「4」はじまり
ベットのすぐ近くから物音が聞こえる、椅子に座ったのだろうか?
思わず身構える、仮にヤるとしても挿れられる側じゃなくて挿してやる、くっそみそにしてやる。そんな謎の覚悟を固めた私は、ヤられる前にヤることにした。
「あらあら、暗くて眠れないのかしら? ごめんなさい、今カーテンを閉めますからね」
と、布団から突撃しようとした私の耳に入ったのは、先ほどのイケメンとはまるで違う声だった。猫を撫でるようなかすれた女性の声、老人だろうか?
そんな事を考えているとカーテンが閉められる音が耳に入る。明るかった部屋が暗くなった。
「食べたいものや、困ったことが合ったらいつでも言ってちょうだいね」
そう言って声の主は部屋から出て入った。扉の閉まる音が響いた直後、私は布団から頭を出した。
「何だったんだ……今の」
明らかにあのイケメンの声ではなかった、私は皿の上に置いてあるリンゴを恐る恐る食べながら、耳を澄ませた。
(……よし、誰も来てないな)
足音がしないことを確認した私は、少し急ぎ気味にベットから立ち上がり、扉を開けて外に出た。
部屋より廊下の方が綺麗だった。
床にはふさふさの白いカーペット、上を見ると電球が埋め込められており、長い廊下の両端には一定の感覚で白い柱と同じような部屋があった。
「まるでお城みたい……」
思わず近くの柱に触れる、なんとなくだが、かなり前に作られた建物だという事が分かった。私は高揚する心音を深呼吸で押さえながら、廊下の前と後ろを見た。
前にも横にも曲がり角と階段がある、どちらに進んでも結果は同じそうなので、私はどちらに行こうか考えていた。
だが、それは唐突だった。
「おっと、もう体調は良いのかい?」
背後からの声。私がとっさに後ろを向くと、そこには爽やかな笑みのイケメンがいた。
自分でも驚くべき速度で距離を取る、思わず身構えてしまう自分が失礼なのは分かっているが、自分がホモになるかならないかの瀬戸際なので躊躇は無かった。
「何ですか⁉ 私をこんな綺麗で絵本の中に出てくるような素敵なお城に連れ込んで!」
「何って、人助けだけど……あー」
イケメン(ホモ疑惑アリ)は何かを理解したのか、頭をポリポリ掻きながら言った。
「もしかして、そこの部屋で言ったこと気にしてる?」
「っっ! 当たり前じゃないですか!」
やっぱりか~。のほほんとした笑みと共にイケメンは片手で平謝りを始めた。
「まぁ仕方ないよね、もう少し詳しく言えばよかった。でも丁度いい、そのことで「これ」を取りに行ってたんだ」
イケメンは持っていた段ボールをカーペットの上に置き、その上に膝を突いた。そのままガムテープを引き剝がし、中身を取り出す。
思わず構えを取りながらまえかがみになる、何故か、あの手の中に在るモノが気になって仕方なかったのだ。
「これだよ、これこれ」
ばさぁっ。洗濯物のように空気を含ませてはたくと、それの全貌が明らかになる。服だった。
「メイド……服?」
白と黒、対極の色を独特の形や配置を駆使して作られたそれは、自分が今日諦めた夢の具現だった。
「そう、メイド服だ」
イケメンは服の肩の部分を小さくつまみ、私にこう言った。
「体で支払うっていうのは別に性的な意味じゃない。一週間、このメイド服を着てこの屋敷で働いて欲しいんだ」
それは、あまりにも唐突過ぎるゴール。
諦めたはずの何かが、いきなり差し出されて、拒否権も無く手の中に握りしめられているような状態。
それでも、私は拒否する気なんてさらさらなかった。




