先輩がなんでそんな様子なのかわからないようですが。お兄様は聡明な人なのですが、恋愛関係には鈍いのでしょうか。
「でもパティもだいぶ人格的に丸くなったね。入学当初は触れれば切れるという様子だったんだけど」
「それを言わないでよ……あの頃は気負っていたから……」
「パトリシアお嬢様は家の恥になってはならないと隙を見せないようにしていたのです。私からすれば、お嬢様のご実家での姿からすると痛々しくて不憫だと思っていたのですが」
「……ロニー。あなた、なかなか言うわね」
「私はパトリシアお嬢様の幸せを願うのみでございます」
先程の様子からその片鱗が見えましたが、パトリシア先輩は以前はきつい性格だったようです。そして素直になれないところもあったのではないかと。私たちに説明してくれたロニー先輩の言葉からすると、それはパトリシア先輩の本来の性格というわけではなかったようですが。学院生活で人とふれあって、パトリシア先輩も心変わりがあったのかもしれませんね。そしておそらくはお兄様もその一助となったのでしょう。
「あの……お兄様。魔法使い科でも近接戦闘訓練を受けることができるのですよね?」
「え? エマも近接戦闘訓練をしたいのかい?」
「あ。私もしたいです」
私とコニーの言葉にお兄様は戸惑っています。私はこれまで近接戦闘訓練には全く興味を示していませんでしたからね。
「パトリシア先輩とロニー先輩の訓練を見て、あんな動きができたら素敵だなと思いまして。もちろん私は賢者と魔法使いとしての修練を優先しますが」
「お二人も本当にすごかったです。憧れてしまいます」
「なるほど。でも魔法使い科での近接戦闘訓練は最小限だから、本格的に訓練したいなら自由学習時間に騎士科に顔を出すといいよ」
「はい! アドバイスありがとうございます」
「私も余裕ができたら近接戦闘も練習してみたいです」
お二人の動きは本当に素敵でしたから。あの戦いは魔法使いの戦いとはまた違います。私は大賢者を目指すのですから、あくまで主は知識の探求と魔法の研鑽で、近接戦闘は従ですけどね。
「そうまで言うなら私が余裕時間にあなたたちの訓練を見てあげてもいいわよ?」
「私もお手伝いしますよ」
「ありがとうございます!」
「お二人に教えていただけるならうれしいです!」
パトリシア先輩もロニー先輩も憧れられることに悪くない気がしているようですね。ですが近接戦闘については素人の私があれほどに強いこのお二人に教えてもらっても、耐えられるでしょうか。少し不安もあります。
「パティ。ロニー。ちょっと待ってくれ。エマは近接戦闘は全くの素人だ。それはコニーも同様のようだ。君たちほどの人に見てもらうのは早すぎる。せめてこの子たちが近接戦闘の基礎を習ってからにしてほしい」
「それもそうね」
「おっと。これは前のめりになってしまいました。オリヴァー君の言うとおりです」
それはお兄様がストップをかけてくれました。本当に頼りになるお兄様です。
「ですが私も近接戦闘を習ってみたいと思うのも本心です。その時はパトリシア先輩とロニー先輩も教えていただけますか?」
「私もお二人に教えてもらいたいです!」
「ええ。もちろんいいわよ」
「構いませんよ。未熟な人に教えることも私たち自身の修練にもなりますからね」
このお二人もいい人のようです。お兄様がいい人ですからその周りにもいい人たちが集まってくるのでしょうね。
そして私もいい人になりたいです。そうすれば多くの人が私のことを好意的に覚えてくれるでしょうから……




