幽霊王女と幌馬車の騎士
俺はしがない男爵の妾腹の三男のクリストフ ファンガード、一応親元に居た頃はファンガードの姓を名乗るが
今は只のクリストフ、平民と変わらない身ではあるが平民には無い煩わしい柵が平々凡々の純平民より厄介なのが俺。
そんな評が付く俺は冒険者として身を立てようと、王立学園をそこそこの成績を収めて卒業すると
早々に冒険者ギルドにて冒険者ライセンスを取得すると、厄介者でしかなかった生家を出た。
それからは世界を巡り手痛い失敗なんかも乗り越えてそれこそそこそこの経歴を引っ提げ帰国した。
キリアラナ王国には冒険者パーティーランクB以上、もしくはソロCランクを2年維持した者に
正式な戸籍を与えるという法があり、実力者の保護と囲い込みに努めている制度を利用しての凱旋だ。
通常なら生家のようなしがない貧乏男爵家でも、後々の憂いを断つべく庶子妾腹の子や
正室腹の正当な血統の子であっても病弱だったり身体的精神的な欠損が見られると見做された子は
家から縁を切られて手切れ金を持たせて独立させられたり、知り合い(という呼び名の逆らえない平民)に
引き取らせたり縁付かせたり、温情があれば持参金手切れ金を付けて修道院に押し込んだりするのだが
俺の場合は父の後妻、つまり継母がそれを許さず身一つで家を追い出される事になったのだ。
俺を引き取ってくれた正妻さんは、俺をゆくゆくは男爵家の内で働く騎士か馬車の御者や従僕にでもしようと
きちんと食わせてくれてそれなりの教育はしてくれてたんだけど、正当な後継を生まずに亡くなった。
それからやって来た後妻、コイツが嫁いで来てからの俺の扱いは段々と悪くなって
ドアマットヒロインならぬドアマットヒーローそのもの。
最終的に食事は日に一度、固く酸っぱい黒パンと塩味が素材の味の向こうに僅かに感じ取れる程度の水煮と見紛うスープ。
下働きと同じ様な粗末な麻の服、勉学の道具など与えられず、隠れて家宰のジャームに読み書きを習い
家に残された過去の帳簿から書類作成や計算を覚えた。
王立学園は男爵家という見栄から仕方無く最短コースで騎士科に2年、卒業と同時に勝手に貴族籍から抜かれて
卒業パーティが終わると単なるクリストフとなった。
そうして騎士科の課外授業で取得した冒険者ライセンスの身分の項と、名前を訂正して新たな出発を
ギルド提携の粗末な冒険者宿の一室から踏み出したのだ。
その経緯を知って後見となってくれた親切な準男爵位を持つ近所の大地主とか、ギルドの先輩とか
他人の親切の方がよっぽど有り難かったと今更実家に寄るつもりも無くギルドに直行し、
他国での実績とギルドカードに付属した預貯金手形と呼ばれる
キャッシュカード機能で当面の生活費活動費を現金化し、キリアラナ王国での定住手続きを行った。
元々はキリアラナ王国出身なのに何故このような手続きが必要かというと、生家が何のバックアップも
保証も無しに正に縁切りだけ、文字通り家から放り出す手続きしかしていなかった為に
正規のキリアラナ王国民としての戸籍が無く、流民遊民と同じ立場になってしまったのだ。
だからこそそれなりに実績を上げなくてはならなかったが、逆に他国へ物見遊山感覚で好き勝手に出歩き
様々な国を放浪するのも可能だったのだ。
それでモンスタースタンピートの侵攻を食い止める防衛作戦に加わったり、調薬に関しては
世界一の呼び名も高い魔女の依頼で魔族領の前人未踏の高山へ赴き採取活動に従事し
貴重な鉱物や植物を沢山担いで帰還、しかも知られていなかった新種の薬草もあったとか何とか。
そうした活躍がさと評判が故国にも届いたのか、学園の騎士科の同級生だった軍関係の親を持つ騎士の息子、
今は出世し下士官として働くソイツが俺を心配して声を掛けてくれた。
冒険者は何時までも続けられる仕事じゃないからと。
確かに低ランクのウチはギルドも、薬草集めとか街の雑用といったそんなに危険も無くスキルも要らない
軽作業か単純労働を回してくれ、駆け出しの頃は装備品や活動の為の準備資金もそんなに無いからと
安くて安心な宿屋や食事処を斡旋してくれるがそれも最初だけ。
簡易簡単な仕事は初心者の若者や弱者優先で回される優遇措置としてギルドでも別部署での管理なのだそうだ。
薬草集めでも長く続けていれば要求される知識や採取のレベルアップを求められ、それなりに
専門性、採取の難易度の高い仕事を依頼され、危険な群生地へ出掛けたり扱いにノウハウの要る
難しい植物を扱えるようにならなければ依頼すらされず淘汰される。
街の雑用もだ、貧困や虐待や病人や寡婦、口減しで自身の力で生きざるを得ない子供優先なのは
異世界人が唱えたとか言う福祉だのなんだので、国が貧民弱者を救済するとかいうシステムの代わりに
ギルドがセーフティーネットという機能を果たしているとか。
その他となると専門知識が必要となる大工仕事、配管工、職人、力仕事や魔法やスキル持ちにしか依頼はされず
何時までも単なる図体だけデカい無能に、"お優しい"依頼が入る事はよっぽどの事情が無い限り無い。
そうして大体が魔獣討伐や魔獣の部位採取、ダンジョンに潜りモンスターを倒してドロップ品で稼ぐといった
戦闘がメインの仕事にシフトしていく、他にも商隊の護衛や冒険者では無い一般市民の移動や旅行の護衛と
戦う相手が魔獣から野盗や山賊に変わるだけで基本的に戦闘がメインの仕事になる。
そうするとやはり体力のある若い時しか通用しなくなる、それこそ低ランクの内に自身の適正を見極めて
知識を蓄えたり、人脈を構築し知己を得てコネで何処か安定した職を求めたり、自己鍛錬しなければ
それこそ淘汰されてあっという間にマトラ様の御下行きだ。
その辺は生まれが生まれだったから、俺は読み書き計算は一応普通に生きて騙されない程度には出来るし、
王立学園でそれなりに礼儀作法を身に付けさせて貰い、鍛える事が出来たのが僥倖だった。
それでもキャリアというものを気にしなければいざその時になって泣くのは自分だぞと、かつての同級生のスコットが
あの頃の友情と親切心で俺に態々便りを寄越して軍へと誘ってくれた。
同じ冒険者でもコマンダーとして国軍に所属していた経歴は馬鹿に出来無いと。
そして俺はそれなりの実績があるからキリアラナ王国民としての戸籍取得も容易、軍籍に在った経歴があれば
それなりの信用にはなるから読み書き計算が出来るとアピールすればそれなりの商会への再就職も有利だし
誰か好い女が出来たら結婚という事も視野に入れるだろうから今の内に足場を固めろとの事だ。
そうして数年振りに故国キリアラナ王国に戻って来た。
確かにコマンダーとなると申請すれば、ギルドも国の窓口での手続きは簡単だった。
そうして国軍の傭兵隊に身を置く事となった。
最近は終戦直後という事で急に何処かは出兵とはならない情勢だが、先の戦争で泥沼の消耗戦となった所為で
装備も兵も足りないから、せめて見れる程度の人員を集めておきたいとの募集だからと友人は言った。
任期は一年、それからは情勢で継続するかもしれないが基本的に冒険者に戻るか決められるそうだ。
そして王城側の訓練場横に傭兵隊の宿舎があり、ほぼ毎日訓練だ。
訓練訓練、タダ飯食わせて遊ばせておけないから定期的に城下外の森で魔獣の間引き。
訓練か間引き、そして飯食って寝床に転がって睡眠という暫しの安息、そんな代わり映えしない生活。
それでも任期を勤め上げれば軍籍に在ったとの証明が出るのだ、一年なら我慢しよう、そんな日々のある時
あまりにも美しい奇跡を見た。
王城横の訓練場に場違いな輿が現れ、士官の詰める司令所へと吸い込まれて行った。
誰か士官の婚約者でも見学にでも来たのかとも思った、偶にそんな酔狂な令嬢が
メイドに小振りなバスケットを持たせてサンドイッチだのクッキーといった腹の足しになるのか謎な
見た目だけの食い物を差し入れと称して持ってイチャイチャ見せつけて帰っていくからな。
それでも馬車じゃ無く輿というのは初めて見た。
珍しいと思っていたが、スルスルと手際良く紗の日焼け布を竿で翳して渡り廊下に張り巡らせ
それなりに高貴だと思われる令嬢のお出ましとなった。
ここまて仰々しいと大公家公女とか王族の姫と尊称される貴婦人かなと背伸びをして日焼けの布へと目をやった。
その時、風が布を大きく捲り、隠された貴人の顔を露わにした。
それは僅かな瞬間の邂逅、その貴人は痩せてはいたが﨟たけた美しい令嬢、首が折れるのではないかと思える
豊かな金髪、ヘーゼルの美しい瞳、薄い肩に飾り気の少ないシンプルなドレス。
世間の男共が騒ぎ立てる美人とはかけ離れてはいるが、美しい女人だと思ったがすぐにその姿は
日除け布で隠され再び見る事は叶わなかったが、その姿が何時までも目の裏に焼きついた様に離れなかった。
「あの方は?」
「あぁ、確か末の王女だったと聞いてるぜ」
一緒に訓練をしていたコマンダー仲間のナックとエルスが珍しいものをみたとばかりに教えてくれる。
恒例の見目麗しき騎士の誰かにキャアキャア纏わり付いたり、婚約者ヅラでベタベタイチャイチャ絡み付く
出来損ないの歌劇擬きのバカップルイベントを目の当たりにしなかっただけで清楚なお嬢様だなぁと思ってしまう。
同僚のテアスとジャンミスが今日の見学人がマトモだなと話し掛けたら、その人の素性を教えてくれた。
「末の王女?そんな人いたのか」
全くそんな王女が居たなんて聞いた事が無い、絵姿すら出回って無い王女なのかとビックリして聞き返せば、
王家のメンバーは王様と王妃様、それと王太子のアンドレアス様だけしか知らない。
「なんか体が弱くあらせられるとかで、あまり話題にもならないし名前も一般には公表されてないらしいんだ」
「らしいな、王女様の降嫁を願う家も多いらしいが王様が病弱な姫様は普通の御夫人みたいに社交もままならないし
例え家臣の誰かに降嫁させても苦労するからと大事に奥宮に囲って秘匿してるんだとか。
無論政略結婚させるつもりも無いって話で、王女様の存在を知ってる人でも名前を知らないから
末の王女様としか呼べないとか聞いたな。
いずれアンドレアス様がお妃様を貰ったら、王女様は王家縁の修道院に入られて静かに過ごされる予定だとよ」
「そうなのか」
あんなに綺麗な人なのに勿体無いな、きっと体が丈夫で健康だったら一国の王妃にと望まれ
他国へと美麗で豪奢な輿入れ行列を仕立てて華やかな道を行かれるように、一身に贅と寵愛を受けて
人々の賛辞と敬愛と賛美を尽くした歓声を受ける立場だろうに。
栄耀栄華の限りを尽くして幸福な人生を歩む道もあっただろうが、病弱であらせられるという一点で
それらとは無縁の、名前すら呼ばれないお暮らしをなさっているのだと、その時は日除けの布越しに彼女を想った。
だからなのか何となくだがコマンダーを辞めて旅に出ようと決めた。
あの美しい姫君が笑ってくれるのなら、人生で一片でも佳人に心を捧げたという思い出は
詰まらない人生に彩りを添えてくれるだろう、美しい姫君に冒険の一編を差し出したという
ロマンを生涯の自負としたらカッコイイだろう、唯それだけの理由で。
彼女の事はあくまでも理由にする言い訳の一つだったように思う、どうせこのままコマンダーを続けられる訳でも無く
キリアラナに定住してそれなりにギルドで稼いでも先が知れている。
読み書き計算が出来るからと商業ギルドに鞍替えして、それなりの経験を積んでも行商人か商会の従業員止まり。
その辺の行き遅れた女冒険者か、ギルドの紹介で勧められた女と一緒になってガキ作って
あくせく働いて小さな幸せってヤツに浸って死ぬんだろうなと、安定と微かな諦念の滲む既定路線から飛び出す様に
それらの世間の言う身の丈に合った幸福を振り払って国を出る事にした。
傭兵隊へと誘ってくれた今は下士官の友達、スコットには定住前最後の道楽と言って
定住権を取得後、ギルドカードで出稼ぎ目的の出国と手続きしたと安心させてから旅立つ事に。
まず初めに移動用の幌馬車を買った。
中古だけど頑丈な馬車は、長年行商人をしていた親父が引退を機に売りに出した物だそう。
そして馬車を牽かせるのに普通の馬じゃ無理だろうと、大陸で一番の馬の一大生産地として有名な
キリアラナの端の都市、スレイプニルまで行ってスレイプ馬を購入した。
スレイプ馬は魔獣と軍馬を掛け合わせて作られた従魔で、伝説の神馬スレイプニルにあやかって命名された生き物だ。
とても頑丈で恐れを知らずそれでいて頭が良く、8本の脚で駆ける様は正に神の馬。
相棒にするならスレイプ馬と、騎士から行商人まで馬が欲しい人間からしたら憧れの馬なんだ。
ただスレイプ馬は気難しい生き物で、乗り手や飼い主と認められるまでが大変だという。
だからダメ元でスレイプ馬が買えないかな程度のつもりで馬屋を覗いたんだ。
本当ならスレイプ馬が欲しい、値段は純血の血統馬とほぼ変わらない値段だけれども
肝心のスレイプ馬を御せる御者もセットで雇うのが普通だから正攻法ではおれの手の届かない高級馬だ。
それでも気の合う俺に着いて来てくれるスレイプ馬がいればコマンダー上がりの冒険者の蓄えでも十分手が届く。
ダメだったら普通の馬を交代、買い替えながら旅をし、最終目的地には徒歩で行こうと思っている。
やはり馬屋で囲われたスレイプ馬は全く俺なんか相手にもしようとしないし、店員も無理だろと嘲笑を浮かべて
普通の馬の飼い葉を替える手を止めず、俺の事を冷やかしか物知らずで客じゃないと遇らわれていた。
「誰か、俺と、竜を倒す旅に付き合ってくれないか」
ここで初めて夢物語と一笑に付されて終いと、きっと誰からも本気にされないだろう旅の目的を口に出した。
馬屋の牧場、囲いの向こうで草を喰み人なぞに従うかとばかりに無視を貫いているスレイプ馬の群れから
大柄で、漆黒の艶毛と立派な脚に蹄を持つ立派なスレイプ馬がノソリと近付いて来た。
「来てくれるか」
その問いに一鳴き嘶く、それで決まった。
一か八かの賭けに勝ち、無知で夢見がちな田舎者だと相手にしていなかった冷やかし客が
まぐれをモノにしたと、目を真ん丸に見開いて驚く店員にスレイプ馬単体の金額を支払った。
そうして俺は旅の盟友、バラッドと一緒に倒すべき竜を探す旅に出たんだ。
竜退治、異世界から来た奴等はそう言うがただ闇雲に竜を探し、勝手に狩る訳にはいかない。
竜は神の眷族と言われ、特に神の庇護にある仔竜を一方的に虐殺するのは禁忌とされているので
勝手なドラゴンハンティングはどの国においても禁止されている。
ならばどうして竜を倒すのだと聞かれると、闘いたい個体が一定数いるからだろう。
人間側の理由としては立身出世や売名、そして倒した竜は良い素材として高く売買されるからと
腕に覚えがあれば一攫千金狙いだというのもある。
竜側としては強い人間、稀に生まれる"勇者"という星の元に生まれた強い戦士や、竜を倒そうという強者と
手合わせしてみたい戦闘狂な気性の荒い竜が一定数いる。
そして竜のコミュニティーの中には悪竜とレッテルの貼られた素行の悪い個体も人間に討伐させてしまえと
竜の世界での処刑方法として人間社会に流布した英雄譚を利用している一面もある。
しかし人をその辺の名も無き虫や小動物の一種くらいに考えている竜もいれば、人と関わるのが好きな竜や
人々から尊敬の念を向けられたいからと庇護を申し出る竜、逆に人嫌いな竜はエルフに肩入れしてたりと
その気性や在り方は千差万別といったところ。
そして徒に無謀な人間共が、戦って倒しても良いという竜がいると知れば大挙して押し掛けて来るのは明白。
だからこそそういう竜の棲家や縄張り、そして戦える存在は力ある者だけに伝えられて
無謀な挑戦の果てに無益に死ぬ人間を排除し、無闇矢鱈と竜のテリトリーに人が踏み入る事を許してはいなかった。
だからこそ自分の力を高めつつ、戦ってくれそうな竜を求めて世界を巡った。
バラッドはとても賢く有能だった、幌馬車を引いて一緒に旅をする内に種族の壁を越えて気心が知れた仲となり
何よりも互いを理解し合える盟友として、暑い地方では共に川に飛び込み、舌の根が凍り付きそうな極寒の地では
幌の中で身を寄せ合って毛布を被って温めあった仲だからこそ、その付き合いは生涯続いた。
美しい姫の姿を一目見て、このまま流される不遇の人生を変える、変えられずとも生涯に一つくらい
何か心に誇れる大きな事を成し遂げてみたかったという気持ちはそのまま信念となって
共に竜を倒すという仲間、スレイプ馬のバラッドと一緒にとうとう竜の元へと辿り着いたのだ。
以前高名な魔女の依頼で険しい山へと挑み、希少な薬草を採りに行った事を覚えていれくれたのか
再びこの魔女からの、今度は指名依頼でダンジョンの奥に自生している魔草苔という珍しい苔を採りに行く
そのダンジョンの奥、そこにドラゴンが居ると云う。
「今のアンタなら倒せるよ、アレは命と力をエサに冒険者を喰うドラゴンさ。
今まではダンジョンに潜る冒険者だけを喰っていたから見逃されていたけどね、最近は夜な夜な人化して
人里に降りては選り好みして幼い赤子、まだ歯の生えていない乳だけで育った幼子を喰らうようになったからさ、
もう見逃してはおけないと古老達が決めたんだと、だからドラゴンが欲しいのなら行っておいで」
何故流浪しながら難依頼ばかりを受けるのかと、依頼者として再び顔を合わせた魔女に問われ
目的が竜を倒し、ドラゴン素材を入手して霊薬を作りたいと答えた。
その答えに対しての言葉が目的の闘える竜の居場所と許可だった。
世間に流布しているドラゴンの心臓は何よりの万能薬。
陽に当たるのすら体力を削り、1日の大半をベッドの上で静かに暮らすという幻の末姫。
きっとあの美しい姫が健康になられたのならば、単に末姫と呼ばれていた御方がきっと美しいだろう御名で呼ばれ
何処の王侯貴族の貴公子にだって求婚され、寵愛を欲しいままに、幸福に満ちた人生を送られるだろう。
たとえそれが自分とは一切関わりの無い世界での話だとしても、そんな美しい姫君に霊薬を捧げたという事実があれば
それだけで自分は満足し、あの姫に幸福を差し上げる事が出来たんだと胸張って生きていける。
「いいよ、倒したら持っておいで、すぐにでも万能薬くらい調合してやるわ。
その代わり竜の尾髭を一枚寄越すんだよ」
取らぬ皮算用とはよく言ったものだ、魔女は馬車の荷台に拡大魔法を掛けてやるからと魔法陣を刻んだ魔石をくれた。
だけどバラッドも一緒に休めるようにと、既に拡大20倍魔法を施してある。
幌を掛けた荷台にはバラッドの寝床が用意され、藁も飼い葉も飲み水もたっぷりと蓄えられて
ちょっと高かったけど保存箱も買えたので、新鮮な肉や野菜やバラッドの好きな果物も常にストックがある状態だ。
「随分と可愛がってるんだねぇ」
バラッドを見遣り、魔女は呆れたとの口振りで溢したがバラッドは馬車を引くのだから労わるのは当たり前だ。
それでも呆れたというのは魔女の照れ隠しなのか、荷台を50倍に拡張する魔石の他に
バラッドの体に合わせた回復薬やポーションも調合して持たせてくれた。
そして堕ちた赤竜の住う『空籠の巢』ダンジョンへと向かった。
空籠とは揺籠の中身、つまりは幼児を喰らう竜が住むと何時しか誰とも無く呼ばれ始めた名前だそう。
最初は中で湧いて出るモンスターを倒して先に進んで、竜の住う最下層を目指していたんだが
結界杭を打ち込んでから、馬車からバラッドを外して休ませようとしたその時…
馬車を中心に使い捨ての結界杭より強力な結界が張られ、まるでダンジョン内のセーフポイントのようではないか。
馬車に施された魔石の魔法陣は拡張だけでは無く、馬車へ結界と防御、攻撃無効と保存が掛けられているのが
鑑定石をかざしてみて初めて解った。
これはあの魔女の餞別かと、感謝しながら方針転換。
ダンジョンモンスターのドロップ品やダンジョン内の固有生物や植物の売れそうな所を根こそぎ採取。
一旦引き返してギルドや商会のドロップ品買取りに持ち込み資金を作ると、売上と今までの貯えを叩いて
ありったけの食糧、医薬品、魔法薬、ポーション類、投擲武器、護符という魔法陣の書かれた紙に魔力を流すと
自分で習得していない魔法の行使が出来るという優れ物も作れる物は作り、高度な陣の物は購入して荷台に詰めた。
魔女から拡大魔法石を貰ったので、元々持っていた方の拡大魔石を魔道ギルドに持ち込んで
手持ちの保存箱に取り付けて貰い生鮮食品を限界まで詰め込んだ。
それから仕切り用の暗幕とタライ、ちょっと良い布団も買い込むと教会へ行って魔道照明ランプ2つに
付いている魔石其々に光属性を持つ司祭様の照明魔力をたっぷり充填して貰い喜捨を置いて再びダンジョンへ挑戦する。
その際にダンジョン時計というダンジョン内で活動する時だけに使用する時計をレンタルするのが普通なんだが
俺はレンタルじゃなくて買い取った、時計を貸し出すダンジョンギルドもまさか俺が
年単位長期でアタックするとは思ってもいないだろうなぁと驚かさない為にも時計は購入した。
ダンジョン時計を買う人間といったら大体このダンジョン専門で稼ぐ冒険者くらいだから
俺も新しく『空籠の巢』を根城に活動を始める冒険者だと思ったのかもしれないのだけれど。
そして再びダンジョンの奥へ。
元々竜の情報探しで高難易度の依頼をこなしていた身だ、それなりに稼いでいたし気楽な一人と一頭の旅で
食費や細々した生活必需品を買うくらいで、幌馬車で寝泊まりも多かったから使う事も少ない。
高価な魔導ランプの他に年単位で篭れる程度の必需品購入くらい訳無い、更に水を入手し易くする為に
水魔法の魔石も沢山購入してあるし、偶々出物があったので肩掛けのマジックバッグも買えたから
そこには嗜好品や万一の時の資材や非常食等を詰めておいた。
サクサクとダンジョンの中を進み、ラスボスの部屋へと到着。
其処はダンジョンマスター兼ラスボスと化した幼児喰らいの赤竜が居た。
偶にダンジョンマスターとラスボスが違う事もあるが、此処は赤竜の巣にダンジョンコアが転がり込んだか
湧いたかしてダンジョン化した所だと、古竜が語ったと魔女から聞いた。
このラスボスの部屋というのは、ラスボスか挑戦者のどちらかが死なないと開かない死の扉と呼ばれる封印岩で
部屋が閉ざされてしまうのが特徴だ。
だからこそ熟練の冒険者は自身の実力を正確に測った上で、どの階層までなら戦えてドロップ品を抱えて
地上まで帰還出来るかを知ってダンジョンへと潜るのだ。
よっぽどのバカか根拠の無い自信家か自殺願望があるか、ダンジョン内で仲間と逸れて迷い込むか
悪質な冒険者仲間に謀られて捨てられる位でないとラスボスの部屋に侵入しようとは思わないのが普通だ。
それはラスボス、赤竜側も一緒だと気付いてしまったからこその作戦だった。
遮蔽メガネで視界の防御を固めて閃光弾をラスボス目掛けて投げ入れてから
馬車ごとラスボスの部屋に突入、メガネを外しながら部屋の内部を確認して壁際の良い感じに平らな箇所で
幌馬車からバラッドを外せば其処はセーフポイントになる。
馬車を中心に半径数メートル位は結界の内なので牧草の種を撒いてポーションを振り掛けておき
壁際の少し窪んだ辺りに穴を掘り、牧草の種を入れていた木箱の底を抜いて枠として穴に嵌めてから
水魔法の魔石を投入し、水筒の水を呼水として注ぎ入れれば地下から良質な水が湧いて立派な水源が確保出来た。
その水をバラッドの水桶に汲んでやり、飼い葉をたっぷり与えている間に
壁の上部に魔導ランプを設置して太陽の代わりにし、隣に魔道コンロを置いて大鍋に水を張り
材料の野菜を放り込み、ダンジョンの中でドロップしたホーンラビットの骨付き肉を軽く炙ってから
同じ鍋に入れて塩とスパイスで味付けをしてから、馬車内の荷物を片付けて馬車横にテントを張り
布団を取り出して敷いておくと、何やら外が騒がしい。
閃光弾の激しい光で奪われた視力が漸く回復したらしい赤竜が、侵入者を認めて怒り狂っているらしかったが
既に魔女特製の防護障壁が張られているので、体当たりしようがブレスを吐こうが爆音のみが響くだけで
馬車周りは平穏そのもので、既に芽吹きだし葉を茂らせている牧草を食んだいたバラッドも呑気なものである。
生きが良くて喧しいなぁと、馬車から材木を取り出して組み立てれば小型の投石機の完成である。
一応アカデミア騎士科卒な経歴で、この間までコマンダーとして王国軍の訓練を受けていたので
攻城戦の華、投石機くらいなら製作組み立て位出来なければおかしい。
小型のを作っておくかと、一旦地上に出て物資を集めていた時に作っておいた自慢の投石機に弾を供給する
自動供給機を組み立ててバラッドのまえに置く。
ついでに球供給機にはギルドに依頼を出して作らせておいた"糸玉"を補充しておいた。
糸玉って言うのは其処らの婆様共が靴下だの襟巻きを編む毛糸玉とは似ても似つかない自衛道具だ。
カルオンと呼ぶ掌大の木の実は滋養と滋味に溢れた上手いナッツの殻に、アラクネという巨大蜘蛛の魔獣の
腹から取り出した糸の素となる粘液の詰まった臓物を嵌めた物だ。
異世界人はトリモチだとか防犯ボールだと言うが、コッチでは糸玉という名前でギルドや道具屋で売っている。
魔獣にぶつけてカルオンの殻が割れると中の白いアラクネの糸玉が破れ、糸玉の中身のベタベタして
そのうち固まる液体が魔獣にかかると即座に固まるんで魔獣の身動きを取れなくしてる隙に自分達が離脱撤退したり、
街では年頃の娘が悪戯目的で襲い掛かってくる変質者からの自衛の道具として重宝されている。
バラッドには以前簡単な訓練を受けさせたからコレが何かを良く知っていて、すぐに投石機から糸玉を発射し始めた。
その間に俺は今日から自分達の家の設営をしてしまおう。
そうして今夜の寝床と夕飯の支度、風呂の準備と明日からの食料の心配と、パン種の仕込みをしてから
防具を装着し剣を携えて防護障壁から飛び出したら、バラッドもそれに続く。
四肢と尻尾をアラクネの粘液で固められて身動きの取れない赤竜の肉の柔らかい部位、四肢の付け根だとか
鼻あたりを重点的に攻撃してダメージを与え続け、バラッドも脳天や尾の付け根、脇腹を重点に
駆け抜け蹴込み一緒に戦ってくれる。
硬化したアラクネ粘液が赤竜のパワーに負け始めてヒビが目立ち始めた辺りで今日は撤退、防護障壁の内側に戻ると
投石機でオマケの痺れ薬と辛味の強いハハバネ草の粉末と、苦味とエグ味の酷いゴブリンの皮を削った物を
ブレンドしてスライム粘液に混ぜた物をカルオンの殻に詰めた『対赤竜用弱力弾』を何発かぶつけて、
赤竜が苦しみながら碌々対処も休息も出来ないまま苦しみつつ何時もより
時間を掛けてじっとして自力で回復を待つ間、俺とバラッドはゆっくりと休む事にした。
セットしておいた湧き水を引いた大きめのタライに軽めのファイアを放って湯を沸かすと服を脱いで
ダンジョンの中で初の風呂に心身の疲れを癒しながら体をキレイに洗うと
残り湯でバラッドと服を洗って風魔法で乾かしておく。
洗浄魔法も良いんだけど、やっぱり風呂と洗濯が一番スッキリするよな。
それから先程セットしておいた鍋にはホーンラビットのシチューがいい感じに煮えていて
食糧を詰めた袋からパンを切り、保存箱から野菜を取り出して挟むと立派な夕飯だ。
バラッドにも水で薄めて冷ましたシチューと、リンゴを出して一緒に食べる。
一応スレイプ馬は薄いながらも魔獣の血を引いている事もあって雑食だし、普通の馬もお産や病中病後や
伝令の為に長距離を駆けたとか戦中戦後の疲弊時には薄めたスープをやる事から大丈夫だ。
寧ろこれから赤竜の激しい戦いに滋養を摂って備えて貰わないとな。
「バラッド、そろそろ寝るかー」
馬車の横のテントにはふかふかの布団と毛布と具合の好い枕がある、勿論バラッドの分もだ。
このテントは一片以外は暗幕で仕立ててあるから魔導ランプはそのままでも安眠出来る仕様なんだ。
ちょっと外の赤竜の喚き声が煩いけど、防護障壁はある程度音もカットしてくれるから不眠に悩む程では無い。
向こうさんは食事どころか水すら無くて美味しいシチューの匂いとか、湧き水の流れる音に
障壁を割って内側に入ってそれらを奪おうとしてるのか、体当たりしてて勝手にダメージを受けててウケる。
鑑定石をかざして赤竜のダメージ具合を確かめると、赤竜ってのは精神動物って括りに入ってて
ここのダンジョンマスターでもあるからダンジョンの地中からのマナとやらを吸収する事で多少は回復と
生命維持をしてるらしいんだが、今は空腹と少し喉が渇いてる状況らしい。
それよりも『対赤竜用弱力弾』の苦味や辛味や痺れを洗いたくて水を求めてるらしかった。
毎日少しづつでもダメージを与えていけば、幾ら自己回復力に長けたドラゴンでも倒せるだろう。
ダンジョンのラスボスの部屋に入ってしまえばラスボスを倒すか死ぬか、どちらかでしか部屋は開かない。
俺もだが赤竜も条件は一緒、それより準備と備蓄を万全にし水源を確保した俺より
突然の挑戦に水一杯用意の無かった赤竜の方が不利だろう、それこそ俺の備蓄が尽きるか
赤竜の体力が尽きるかの我慢比べなのだから。
それからは糸玉でヤツの動きを止めてから思う存分、大体一般的な労働時間に+αくらいはヤツを痛め付け
ダメージを与えてから障壁に戻ると風呂とか洗濯、明日の支度をしつつ夕飯を取りバラッドは牧草を食んだり寝転んだり。
そう言えばバラッドにやったリンゴの芯の辺りを障壁の端辺りに投げ捨てたのが、ポーションとダンジョンマナで
爆発的に成長してリンゴの木が勝手に生えてきて花を付けた。
そしてラスボス部屋でもそれなりに?多分赤竜がマスター権限で召喚したのか
勝手にポップするのか、それなりにモンスターが湧く。
魔蛾蝶とかキラービー、ホーンラビット、レッドボアなんかが居る。
俺達に害意を向けなけりゃ障壁は越えられるからソイツ等がリンゴの花の蜜を吸いに来たり
湧き水を流してる辺りで水を飲んでるから、コチラも魔蛾蝶とキラービーを何匹か捕まえてすり潰して
乾かしたリンゴ葉を砕いてスライム粉と混ぜて平たくのばして乾かした紙に乗せ、石と一緒に包んだ物を投石機で
赤竜にお見舞いしたり、レッドボアやホーンラビットを捕まえてはおかずが一品増やしたり
肉片やモツに持参した下剤を仕込んで赤竜が拾い食いしないかなと仕掛けたりと忙しい。
当然俺達に敵意を持った時点で障壁の外に弾かれるから安全、弾かれたモンスターは赤竜の餌になってる。
ソレ目的で召喚してるのかな?
毎日毎日少しずつ赤竜にダメージを与えながらのスローライフ。
ヘトヘトになるまで走り回り剣を振り、疲れ果てて戻るまで全力で赤竜を痛め付けてから
障壁周りに散らばる鱗を拾い、回収してから馬車に乗せて風呂入って飯食って、持ち込んだ本を読んだり
バラッドと遊んだりブラシをかけたり世話をして、勝手に生えてきたリンゴを収穫したり
投石機で赤竜を攻撃したり、そこら辺に落ちてる石を拾って弾を調達したり、持ち込んだ弓矢で赤竜を
障壁内部から射ながら偶には果物や菓子をバラッドと分けて食べたり、コーヒーや茶を淹れて
ゆっくり過ごして(その間、赤竜には猟師特製の肉には影響の無い毒を盛って)休息日を楽しんだりと
他者に煩わされない楽しいダンジョンスローライフを送っていた。
そしてある日、魔女リクエストの尾髭とやらを刈り獲る事に成功。
毎日寝る前に赤竜の状態確認の一環に鑑定石をかざすのを日課にしてて赤竜の尾髭という部位を見つける事が出来た。
下腹の辺りにある長めの一本鱗といったソレ目掛けて毎日毎日剣や戦斧を振るっていたら獲れた!
これで魔女の餞に対するお返しが出来るなと、その日の夕飯にはバラッドと一緒にちょっと贅沢して
ふかふかの白パンにパンプキンポタージュ、此処では入手しようの無い魚のフライに異世界風ソースを添え
とっても贅沢なベリーソルベを出して、ダンジョンに潜って以来のワインを開けた。
バラッドもイケる口らしく、深皿に一杯をあっという間に舐めちまった。
俺も風呂で温まって解れた体に久々のアルコールが良い感じに回って早々に深く寝入ってしまった。
それから何故だろうか、明らかに赤竜が弱り出してダメージがガンガン蓄積されてってるぽい。
このころには糸玉の備蓄が尽きて只の石や、リンゴ葉紙で包んだ即席毒球位しか打ち込んでいないが
動きが悪くなって、足止めしなくても普通に斬り込みに行ける。
価値が下がるから今までは赤竜の目を狙う事はしていなかったが、尾髭の様に獲れるかもしれないと
鼻狙いだったのを目も狙って剣を突き立てた。
今まで使っていた剣は大分使い込んで切れ味も落ちたから、スペアの物に持ち替えての挑戦。
上手い事いって今日は右目を抉り取る事に成功!今までの剣は休息日に研ごうと思う。
目玉は布袋に入れて保存箱に、大分食べたから目玉の一つなら入る余裕が出来たしな。
目玉を獲ったひの鑑定石の結果、ダメージ蓄積が大分、脱水が酷く体力も4分の1程度と出たから
もうすぐ倒せるぞと気合いを入れ直した。
そうしてその次の日から目標を立てて四肢の爪の一本づつ、左目、角、髭、逆鱗と回収しながら
更なるダメージを与えていった。
夜に水を求めての障壁への体当たりも激しさを増し、勝手にダメージを深めていく自業自得な部分もあったけど。
今までなら人化してダンジョンを出て、選り好みして人族の乳児を喰らっていた赤竜が
飢えて餓えてポップしたホーンラビットやレッドボアを丸ごと噛み砕いて血肉を啜っているのだが、
それも間も無く出来無くなる程弱っていくだろう。
そうしてとうとう剥いだ逆鱗の下の柔肉に槍が深々と突き刺さると赤竜は咆哮を上げ、息絶えた。
住み慣れたラスボス部屋の封印が解かれ道が現れ、赤竜の死体がシュルシュルと収縮すると
次の瞬間、ズドンという衝撃が胸に響いて何か途方の無い力が身の内に漲る。
収縮した赤竜の死体はバラッドの3倍位の大きさだった。
それをなんとか馬車の荷台に乗せると、赤竜の倒れた辺りにユラユラと黒い光の蠢く不思議な珠が。
これもドラゴン素材かと拾ってみれば、脳を揺さ振る程の情報が流れてきて
ソレがダンジョンコアだと理解しちまった…
ドラゴン討伐とダンジョン攻略、その二つをやり遂げちまったみたいだ。
それからこのダンジョンからポップするモンスターは10年単位で段々と少なくなりドロップする資源が枯渇して
ダンジョンとしての寿命を終えるだろう。
赤竜を倒した、だから帰ろうとその日と次の日はゆっくりと風呂に浸かり、残った食糧で思い切り贅沢な食事をして
後片付けを済ませてから水源の水魔法の魔石を回収をしてから馬車に乗り込みバラッドに地上を目指すよう頼んだ。
帰路途中のモンスターは、誰が次のマスターなのかを理解しているらしく襲ってくる事は無かった。
そうして地上に戻ってみれば、1年と4ヶ月経過していた。
先ずはとギルドに行って魔女の依頼した魔草苔の提出と、個人依頼の赤竜の尾髭を魔女に届けて貰うよう頼む。
魔草苔は採集が難しい素材なので1年くらい掛かる依頼と、カウンターのベテランも納得してるからまだ
態度は普通だったが、赤竜の尾髭はなんだか判らなかったらしい。
コレが赤竜のモノだとバレると煩そうだと、珍獣の部位だと言葉を濁してギルドから達成金を貰って
その場を後にし、冒険者御用達の安宿の特等室を1ヶ月借りてのんびりする事にした。
魔女の住むのはオシカの森と云う、トンデモないデンジャラスゾーン。
毎日かモンスタースタンピート、毎日が世界終末戦争みたいなヤバさのレベルが桁二つ位違う
一般人じゃ秒で魔獣のオヤツな場所なので、オシカの森のあるオーイアスフォリ領の冒険者ギルドから
唯一オシカの森で生活していける逸般人、オシカの木樵という生業の一族にオーイアスフォリ領主の
ブーヨ伯爵(実務は配下の何某さんがするんだろうが)経由で連絡を入れて貰っての配達となる。
その間は骨休めと、バラッドを狭い所に長期間閉じ込めちまった詫びにと草原に出没するペリュトン狩りに出る事に。
羽の生えた鹿みたいな魔獣で、赤身の旨い肉が取れるんでギルドには何時も依頼の出てるヤツだから
獲れたら売ればいいかと、休息代わりに魔女の返事を待つ事にしたんだがそれより先に
謎の老人御一行が俺を指名しての面会希望だと、ギルドから呼び出しがあった。
そうしてギルドの会議室に通され、5人の見知らぬ爺さんに囲まれた。
その爺さんはギルドにもオシカの魔女の紹介としか言ってなかったらしく、ソイツ等が人化した古竜の一団だと知って
俺もギルドの職員も驚き、立ち会いに残っていたサブリーダーも驚いて狼狽いてギルドマスターを呼びに行ってしまった。
「魔女殿より『確かに赤竜の尾髭を受領した』と伝えて欲しいと伝言があってな、クリストフ殿に会いに来た。
確かに貴殿から竜気を感じる、本当にアレは倒されたのだな」
「そうですか、それで竜気って何ですか?俺はどうしたらいいんですか?
一応魔女さんは赤竜を倒せたら万能薬を調合してくれると言っていたんですけど、依頼料はどれ程になりますか?」
「それについても聞いている、依頼料は先の尾髭で十分だとも。
ドラゴンの万能薬の材料はドラゴンの心臓だけでは無い。
主原料は肝臓なのだ、たからそれを預か魔女殿に届けるつもりで来たのもある。
だが、我々の目的は赤竜の死の確認なのだ。
それと竜気というものは、ドラゴン種を倒した者に宿る倒された竜種の残留精神や竜種特有の念動力の塊の事じゃよ。
その竜気を我等や、勘の鋭い野生の動植物ならば感知して争いにならぬ様避けて通るじゃろう」
膝まである長い髭の爺さんの言葉に、竜気というものが何と無く理解出来たのと
赤竜の死体は馬車に積んであると答えればギルドのヤツ等が煩い。
ギルドを通しての依頼以外の案件なんだから関係無いだろと見遣るが
ギルドを通さなければ無効だとか、ギルドでドラゴンを買い上げるだとか言っているが
コレに関しては俺の目的で素材を集めて、魔女に依頼を出すんだから規約違反では無いと思うんだけど?
それでも煩いから、万能薬の調合依頼をギルドを通してお願いしてみる。
それでも俺が思い立ったドラゴン討伐にイチャモン付けられてムカついたので、
ギルドの取り分は現金払いにしておいてやる。
「じゃあさ、材料持ち込みでオシカの魔女殿にドラゴンの万能薬調合の依頼を出したい。
報酬は先の手付けの赤竜の尾髭と鱗5枚で、ギルドへの仲介料に鱗2枚と金5000枚」
実は鱗なら大した損でも無いんだよ、赤竜がまだ元気だった頃は障壁への体当たり→回復のサイクルで
最初は集めてた鱗も最後は降り積もる程溜まったから回収し切れなかったんだけど、ダンジョンコアを拾ったからかな?
念じればラスボス部屋にアクセス出来て、あの部屋にある物は大体回収出来る事に気付いちまったんだから
鱗の百や二百位、その辺に礼としてバラ撒くのもいいかもと思っているが
そんな事知らないギルドは、200年振りのドラゴン討伐と素材の取り扱いだー!と大騒ぎして
少しでもギルドにドラゴン素材をと、下心を隠そうともしなくて何か嫌だな。
「それから完成した万能薬はそのままキリアラナ王家へ、鱗10枚と共に
末の姫様へと献上致したく思いますのでそのようにお取り計らいお願いします」
それから古老集団は、ギルドもドラゴン討伐に一枚噛みたいから何とかと喚くギルマスの
取り成しをとの雑音を無視してら取り出した赤竜の死体を俺の前でサクサクバラすと
肝臓とか心臓を取り出して肉も加工し易いように解体、骨の一本、血の一滴まで綺麗に選り分けてくれた。
その際に尾髭の話になったんだけど、アレってドラゴンにとっての男版処女膜、童貞帯といった物で
メスと交尾しない限りは取れる事はまず無いという。
ソレを俺が剣で無理矢理剥いだから弱ったのだろうと聞いた、無理に剥がされる痛みは麻酔無しで去勢と同じだとか。
そんな事を聞かされたら同じ男として可哀想な事をしてしまったなと思ったが、
人里に降りて夜な夜な赤ん坊を獲って喰う悪辣非道なドラゴンの末路として当然だと言われた。
元々ドラゴンの幼体はとてもか弱く神の庇護を受けてるからなのか、種族問わず子供を大切にする気風だとかで
アレは悪辣な子殺し赤子喰いの赤竜は、ドラゴン社会から放逐されてあのダンジョンに住み着いた破落戸だとか。
だから討伐出来る者が現れたらサッサと倒して貰おうとは思っていたのだが、まさか後生大事に
尾髭を取っておいた童貞とはと、魔女から見せられて笑わせて貰ったと言われたが
どうもドラゴンというのは人間以上に童貞を早くに捨てたがるというか、メスにモテずに長年独り者でいる事を
恥じるという習性というか風俗習慣のようで、非道を働いているならず者だからこそモテなかったんだと
笑い者にしている辺り、中々性格が悪いと思う。
魔女も本気で薬剤として尾髭が欲しかった訳では無く、軽いジョークのつもりだとかで
アレも普通の鱗と成分使用用途はほぼ一緒だという。
しかし長くて一枚鱗として立派だから、防具とかにしたは見栄えが良くて金満貴族とかに売れね?とか聞いたら
老人達は笑い転げてそれ以上は答えてくれなかったところを見ると、余程マヌケな装備に見えるようだ。
王家へドラゴン討伐の証であり二百年振りのドラゴン素材の献上、その国の国民となった
コマンダーとはいえ、一時は軍籍にあった男が言い出したのだから当然だろうなと受け取られ
トントン拍子で万能薬の献上の手筈は整ったらしい。
王家側も突然のドラゴン討伐と献上の話が沸いて出て、てんてこ舞いだったとは後から聞いた話だが。
それから赤竜の死体を出して見せれば、しっかり討伐したと確認されて勝手に冒険者ギルドランクがS級にしようかとか
ギルドに他の部位を提出というか、提供という名の巻き上げかカツアゲと余計な持ち上げヨイショをキッパリ断れば、
終いには売って欲しいと食い下がられたが最初にタダで貴重なドラゴンを巻き上げようとした
ギルドには売らないと断ると、ランクをペナルティとして落とす云々と脅されたけど
既にコマンダーとしてキリアラナ王国永住権も市民権も得てるから困らない。
更に言えば冒険者ギルドで冒険者カードを剥奪されたとしても、魔女や此処にいるドラゴン一族の古老達の推薦で
魔道ギルドや調薬調達の方面で冒険者とほぼ同等の採取や討伐の依頼が出せると助言を貰った。
因みに、この赤竜カツアゲ未遂事件でここの冒険者ギルドは一回潰されて、マスター以下何名かが起訴され
有罪判決の後に死刑、奴隷落ちからの鉱山採掘現場や闘技場への売却という刑を受けたとか
隣町に人事を一新した新制冒険者ギルドが立ち上げられたとか何とかと、後で聞いた。
一応俺のギルドランクはAに納まり、ここのギルドはヤバいと感じて席を立つ事に。
急いで宿を引き払わないとなと計算しつつ、古老集団にはちょっと田舎の方でバラッドのストレス解消しながら
別の街のギルドで草原系の狩猟依頼でも受けながら適当な棲家でも探すと言葉を濁してその場を離脱した。
俺が居なくなった後に古老集団も魔女に材料を届けに行こうとギルドを後にした足で、国の機関や有力者や
中央の国家間のギルドを調整するグランドギルドへと此処のギルドの不正を告発したりと、大分元気に動き回ったらしい。
やはり長命種だからなのか、超常的な力を持つ生き物だからなのか元気だし
同族の死体を何の躊躇も無く解体するメンタルだし、人と同じ姿を取れるけれど
人間とは全然違う生き物なんだなぁと思う事で気にしない事にした。
そうしてギルドからトンズラし、もう少し西の長閑な街のギルドの冒険者宿に移り
魔女に暫く滞在場所を転々するからと知らせる手紙と一緒にペリュトンの干し肉を送った後は
暫く骨休みだと軽めの依頼をこなしながら、呑気な旅を続けていれば耳の早いヤツ等が聞き付けたのか、
ドラゴン素材を分けて欲しいと押し掛けて来るのを宥め透かしいなして躱して逃げながら
西廻りに気儘な冒険を続けつつ、そろそろ何処かに腰を落ち着けないとなぁと取り敢えずキッチン付きの宿を借りて
ドラゴン肉の処理をし、オイル漬け塩漬け、燻製に干し肉を量産して保存箱に仕舞う。
それから一旦昔世話になったキャンディン準男爵の元へと身を寄せた。
後から知ったが、元俺の家ファンガード男爵家は元々この辺の大地主だったキャンディン準男爵家と
誼を通じる為に娘を嫁に出したり貰ったりと遠い親戚関係あったとかで俺の世話を焼いてくれたそうだ。
少なくともファンガードとは縁も所縁も無い所で暮らしたいと思ってはいるが
キャンデン準男爵には深くお世話になったので、一回お礼に上がらないとと、寄らせて貰ったのだ。
そしてお土産に作っておいたドラゴン肉のオイル漬けと鱗10枚を渡し、キリアラナの定住権と
市民権は既にとれてるから、これから何処かバラッドがのびのびと過ごせる様な田舎に移り住もうと思ってると
告げれば何故か青くなった準男爵…言い辛ぇな、昔の通りジャン小父さんは暫くウチに居なさいと引き止められた。
まぁ小父さんも俺との久し振りの再会に世話焼きの血でも騒いだんだろう。
俺もドラゴン肉は初めて食べるなと、小母さんに干し肉も出して一緒にオイル漬け肉のソテーと
干し肉で出汁を取ったスープを作って食べてみた。
小父さんの跡取り息子のフレデリクも一緒に食卓に着いてドラゴン肉パーティー。
俺が悪いドラゴンを倒して来て、目の前の肉がソレだと知るとフレデリクは男の子らしく
凄いだとか、僕もドラゴン討伐の英雄になる!とか大興奮。
実際、ドラゴン肉は蕩ける様な脂の乗りといい滋味に溢れてとても美味しかったから
後で素焼きのドラゴン肉をバラッドにもお裾分けに行った、バラッドも討伐に加わった一員だしな。
そうして鱗はドラゴンの鱗だと知ると、貴重な品だからと小父さんは慌ててそれを突き返そうとしてきたが
鱗だけは沢山あるし、キャンディン村が飢饉や災害で困った事になった時とか
俺みたいな手助けが要る子供を保護するのに使ってくれと強引に押し付けた。
ついでに鱗を使った滋養強壮薬と解毒剤の調合レシピのメモも一緒に握らせておく、まだ小さいフレデリクは
本物のドラゴンの鱗に大興奮なのもあって、返品しようという小父さんに鱗を無理矢理握らせる助けになった。
それで暫くと引き留められて数日、やたらと豪華でキラキラした4頭立ての馬車がキャンディン準男爵邸に、
準男爵邸というより庭がだだっ広くて土間が広いだけの村長ん家だけど小父さん家に
場違いなセレブリティな世界の馬車が乗り付けるから何事か!?とビックリしたが、小父さんは解ってたらしく
訪れたキラキラ馬車から降りて来たキラキラ貴族服の何かの使者らしき男を丁重に迎え入れ、何時もは村人を案内する
相談室にもなっている広めのナンチャッテ応接室にお通ししてる。
俺は場違いかなと、フレデリクの相手をしながら引っ込んでいようとしたら小母さんに
何時の間にか小綺麗に洗われてパリッと糊付けしてピシッとアイロンの掛けられた俺の一張羅に着替えさせられ
フレデリクを取り上げられて、キラキラ貴族の前へと押し出された。
「クリストフ、王城からのお迎えだそうだ」
「は?」
「ドラゴン討伐なぞして、王女様にドラゴンの万能薬を献上したら
王家の方から何かしらのお沙汰があるに決まっているだろう。
それなのに後は知らんと、あちこちチョロチョロしてたらお使者の方にも迷惑だろうに」
小父さんはこうなる事が解ってたと、頭を抱えて使者の人に何か言っている。
「それで何かありましたか?もしかして王女様にはアレが効かなかったとか…」
「いや、あの万能薬のお陰で姫様は無事健康を取り戻して離宮から奥宮へとお移りになられたそうだ。
それよりクリストフ殿、姫への献身を王はとてもお喜びにあらせらて是非王城へと招きたいとの仰せで
貴殿を探して方々当たっていたのだが、来ては頂けないだろうか?」
キラキラ衣装の使者は俺に城へ来いとの事だけど、人生の記念に一発デカい事をしたかっただけで
それであの綺麗なお姫様が幸せになれるんなら良かった程度の事で、いきなり城へ呼び出されてもと
ちょっと面倒だなと、断りの言葉を探して口に出す前に使者さんが待ってる人間が居ると言った。
傭兵隊に誘ってくれたスコットとか、コマンダー仲間のテアスとジャンミスやアカデミア時代の騎士科の同級生とかが
ドラゴン討伐おめでとう!是非話が聞きたいと言ってるからついでに顔を出しては如何かとも言うので
サクッと城で褒賞を受け取ってから、昔皆んなで集まった城下の定食屋で楽しい再会をすれば良いのではと
重ねて勧められて、取り敢えずは城に行く事にした。
でもあのキラキラ馬車は恥ずかしいから、王都近くになったら乗り換えると約束させられて
バラッドの引く幌馬車でキラキラの後を着いて一緒に行く事に。
そうして王都に着いてから城に直接は行かないで、貴族御用達のホテルという宿屋にバラッドと馬車を預け
何故か俺も軍の礼装らしき服に着替えさせられ、しかもこの軍服って士官以上の生粋の軍閥系貴族の着るヤツだよなと
青くなりながらも有無を言わせずキラキラ馬車に押し込められて、アレよアレよという間に城へ。
馬車のまま城門を潜り抜け広い庭園の道を軽やかに駆け抜けて漸く見えて来た
馬車以上にキラキラしたデカい門。
其処で下車して真っ赤なカーペット敷きのだだっ広い廊下を、槍持ちの騎士の先導でクネクネと右へ左へと
テクテクテクテク歩いて漸く着いた重厚な扉の前、いきなり大声で「竜騎士クリストフ卿、到着仕りました」と
勝手に騎士爵付きで呼ばれてビックリしながらも、王様の座す御前の間だと気を引き締めて
アカデミア時代以来使う事の無かったマナーを懸命に思い出しながらも何とか挨拶をした。
そして顔を上げれば左右に人、人、人!
王様が近くへと呼ぶので謙りながらお側に寄れば、直々に悪きドラゴンの討伐の功を労われ
個人でドラゴンを屠れば自動的に付与されるのが竜騎士というタイトルだと、王様の側に侍る
白髪のお偉方のお爺さんが説明してくれた。
その他にもその竜騎士とやらはドラゴンを倒した者、ドラゴンを手懐けて騎獣とした者の他には
王の後継以外の臣籍降下していない王族男子が成年に達した時に貰う爵位の一つだという事。
俺が赤ん坊を攫って食べる赤竜を倒した功績に報いたいので竜騎士の他に王家直轄地のユーグル平原一帯を
ファングルと改名して与え、俺は今日からクリストフ ファングル竜騎士になったと聞かされ、更には
王様の側に居た凄い美人!この間チラッと見掛けたあの姫様がこっちへと。
「クリストフ様、私の為にありがとう」
喋った!声も可愛い!じゃなくて、あの美人が俺にお礼を言ってくれたよ。
前は遠くから見掛けただけだけど近くで見ると健康を取り戻したからなのか、華奢だけど病弱って印象は無くて
ほっぺも薔薇色に血色良さげだし、これなら何処の王族王子様でもメロメロなのは間違い無いって美貌だ。
「お元気になられたようで良かったです」
それしか言えないし、言う事も無い。
「貴方は私に幸せになってと言ったと聞きました、ならば貴方が私を幸せにしてはくださらないのかしら」
そう言いながら姫様は、王様達の御坐す一段高い所から降りて来て俺に問い掛けた。
「姫様を俺がですか!?」
あまりに唐突な問いに、マナーも習った言葉遣いも全部飛んでって素の言葉が飛び出ちまう。
「私は昔から病弱で痩せて骨と皮ばかりの幽霊王女なんて呼ばれてましたの。
何時も聞こえてくる声は、可哀想だとかお労しいだとか、もうすぐ死ぬんじゃないかって生きていく先や
将来なんて何一つ期待されてはいなかったの。
それでも私を見つけて、私を綺麗だって言ってくれて、その先の幸せを願ってくれる貴方の元に嫁きたいと思います」
綺麗なお姫様が俺と一緒に居たいと言ってくれてるなんて夢か?
「あの、俺は今はこんな服を着せられてますけど唯の平民で、それもとある家の庶子で家から追い出されて
何とかこの国の永住権と市民権を得たばかりの、幌馬車一台しか持たない何も無い平凡な男ですよ」
「ほほ、ドラゴンを討伐して平凡な殿方では無いでしょう。
私だって後は修道院で余生を過ごしてマトラ様のお迎えを待つだけで何も知らぬ娘ですもの」
ニコリと微笑んだ姫様は、俺の所に歩いて来て自然に手を差し出すから思わず受け止めてしまった。
その瞬間、周りから盛大な拍手と王様の側近爺さんからのアナウンス。
姫様の降嫁と俺が姫様を貰うに伴って、俺が公爵になるとか言って外堀を埋められた!
「私グロリアーナと申しますの、クリストフ様にはそう呼んで頂きたいわ」
こうして俺は偶然目にした綺麗なお姫様と結婚し、幸せに暮らす事となったようだ。