「18」一日目⑦
「今日は天気がいいわねぇ」
見渡せるほど広い庭に置かれたこの椅子の上で、紅茶を啜る京子さん。
確かに今日は天気がいい、水色の絵具をそのまま広げたような空の上に、不規則ながらも雲がある。太陽も中々に頑張ってくれているが、ちょっと日傘が必要なぐらいだから、頑張りすぎているんじゃないかと思ってしまう。
「こんなに天気がいいんだったら、今日は朝倉ちゃんも一緒にお茶すればよかったかもしれないわね」
「京子さんは間違ってませんよ、っていうか、使用人に対するその謎の優しさは止めた方がいいと思いますよ、調子に乗ったりしたら大変です」
言ってから、京子さんが薄い笑みを浮かべている事に気づき、「僕」は紅茶を啜るふりをしてから目を逸らした。
「ねぇ燈子さん? 私は別に、貴方が要らなくなったから朝倉さんを雇ったわけじゃないの。貴方がゴキブリが苦手だったから雇ったの……あら、もしかして雇った理由が不純だったかしら?」
「……」
そんな事を言わないで欲しかった、これじゃあまるで、僕が勝手な思い込みで駄々をこねている子供みたいじゃないか。
細い目で紅茶を啜り続ける僕に、京子さんの薄い笑い声が入ってきた。
「こんな風に喧嘩するの、始めてかもしれないわね」
「できれば、したくなかったんですけどね」
紅茶のカップを皿の上に置き、僕は椅子から立ち上がった。
何処へ行くのか聞きたそうな京子さんの表情を見るなり、僕は。
「お手洗いに」
少し強めに言って、そのまま席を外した。




