「9」悪夢
『ええか? お前はクズや、クズの血と肉を持って生まれた、クズや』
私がこの世で一番嫌いな生き物が喋る、私の事を抑えつけ、頑張って伸ばした髪の毛を刈り上げていく。私は暴れるが、暴れるたびに殴られる。
『お前はクズの俺の跡を継ぐ、そして同じクズを作る。お前はそのために生まれたんや、他に意味なんてない、お前を生んだ母親にもな』
がりぃっ! バリカンの刃が頭皮を削り、私は痛みで泣き叫ぶ。
『幸せそうな人間が折ったら歯ぁ折れ、努力してる人間が居たら無意味を突きつけろ。暴力が支配する世界を作れ、お天道様なんて何もできひんのや』
それでもこいつは私の髪を切るのを止めない、私の髪全てを刈り上げた直後、そいつは私の襟首を掴んだ。
『気味が悪い顔しよって、金玉ついとる癖に女みたいな顔しよって』
もう逃げだすんやないぞ、そう言って私を投げ飛ばしたそいつは、そのまま部屋を出て入った。
この時私は初めて、人生を復讐に捧げてもいいと思った。
(好きでこんな見た目だと思うなよ、社会不適合者の、暴力漬けの犯罪者め……)
何度あいつを憎んだことだろう、何度自分の血を憎んだことだろう。
あいつが死んでも私は自由になれず、結局アイツと同じことで飯を食っていた。
殴って、蹴って、あいつと同じやり方で、何から何まで同じ方法で。
その度に後頭部が痛くて痛くて、震えて、泣いていた。
夜に見る夢は、いつもこの言葉で締めくくられる。
『笑わせんなや、お前が握るのはホウキやあらへん、拳銃や、拳なんや』
いい夢なんて、見たことが無い。