親友にNTRビデオレターを送りつけられて脳破壊されたけど、端に映っていた親友のお母さんに一目惚れして脳再生する話
2024年2月14日
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ある日、海藤壮太の家に一枚のDVDが送られてきた。
怪訝に思いながら再生してみると、映り出されたのは壮太もよく知る二人だった。
片方はクラスメイトであり気心の知れた友人である火野信介だ。
そしてもう一人は同じくクラスメイトであり、先月から交際を始めた彼女である花見窓香であった。
「おーい、壮太見てるかあー?」
見ている。
だが、わからない。何が起こっているのか理解できない。いや、理解するのを脳が拒んでいる。
なぜ、この二人が一緒に映っている?
なぜ、窓香は潤んだ瞳で隣の信介を見ている?
なぜ、この二人は半裸姿で距離がそんなに近いんだ?
頭の中で幾つもの疑問が思い浮かび、その度に自分の中の大切な何かが壊れていくのを感じる。
「見ての通りだ。お前の彼女の窓香ちゃんは俺が寝取っちまった。ごめんな?」
「うぅ。ご、ごめんね。壮太君。私……あんっ!」
窓香の僅かばかりの謝意も、横から胸を信介に揉みしだかれ、甘い声をあげて中断する。
「お前が悪いんだぜ? 窓香ちゃん、付き合い始めてからお前が手を出してきてくれないって欲求不満だったからさ。なんだか不憫に思っちまって……その、つい……な?」
「やめっ……そんなはっきり……言わないで……ひゃあんっ!」
そのまま二人はカメラが回っているにも関わらず、再び情事を楽しみ始めた。
「……」
一方で壮太の心は絶望と悲嘆に塗り潰されていく。
当たり前だ。なにせ彼女と親友の不貞をこうしてリアルタイムで見せられるのだから。
次第に彼の胸中にふつふつと怒りと悲しみが沸き上がる。
――何がごめんだ。謝る気など最初からないだろう。こんな形で報告してきたのがいい証拠だ。
壮太は思わずドンと床を叩く。
「返してやりたいのもやまやまだが、もう色々と教え込んじゃったからなあ。もうお前じゃ満足できねえと思うぜ」
一方で画面の向こうから好き放題言ってくる信介。
その声色と表情からして罪悪感はほとんど無いよう見えた。
彼にとっては精々友人が楽しみにしていたゲームを先に遊んでしまった程度の感覚なのだろう。
「まあ気を落とすなよ。お前イケメンだし新しい彼女なんてすぐにでき――」
「ノブくーん、ただいまー。おかーさん帰ったよー」
「「え⁉」」
慰めどころか挑発にしかならない言葉を吐いている途中、信介の部屋の向こうの方から気の抜けたような声と共に近付いてくる足音。
露骨に焦り始める二人は行為をやめ慌てて服を着始める。
やがてガチャリという音と共に、画面の端から一人の女性が入ってきた。
「ノブくーん、これから晩ゴハン作るんだけど、カレーとハンバーグどっちがいいー? ……あらあら。彼女さんも一緒なのね。じゃあもっと豪勢にした方がいいかしら?」
「なっ……! ババア、勝手に部屋に入ってくんじゃねえよ!」
「もうっ。相変わらず反抗期なんだからぁ」
信介の罵声も意に介さない女性は、やがてカメラに気付いてこちらを覗き込む。
「あらあら? もしかして、このビデオカメラ回ってるのかしら?」
その女性は相変わらずのおっとり声で不思議そうな顔でこっちをまじまじと見ている。
緩やかなウェーブを描く茶髪に服越しでもわかる豊かな身体つき、罵声を叩きつけられても、柔らかな笑みを崩さないその姿は深い母性と包容力を感じさせる。
壮太はそこでようやく、画面に映る彼女が信介の母親だとようやく気付く。
(真乃さんって言ったっけ……)
信介の家に遊びに行った時、いつもあの優しい笑顔でこちらを迎え入れてくれた。
……こう改めて見ると、本当に美人さんだと思う。
とても学生の息子を持つ母親とは思えない。
「あらら。なるほどねえ」
やがて真乃はカメラと着崩した二人の格好を交互に見て、何かを察したのか、困ったように眉をハの字に曲げる。
「ノブくん、彼女さんを自慢したい気持ちはわかるけど、こういう事をしている所を送るのはちょっと飛ばし過ぎかと思うの」
「う、うるせえ! とっとと出てけババア! ……あーあー。撮り直しだよチクショウ……」
信介はバツが悪そうに母親の背をグイグイと押して、画面の向こうへと追いやると、こちらに手を伸ばしブツンという音と共に画面は暗く暗転した。
おそらくカメラのスイッチを切ったのだろう。
――しかし、取り直し、と言っていたが彼らのやり取りはこうして映っている。どうしたことだろう?
そこへ手元に置いてあった壮太の携帯が鳴った。
見ると表示されたアドレスは信介の物だった。
壮太はしばらく考えた後、とりあえず出る事にした。
「お、おい壮太……。あの、その……送ったやつ見たか?」
「ああ見たよ。お前ら付き合ってたんだな。知らなかったよ。……色々と言いたい事はあるが、途中からお前のお母さんが入って来たのはビックリしたよ」
「クソがっ! やっぱあのババア間違えて送りやがったのか!」
どうやらこのビデオレターは間違えて送ってきた代物らしい。
そもそもNTRビデオレターなんて母親に送らせるなよ、と思うが。
いや、それ以前にNTRビデオレター送る自体人としてどうかという話だが。
「お前のお母さん久しぶりに見たよ。相変わらず美人だな」
「え? お、おお。学生婚だったからな。っても親父はすぐに他の女と蒸発しちまったけどよ。だからなのか、いつまでも子離れしてくれなくてウゼえんだよ」
「ふうん。つまり母子家庭でお前を育てたんだろ。すごいじゃん」
「お、おう。そうだけどよ。……なんだよ。さっきからグイグイ来やがって。俺らについてはいいのかよ?」
本人がどの口で言っているのかとも思ったが、壮太は特に言及しなかった。
自分でも驚いている。
さっきまで絶望のあまり脳が破壊されていた自分であるが、今気になっているのは信介たちの関係への追及でも怨嗟でもなく、彼の母親についての事なのだ。
彼女の笑顔が頭に焼き付いて離れない。
もっと彼女の事を知りたかった。
「と、とにかく話は終わりだ! もう俺らの関係に口出すなよ?」
壮太から矢継ぎ早に繰り出される母についての質問に信介も薄気味悪く感じたのか、適当なタイミングで通話を切った。
壮太は自分でも不思議に感じていた。
さっきまで憎悪で荒れ狂っていた心は静かな凪となっている。
むしろその心には一抹の温かさが宿っている。
「よしっ」
壮太は決心する。止まるわけにはいかない。
ここで止まったら今度こそ自分は壊れたまま動けなくなる、そんな予感がした。
――それから一か月後。
信介と信介の母である真乃、窓香、壮太の4人は信介の家で顔を合わせていた。
気まずい沈黙が場を支配している。
この面子での話題といえば、先日の浮気の話だろう。
熱も冷めて落ち着いていた窓香は顔色を悪くして震え、一方で信介の方は開き直ってつまらなさそうに鼻を鳴らしている。
やがて真乃が意を決したように口を開いた。
「――ノブくん、というわけで私と壮太君は結婚を前提に交際する事になりました!」
「は?」
「へ?」
突然の実の母からのカミングアウトに当然ながら信介と窓香は呆気に取られる。
奇しくもその顔は、かつて寝取られ映像を目の当たりにした壮太のようであった。
「「……いやいやいや!」」
次いで、ようやく内容を理解した信介は、それでも納得できずに説明を求める。
「話が飛び過ぎて理解できねえよ。どうしてお前らが付き合うんだよっ! しかも結婚を前提に? 何の冗談だ!?」
「いやあ、俺もまさかここまで漕ぎ着けられるとは思わなくて……」
必死に食い下がる信介と、壮太は気恥ずかしそうに頬をかく。
火野真乃に一目惚れした壮太はあの後、何度も彼女にアプローチをかけ続けた。
対して、真乃の方も彼の誘いを断り切れなかった。
彼女は薄々察していた。
息子と息子の友人と彼女の三人に何が起こったのか。
そう、最初は同情と贖罪だった。
自分のような年が一回り以上も離れた女でも、彼の慰めになるならばと付き合っていた。
だが、共に過ごす内に、次第に彼の純朴なで誠実な人柄に惹かれていく自分がいた。
「それで本気になっちゃったと……」
窓香は疲れたように息を吐く。
「すまん窓香、俺は真実の愛に目覚めたんだ」
「私もね。情熱的に迫られて年甲斐もなくキュンと来ちゃったの……」
「えっ。ああ、うん……」
謝られる筋合いはない。むしろ謝るのはこちらの方だ。
そもそも最初に裏切ったのはこちらなのだから。
なんか釈然としない気はするが、この程度は飲み込むべきだ。
「ふ、ふざけんなああ!」
だが、こちらはそうはいかなかったようだ。
「よりにもよって友人の母親だと⁉ ババアまで受け入れてんじゃねえよ! お前等には倫理ってもんがねえのかあ!」
隣の窓香もドン引き気味に今カレである信介を見る。
その友人の彼女を寝取った男が今さら何を言うのか、見事なまでのブーメランである。
「ノブくん……」
「真乃さん、彼にも時間が必要なんだ。わかってあげよう」
「……ええ。わかってるわ」
悲しそうな真乃を優しく抱き締める壮太。
実に堂に入った所作。同じ年齢のはずなのに既に貫禄が違っていた。
この短期間のうちに何が彼をここまで大きくさせたのだろうか。
「ぐぅ……?」
器の違いを感じさせられ、信介も思わずたじろいてしまう。
「信介。俺は信じてるよ。お前がいつか俺の事を義父さんって呼んでくれるのを……!」
「い、いやだああああああああああ!」
信介の魂の叫びが家中に響き渡った。
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