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行を跨がず言えること  作者: 烏合衆国
第二章 言われたいことが/ある
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ソーク・グルテルの場合①


「それで、どうする」


 フクシーが訊いた。


「どうするというと」


「パーティに入るか、入らないか」


「す、好きなほうを選んでいいと思うよ」ソークが言う。


「わたしは入ってほしいなー」


 少し懐いたノリアが、ゲンの膝の上で言った。


 ゲンとしては、他に特にやることも思いつかないため、結構入るほうに心は傾いている。ただし、まだ気になる点はあって、


「その前に。会館に登録するパーティは四人編成までだったと思うんですけど」


 そう、最初期から抱いていた疑問である。ロイツ、ノリア、フクシー、ソーク、これで四人。“剣の舞”(当時)はゲン以外にケン、オート、イーヤ。“オリーブの鱗”(当時)はゲン以外にリョー、フウ、ヒッツ。現行のルールでは、五人パーティを組むことはできないはずだ。


「それは至極簡単な理由じゃよ」


 答えたのはロイツだった。


「儂らは会館に登録していない」


「――でも、クエストを受注できるってことは」


「そりゃあ私たちがハグれ者の(クセ)してレベルばっかり高いから、いろいろ押しつけられるんだよ」フクシーはやれやれというふうに首を振って言う。「まあその代わり、ふつうの登録パーティが受けられるような恩恵はあらかた受けられるんだけど。食堂とか宿泊棟は使えるし」


「お薬もらえるし!」


「図書館も使えるし……」


「――なるほど」


 蓋を開けてみれば。存外大したことはないオチだった。


「じゃあ、しばらくお世話になることにします。よろしくお願いします」


「やった! よろしく!」


 ノリアはゲンの手を取って揺らし、喜びを表現した。


「そうと決まれば歓迎会だ」


 フクシーが機嫌よさそうに言う。


「それはこの前やりましたよね?」




 しかし、実際の話として、このパーティに入って得られるものは多いだろう。何より経験値だ。靁羆レベルの魔物をこれからもクエストで討伐するとなれば、かなりの経験値が見込まれる。それでスキルレベルを上げ――スキル【天元突破】の、更に上があるかは知らないが。


 今まで所属したいずれのパーティよりも、このパーティはレベルが高い。それは単なるスキルレベルの話だけではなく、パーティの錬度についても言える。アタッカーがいないダブルキャスターということで火力が足りるのかと思ったが、靁羆戦を見る限り全く心配はなさそうである。ロイツなどは相当の遣い手だというのが見て分かったし、フクシーもスキル【輪唱】及び【二重詠唱】もとい【三重詠唱】はキャスターの詠唱行為にはたらきかけるもので、詠唱の文言そのものは彼女の腕前であるようだ――しかも、思い違いでなければ彼女は()()()()詠唱をしていた。それがスキルの能力なのだろうか、分からないが何にせよものすごく高度で特殊なことをしていることは、キャスターなら誰でも理解できる。


 そして――その狼に乗る、少女。


 ノリアのスキル【乗込】もとい【乗回】が、彼女が狼に乗れて操れていることと関係しているのはほぼ確実だ。現にノリアが先に降りて、ゲンが狼の背に残された時、ゲンは振り落とされた。分類としては、アタッカーなのか、キャスターなのか。攻撃をするのは狼だからキャスターなのだろうか。


「ノリアのポジションは調教手(テイマー)と呼ばれる。最近はめっきり減ったがの」


 ロイツはそう説明した。


「私もテイマー名乗りたかったんだけど……スキルの名称がキャスター過ぎるからキャスターになった」


 フクシーが愚痴る。


「ぼ、ぼくはキャスター名乗りたかったんだよなあ」続いてソークも言った。「でもドワーフだから……タンクかなって」


 そうなのかとゲンは頷く。やはり彼はタンクで――


 ん?


「ドワーフ!?」


 ゲンの大声に、ソークと、ゲンの膝の上でうとうとしていたノリアはビクッとする。フクシーが膝からおねむな少女を回収した。ゲンは改めてソークと向かい合う。


 ドワーフといえば、最たる特徴が小柄な体躯である。洞窟などの狭くて暗いところを好む特質上そう進化したといわれている、そう、ドワーフは小さいものなのである。


 しかし目の前の男は――猫背だが、ゲンより頭ひとつは大きい。ゲンは平均身長くらいであるから、ソークはドワーフの平均身長の倍はあることになろう。


「う、うん。父親も母親も、ドワーフだから」


「だからうちはハグれ者の集まりなんだって」フクシーがノリアをあやしながら言う。「ソークはドワーフたちの社会に馴染めず飛び出してうちに入った。私も、ノリアも、同じような感じ。ロイツはどうだか知らないけど」彼女は岩の上の男を見遣る。


「儂もそうじゃのう」


 事情は人それぞれ、あるようだ。


 彼自身も二度の追放を経てここに辿り着いたし、かつてのグループでも、仲間と違う身体の形質のせいで追放された者がいた。何となくは、共感できる。


「まあ配慮とかはしなくていいから、た、大したことじゃないし」


 ソークは腰を低く言って、「じゃあ寝床に案内しようか」と言って歩き出す。


 ロイツはようやく岩から降りた。フクシーはノリアを抱きながら狼に飛び乗る。そういえばノリアがテイマーというポジションなことは分かったがこの狼が何者かは聞いていなかった。


 まあそういうことは、追って訊いていけばいいだろう。どうせこのパーティに、しばらく厄介になるのだから。



読んで頂きありがとうございます!


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