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行を跨がず言えること  作者: 烏合衆国
第一章 言いたいことが/ある
9/46

リョー・フリューゲルの場合③





  ※




「私はタダの人間と竜人の間の子と、タダの人間の、間の子。つまり竜人の血は四分の一しか流れていない。


「私の家族は皆、村の外で生きていたし、私も産まれたのは村外だった。その後、一歳になる前になぜか私だけが村に連れていかれた。これは養い親に教えられたこと。私は父親と母親、どっちが竜人ハーフでどっちがタダの人間だったかも憶えてない。


「人間の母胎では竜人を産めないのではないかという話は聞いたけど。


「養い親だけは、私に尻尾がないと知っても態度を変えず接してくれた。苛められてるところを助けてくれたわけではないけど、それは別に恨んでないし、いつも話を聴いてくれてたから感謝してるよ。


「前も言った通り、それは本能――生存本能だから。


「ただ、その養親の実子、私の義理の弟がいたんだけど、その子には避けられてて。小さい時は懐かれてたけど、成長するにつれて、尻尾のない私に反感を抱いたのか、友だちに何か言われたのか、目に見えて遠ざけられた。


「まあ私はあんまり気にしなかったかな。


「尻尾がないって、そもそもむしろ都合がいいんだよ。竜人はタダの人間と比べて筋肉が発達してるんだけど、私は尻尾がないぶんフツーの竜人より素早く動けるんだ。村では私が一番速かった。それに尻尾はそこまで自由に動かせるわけではないからね。右に左にくらいはできるらしいけど、それ以上は難しいってさ。


「最近の研究によると竜人は元々、角と尻尾に加えて翼も持っていたそうだし。


「尾がなくて得したことといえばこんなこともあった。


「弟と出かけてて――その頃、既に避けられ始めてたけど親のおつかいで――途中、雨が降ってきたから洞窟で雨宿りをしたんだけど、その内部が崩れたんだ。二人共、岩の下敷きになった。


「竜人の皮膚は硬いからそれほどの怪我にはならなかったし、岩をどけるくらいならすぐできた。だけど弟は尻尾が土砂に呑まれてたんだよね。


「私の身には絶対に起こらない状況。私はすぐ脱出できたから、抜け出せないでいる弟を手助けしたんだ。私からしたらまあまあ可愛い弟だったし。


「それで二人共、無事に家に帰れた。そういう話。


「うん、『良い思い出』だね、これは。楽しい話じゃないと、楽しくないから」



  *



 ゲンはその話を、寝そべって流れる雲を見上げながら聴いていた。だらだらと過ごしているわけではない。先ほどまでリョーに稽古をつけてもらっていたのだ。掛かり稽古ではあったが隙を見せればすぐにリョーのほうから打ち込んできた。半刻ばかりでゲンは疲れ果てて倒れたのである。そんな休憩中に、彼女の昔話を聞かされた。


「…………」ゲンはしばらく黙っていたが、やがて身体を起こした。「リョーさん、どうして急にそんな――」そして。



 涙を流しているリョーに気がつく。



「!?」


 彼は慌ててリョーに駆け寄る。「えっと、大丈夫ですか? 何か、辛いことを思い出したり――」


「え? ああ、大丈夫だよ」彼女は何でもないふうに雫を拭う。「ただ――うん、私は()()()()()を、分かっているのに。分かっているのに――私も()()()()になるんだ」リョーは、また涙を落とした。


「えっと……」ゲンはどうしたものかときょろきょろする。リョーは上着で涙を拭くと、「そろそろ戻ろうか――」



 ゲンは。


 リョーの頭に、ぽんと手を置く。



「――ッ!? ッ!?」


「あ、すみません」驚いて首を振ったリョーから、彼はすぐに手を引っ込める。「あの、いつもされる側なので、たまには、と思って」


 一応、年上だからと。


 つかない格好を、気丈にかざして、彼は笑いかけた。


「…………」リョーは。「ありがとう」


 言って、ゲンを抱き締めた。


「――はい」


 彼はそう返す。




「……ごめんね」




 彼女は、


 そうぽつりと、


 秋風に搔き消されるような声量で呟いた。


「……?」ゲンは聞き取れず、「今何て――」と腰を浮かせるが、


「ほら、ご飯にしよう」


 リョーはゲンから離れると、振り向かず歩いていってしまった。


 彼は仕方なく、まっすぐ彼女を追って進む。



読んで頂きありがとうございます!


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