「17」一日目⑥
「無理だろ」
つい数分前に頑張る宣言をしたため、こんな弱音を吐くのは大変心苦しいが、やはりこの一言が口から出てしまう。
隅々まで掃除された空間、古い家の床のタイルによくある黒いカビは一つも無く、この建物を作った大工の熱意と、建物自体が持つ威厳がそのまま生きていた。
手に持っていた某ゴキブリ専用スプレーを床に置き、このキッチンに入った直後に設置した暴ゴキブリの家の中を見てみる。淡い機体だったのが幸いした、すっからかんでもそこまでショックは受けなかった。
「……」
もうこのまま寝てしまおうか……いやいや、いくら綺麗でも床の上だぞ、便所行った靴で踏みまくった床だぞ。言い聞かせ、右腕を枕に寝返った…ーその時だったー。
「あ、ゴキブ
言い終わる前に拳が動かした、床を構成するタイルの一部が砕け散るが、僅か一瞬のタイミングのずれで自分の顔を横切り、扉の方へと向かって行った。
(畜生、仕留め損ねた!)
現役なら今ので仕留めることが出来ていただろうに、取り逃がすだけではなく力の加減を間違え、床を砕いてしまった。
(メイド失格だな……いや、まずはあのゴキブリを殺す!)
「待てやゴラァ! 逃げられると思うとんのかワレぇ⁉」
可愛らしい声と見た目と裏腹に、とても暴力的な口調と走り方で、私はゴキブリを追って廊下に出た。




