1.入学式と初めてのHR
第1話。まずは入学式の日を掘り下げることを課題とし、その他に僕という人格につけられた名前の由来を忍ばせたい。ただし、代筆者は僕だけど、以下に語られる「僕」の物語はあくまでシンの記憶だ。
中学校に到着した時点で、僕は少なくとも自分が他の子達より二十分近くも遅れていると言う自覚があった。車外へ飛び出したのは良いものの敷地内のどこへ行けば良いのか分からない。それでも、急がなければ。空は雲が少し多かったものの、僕は自分が汗ばんでいるのを感じた。クラス表の前で待機していた先生が、中庭の方へ駆ける僕を引き留めた。中年の女の人で、僕よりも頭半分ほど小さい。体はしっかり大人なのに、まだまだ小学校低学年みたいに手が掛かる子だと思われていたらどうしよう。頬が非常に熱かった。
「名前、何ね?」
「長治詩奈です……」
先生は「ちょーじ……」と呟きながらクラス表の中から僕の名前を探し始めた。しかしこれじゃ埒が明かないと思ったのか、先生は「お家はどこね?」と聞いてきた。意図がよく分からない。でも、聞かれるままに答えた。すると先生は先ほどとは違いあっという間に僕の名前を見つけ、一番端のクラスで、出席番号も女子の一番だと教えてくれた。
「体育館の横の二階だから。体育館に入らないように気をつけてねー」
先生はそう言って僕を見送った。体育館の横というのが何なのか分からない。しかし中庭に出てみると、確かに体育館の左側に、コンクリートの別の建物が隣接している。それに二階に続く階段もある。きっとこの建物のことだ。後から知ったのだが、待合場となっていた二階部分が武道場だった。保護者も含めてもはや屋外に誰も人がいないので、僕は更に気持ちが焦って階段を駆け上がった。するとまた別の、僕より小さい先生が待っており、慌てた様子で引き戸を開いてくれた。武道場内は奥の方まできちんと新入生の列ができあがっている。皆僕が来るのを待っていたのかもしれない。僕は顔を真っ赤にしながら、「すみません、遅れました!」と叫んだ。室内の前の方からは「しーなぁだぁ!」と言う声が、後ろの方からは別の何かのざわめきが聞こえた。しかし僕は先生達から靴をビニールに入れて中に入るようにと指導を受けていたので、皆が何に騒いでいるのか分からなかった。
「しーなぁ!」
左端の方へ視線を向けると、照屋崇登が身を乗り出して僕の名前を叫んでいる。そうか、崇登も同じクラスなのか。僕は皆の注目から逃れたい一心で崇登の方へと急いだ。真っ白な制服に身を包んだ崇登は周りの同級生たちよりも大きく見えたが、僕が知っている崇登には変わらないと思った。
「中学校、もう来ないのか心配してたよー。大丈夫―?」
「うん、ごめん、あの、お父さんとお母さんが、コーヒー飲んでたってば」
「そっかー、良かったねー」
「でも、初日から遅刻かもしれん……」
「大丈夫だよ、入学式始まるの、一時半なってからなのに」
会話の間、僕は腰を落ち着かせようと努めた。しかし、後ろに座っているはずの女の子が何故か僕を座らせまいとする。僕は不思議に思ってその子の顔を見た。それは前川小学校で仲が良かった女の子だった。とても優しい子なのに、何故中学校にあがった途端にこんな意地悪をするのだろうか。そう訝っている間に、崇登が言葉を続けた。
「俺、しーなぁの名前、何回も探したのによー。N組だったんだねー」
「N組?!」
僕はビックリしてしまった。端違いだ! 確かに、向こう側で僕の名前を呼ぶ声がする。
「しゅーとー、ごめん! 詩奈、別のクラスだった!」
僕はそう言って大慌てで向こう側へ移動しようとした。しかし靴入りのビニール袋を崇登の元に忘れてしまい、道半ばでもう一度戻ることになった。僕は他の皆がどうか自分達それぞれの会話に夢中になってくれと願った。しかし元々列がこちら向きになっているせいもあり、僕の望みは薄かった。
同じクラスの出席番号2番の男女は悠と彩菜で、僕は2人と1回ずつ同じクラスになったことがあった。小学校ではこの2人が白を着けている覚えがなかったので、なんだかとても新鮮だった。しかし1番の男子は知らない子だった。僕が自己紹介として自分の名前と小学校を伝えると、「俺、しーなぁと同じ前川小だよ。しーなぁが転校生でしょ? 全校朝会で新しい先生が来たと思ったら5年生って言ってってビックリしたのに」と言われた。確かに、そこまで知っているなら前小の子に違いなかった。その子の名前は盛と言い、僕らの出席番号が住所順で、だから出席番号の前半が同じ前川小の子達で固まっているのだと教えてくれた。なるほど、だからあの時先生も僕がどこに住んでいるのか聞いたのか。後ろの方を見渡してみると、確かに知らない顔の子が多かった。そうか、あの子達が古謝小学校出身で、中学校から仲良くなれるのか。皆同じ制服を着ていることもあり、どんな性格の子達なのかはまだ想像もつかない。でも、今僕を取り囲んでいる、盛や悠、彩菜のように良い子達だったら良いなと思った。
新入生入場のため一列となった際、先ほどの階段の途中、男子の出席番号最後で、古謝小学校出身の子が僕に話しかけてきた。その子はトウマと名乗り、中学校初日ともあって緊張していたのか少し早口だったけど、爽やかな笑顔を浮かべていた。勿論、僕も笑みで返す。トウマがパッと利き手を出した時、僕は都会に降り立ったばかりの魔法使いの女の子が礼儀を重んじたのをパッと思い出しながら、その作法を示されたことに非常に嬉しくなった。差し出された手と握手をし、きっと他の子も良い子に違いないと思った。
入学式が終わると、新入生はクラス順で校舎の三階へと誘導され、僕らのクラスは体育館側の端の教室へ入った。誰が装飾してくれたのかは分からないけど、「入学おめでとう」の文字が黒板に書かれている。僕も昔から絵を描くのが好きだった。だからもしこれが先輩達からのメッセージだったなら、僕も来年の子達の分を描きたいなと思った。それに前小には僕よりもずっと絵が上手な子が多かったので、この子達と一緒に作業が出来たら凄く楽しいはずだ。
僕の机は、女子の出席番号一番ということもあり、教壇側の入り口すぐだった。座って先生を待つべきなのかと迷ったが、他のクラスの子達が廊下やピロティに出ているのが見えた。僕も教室こそ出たりしなかったが、誘惑に勝てず前小の子達の所へ行き、同じクラスになれた喜びを分かち合った。周りを見渡してみると前川出身の子達の方が若干多いように思えたが、僕が転校してきてから3年連続で同じクラスだったのは垣花光と朝雲航平の2人だけだった。小学校を卒業する際、こんなにすぐ近くの学校に移動するだけだから泣くほどのことじゃないと思っていたが、教室の半分を知らない子達と共有すると、自分は泣いていた子達の気持ちに鈍感だったな、と思った。
僕は同小の子達と廊下側の窓へと移動し、クラスの配属や制服のことなんかを交えながら、知っている子達に片っ端から挨拶を交わしていった。その際、何度か唐突に古謝小出身の知らない男の子達から「お前、今日遅刻してきた奴だろ」と話し掛けられた。彼らの身長は僕よりも低く、中には僕よりも頭一つ分小さい子も居た。それでも、こちらの教室にぐっと顔を近づけてくるその動作だけで、彼らのエネルギーを見せつけられるかのようだった。僕は彼らの視力と記憶力の良さに感心したものの、突然の質問が何度も続くと体力が削られるので、自分の席に戻ることにした。
席は男女別で出席番号順で並んでいることもあり、僕の席の隣には既に盛が座っていた。しかしその傍にトウマが居るのが意外だった。何でも、2人は中学校入学前からバスケ部の練習に顔を出していた為、既に交友があると言う。「春休みから練習行ったって偉いね」、と僕が言うと、「寧ろ男子はそういう奴の方が多いはずよ」と返ってきた。会話の途中で崇登が顔を出したので、崇登も春休み中に野球部の練習に行ったのか尋ねてみようとしたが、すぐに先生が来て、崇登だけでなく、廊下やピロティに散り散りだった生徒たちは自分の教室へと入って行った。
僕らの担任は金城先生と言って、武道場の引き戸を開けてくれたあの女の人だった。教壇に立った先生は少し緊張気味ではあったものの、「今日から皆さんは中学生で、小学校の時と色々勝手が違って戸惑うこともあると思いますが、先生と一緒に頑張りましょうね」と激励した。でもそう言われると、僕は生意気にも、中学校ってただちょっと学校を移動しただけなのに、というあの気持ちを思い出さずにはいられなかった。そしてすぐに、僕は自分が今教室の端っこに居て、皆の注目の的になっていないからそう思えるんだと反省した。
しかし自分の席との正反対の方、つまりは古謝小出身の子達の方から何だか変な笑い声が聞こえた。僕はおや、と思ってそっちに目をやった。それはまるで、先ほどの僕自身を見ているようだった。でも、古謝小の子達が本当にその態度を先生に見せたのには驚いた。先生もその子達を生意気だと思ったのか「うーん」と声を漏らし、少しだけ頭を搔いた。
「とりあえず、今日はこれから、役員決めをしたいと思います」
するとやっぱり正反対の方から「えー、自己紹介はー?」と声が上がる。先生は困った調子で「自己紹介は各教科するはずだから、今日は役員決めだけで良いんです」と答えた。
「役員決めは出席番号1番の2人に司会をしてもらいます」
先生がそう言って僕と盛の方に目配せをしたので、僕は「はい」と言って席を立った。僕を壇上へと誘導する先生は初めて会うとは思えないくらい、とても僕のことを信頼しているようだった。もしかしたら前川小学校の先生との間で情報共有があったのかもしれない。僕は前川小学校に転校する以前から、学年毎に必ず一回は級長をしていた。しかしそう考えていたのも束の間、教室の向こう側から「今日遅れて来た子だ!」と聞こえた。中学校に到着してまだ2時間も経っていないが、僕はもう既に正反対の評価を与えられているらしい。それが少し恥ずかしかった。
僕が教壇に立ったのを見計らったように、誰かから「遅れて来た子、名前なんね?」と聞かれた。「長治詩奈」と僕が答えると、「何部に入るの?」と続いた。僕は「遅れて来た子」の評価を返上したかったのと、そもそも壇上だから少し畏まる必要があるかなと思い、「バレー部に入る予定です。宜しくお願いします」と答えた。
すると僕に続き盛が自己紹介を始め、気がついたら先生の予定と反してクラス全体の自己紹介の時間に入っていた。役員決めのことを心配していなかった訳じゃなかった。しかし自己紹介が進むにつれて教室中がどんどん騒がしくなったのに加え、盛が僕に一生懸命バスケ部の練習のことを話すので、僕一人では教室中に溢れる勢いを抑え込むのは無理だと思った。そうこうしている内に皆の自己紹介に、好きな食べ物が加わったらしい。皆がそれにあれこれと反応していた。
終盤に差し掛かり、一人の男の子が気だるげに「あー、俺の番かー」と言って立ち上がった。僕に質問をしてきた子だ。その子は身長が比較的高く、僕とそう変わらないように思えた。辛うじて真鶴まづると言う名前は聞こえたが、盛との話で他は聞こえなかった。そして真鶴は最後に、「あ、入学式から遅刻するのはいけないと思いまーす」と付け加えた。周囲の子達が大声で笑う。
「おい、そんなこと言わんでも良いやっし!」
そう言ったのは航平だった。彼は前川小学校のサッカー部のキャプテンをしており、また整った顔立ちをしているのでとても人気が高かった。しかし彼自身は舞台の中央に引っ張られるようなことを嫌がる性格だったので、こういった場面で正義感を露わにしたのが少し意外だった。真鶴が「なんでよ、前川だと遅刻しても良かったばぁ?」と言うと、航平はたじろぎながらも「でも、一時半なる前には来てたやっし。しーなぁ、そうだよね?」とこちらに顔を向けた。僕は本当のところ二人のやり取りをちゃんと聞いていたものの、どうすれば良いのか分からなかった。なので「ごめん、こーへー、盛とお喋りしてたから、今の話聞いてなかった」とすっとぼけて見せた。するとどこからともなく「司会なのに聞いてなかったのかよ」と突っ込みが入り、また笑い声が上がった。僕は先生の期待を裏切って悪いなと思いながらも、航平と真鶴の言い合いが有耶無耶になってほっとした。
ようやく役員決めが始まったのは、鐘が鳴るほんのギリギリ前だった。でも先生はそれを好都合だと思っている節があり、「もう時間もないし、司会の2人にやってもらえば良いんじゃ……」と言った。するとすぐさま奥の方から起立する音が聞こえた。それは出席番号が最後の女の子だった。
「誰も立候補しないなら私が委員長をやります。副委員長は真鶴で。それで良いでしょ」
その子はそう言うと、真鶴本人も含めて皆の反応にびくともせず、教壇に向かってきた。「もう席戻れば?」と言われた時に僕はラッキーと思ったので、「うん、じゃぁ宜しくね」と言って盛と席に戻った。通りすがりに先生の溜息が聞こえた。
2人が教壇に立った時には既に鐘が鳴っていた。他のクラスからの解放感を背中で感じている最中、真鶴が「これから第1回目のHRを始めます」と言った。僕がうちのクラスももう帰る頃なんじゃないのかと不思議に思っていると、真鶴が突然、「まず……。あ、しーなあ、好きな食べ物は?」と聞いた。皆が「初めての議題それかよ」と驚いていた。恐らく、自己紹介で僕だけがそれを答えていなかったのだろう。僕は「たこわさ」と短く答えた。「おっさん臭っ!」と聞こえたかと思うと、「俺ショートケーキとかそう言うの期待してた」と真鶴が言った。ショートケーキでも僕としては何ら問題が無かったので、「じゃぁショートケーキ」と訂正しようとすると、廊下側の窓の外から「うんうん、たこわさ美味しいよな」と聞こえた。
声の方を見てみると古謝小学校出身らしき、色黒の知らない男の子がそこに居た。誰か女の子の声で「高良たから、お前自分の教室帰れよ!」と聞こえたが、その子はそれを無視して真鶴に「ゴリラ、早く次の議題やれよ!」と叫んだ。僕も真面目にHRに参加しないといけないと思って教壇の方を向いたが、その子が「俺、高良奏惟たからかなただ。俺のこと知ってる?」と声を掛けてきた。僕は正直に首を振って、トウマと握手をしたように「初めまして」と手を伸ばした。すると高良は先ほどまでの笑顔とは打って変わり、「はぁ⁉ お前のこと知っている奴と会っているのに、知らないって言うばぁ⁉」と怒り始めた。僕はビックリして上半身を跳ね上がらせたが、気付いたら僕の右手は高良と固い握手を結んでいた。僕が「どこかで話したことある?」と聞くと、高良は「初めてに決まってんだろ」と答えた。
その後も真鶴の「お前、自分のクラスに帰れよ」の言葉を無視し、高良は「そう言えばなんでこずえが前に居んの?」と僕に聞いた。どうやら委員長のことらしい。僕が「あの2人がうちの委員長と副なんだよ」と教えると、高良はうんうんと頷いて、「やっぱりこずえーが級長したんだな。あいつ優しいから、いつも俺に手ぇ振ってくれるんど?」と言った。「試しに今もやってみようぜ」と言われ、僕らは同時に「こずえー」と言って手を振ってみた。しかし委員長は僕らの声なんか聞こえていなかったかのように、何の反応も示さなかった。僕は彼女がHRを運営する上で当然の反応として受け取ったが、すぐ隣で高良が「遅刻した奴と一緒に居るせいで無視されたじゃないか!」と僕に拳を振り上げた。僕がビックリして「え、ごめん!」両手で顔を隠すように身構えた。「やめろよお前、早く帰れ!」と真鶴が叫ぶと、高良は腕こそ下ろしたものの僕を威嚇し続けた。
「しーなぁ、大丈夫?」
廊下の奥から声が聞こえたかと思うと、崇登が困り顔をしながら僕と高良の間に入った。崇登の方が高良より頭一つ分大きく、腕も一回りくらい大きかった。真鶴もそうだが、崇登も高良も同じように髪を丸刈りにしていたので、きっと彼らはその内野球部のチームメイトとして会うことになるのだろう。それなのに今は崇登がかなりの警戒心を見せている。
僕は何か話題を見つけようと周りを見渡して、「皆が同じ制服を着ていても、崇登はすぐに見つけられるね」と言った。すると崇登はビックリしたと同時に顔を赤らめながら微笑んだ。
「俺も今日しーなぁ探したのに、最初見つからなくってビックリしたよ。前だったらピンクとか黄緑とか黒とか探せば良かったけど、皆同じ白いの着てるから探すの難しくって、もう会えないのかと思った。だけどしーなぁが今日目に飛び込んできて流石だと思ったよ。俺、しーなぁがどんな所に居ても探せるはずよ」
抒情的、且つ写実的なその描写に、僕はとても嬉しくなった。小学校の時にせがまれる度に本の内容を教えていたのを、崇登はこうやって報いてくれたのかもしれない。僕は『はてしない物語』を一か月近く掛けて一生懸命読み終えたことなんかを思い出していた。こんな素敵な言葉を言ってもらえるなんて、中学までの道中、車の中で「もう中学校なんて遅刻したって、欠席したって、どうでも良いもん!」と駄々を捏ねていたのが嘘のようだ。僕は崇登の為にもあの時、武道場まで走っていって良かったと思った。しかし教室の隅と外で展開されているはずのこの会話も人の目を集めていたらしく、「しーなぁが目に飛び込んできたのは遅刻したからだろ! お前ら早く自分のクラスに帰れよ!」と真鶴が叫んだ。
クラスを束ねるのに真鶴も大変そうだったけど、一番気を病んでいたのは勿論先生だった。クラスの皆が教室の外を見ては「どうしてうちのクラスは休み時間がないの?」と不平を漏らし、さらには僕らのクラスだけまだ着席しているのを見て、他のクラスの子達がどんどんこちらに集まってきた。それでも、先生は今日中に他の役員決めもしなければと焦っている。しかし、後10分で先生たちの会議もあるらしい。あまりの収集のつかない状態に、先生はとうとう泣き出してしまった。
「こんなに大変なクラスだと思ってなかった……。とっても良い子が居るって聞いていたのに、あぁ、もう大丈夫かしら……」
僕はそれを聞くと物凄い罪悪感を覚えた。多分、本当は僕だけのせいじゃない。でも、先生は明らかに、クラスを運営する上で僕を頼りにしていた。それなのに僕はその期待を裏切るどころか、先生に恥をかかせてしまった。これにビックリしたのか、崇登や周りに居た他の子達も手短に謝って教室へと帰っていった。
僕は先生に「ごめんなさい……」と言ってハンカチを渡した。先生は受け取って涙を拭った後、「役員決めは各委員会のクラス代表者を決めなければなりません。でも先生はもう学年会議に出席しないといけないので、これはもう後で決めます」と言って教室を出て行ってしまった。
僕らはこのクラスだけHRが延長になったのか、それとももう帰っても良いのか判断が出来ず、ただポカンと小走りの先生達を見送った。