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「7」ご主人様に挨拶

太陽の恵みを、視覚のみでこれほど感じたのは初めてだった。


風に揺れる木々に生い茂る芝生、石が敷き詰められた道を目で追っていくと、この屋敷の中心辺りには噴水があった。飛沫一つ一つが輝き、まるで宝石を散りばめたような美しさだった。


思わず私は走った。走って走って、噴水の前で振り返る。


予想以上に大きな屋敷だった。白い壁に紺色の屋根、西洋の建築様式だという事は、素人の自分でも何となくわかった。


これから自分は此処で働くんだ。希望と期待に胸を膨らませるが、まずはあいさつしなければいけないという事実を思い出した。


「そうだ、ご主人様は……」


メイド気分でルンルンの私は、少し小走りで屋敷の主を探した。ところが、きょろきょろと辺りを見渡すがそれらしき人物はいない、私は首を傾げた。


「出かけてるのかな……あっ、屋敷の裏に居るのかな?」


私は小走りで屋敷の裏側に回った、こんなに広い屋敷なのにとても綺麗でゴミも無い、あのイケメンが一人でやっているとしたら凄いと思う。


(ビンゴ!)


と、そんな事を考えていると、私はそれらしき人物を見つけた。


ゆりかごのような椅子に座っていた。白い白髪をうなじの所で束ね、ベージュの服の上から水色のカーディガンを羽織っていた。手の中には白い猫が一匹、膝の上で気持ちよさそうに寝ている。

若い頃はさぞかし綺麗で優しい女性だったのだろう、決して少なくないしわだらけの顔ですら、私は美しく感じた。


「あら、もう体は大丈夫なの?」


急に話しかけられたため、私は少し慌てた。なので、取り合えず頭を下げた。


「はい、おかげさまでこの通りです。本当にありがとうございます」

「そう、よかった」


にっこりと笑うお婆さんが手招きする、こっちに来いという事らしい。私はゆっくりと近づいた。


「うふふ、可愛い。もっと顔をよく見せてちょうだい」


しわしわの手が私の頬を掴む、ムニムニと揉まれた後、お婆さんはもっと良く笑った。


「綺麗な髪、そりゃそうよね。女の子は髪の毛が命ですもの」

「あっ、私は男です」

「ええ? こんなに可愛いのに?」

「あはは……よく言われます」


やっぱ女に見えるよな~。分かってはいたけど少し悲しい事実を目の当たりにした。


「ところで、私に何かご用かしら?」

「あっ、そのことなんですけど……ここで働かせてもらえませんでしょうか?」


そう言った途端、お婆さんの顔に笑みが広がった。


「まぁ素敵。私もちょうど新しいメイドさんを雇おうと思ってたのよ、燈子もきっと喜ぶわ」

「燈子って……もしかして、あの肌が白くて顔がいい人ですか?」

「あら、もうお友達になっていたのね。そうよ、彼女は時雨しぐれ 燈子とうこ、この屋敷のメイドさんね」


オシャレな名前だな~と、そんな呑気なことを考えていると、お婆さんの言葉が引っ掛かった。


彼女。


え? 彼じゃなくて?


「すみません……えっと」

「私は広永ひろなが 京子きょうこ、京子さんでいいわよ」

「あっ、京子さん。燈子さんが彼女っていうのはどういう……」

「あら、燈子は女の子よ? 私も初めて会った時はびっくりしたけど」


とてもじゃないが信じられない、あのイケメンが男? 自分の事を棚に上げるようで嫌だが、流石に生まれる性別を間違えてはいないだろうか?


「手に持ってるのはメイド服ね、燈子から渡されたのかしら?」

「えっ? あっ、はい。あの、この服のお題が支払い終わるまでお給金は……」

「いいのよいいのよ、燈子のお古だからただであげる、あの子もそのつもりで渡したんでしょうし」


にっこりと笑った京子さんは私の肩を叩く、これ以上言葉を投げかけるのは、失礼だと思った。


私はぺこりと頭を下げ、しゃがみ込んだ体勢から立ち上がる。


「改めて、これからよろしくお願いします、ご主人様」


深く、とても深く頭を下げた。


こうして、メイドとしての私の生活が始まった。


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