表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/24

「1」はじまり

 今日、私は人生の壁から落ちた。


真っ逆さまに。今まで積み重ねてきた努力も虚しく、私は落ちて行った。


「……」


壁に刻まれた数字が私を笑っている、華奢な手に握られた数字は、何処を見ても探しても見つからない。


落ちて行く私は見上げた、壁を登り切って喜ぶ彼らの姿を。

努力が実を結んでいた。手に持っているよりはるかに大きく、立派で、自分がどれだけ怠けていたかを物語っていた。


「……ああ」


私以外にも落ちて行く、悲鳴を上げたり、怒ったり、様々だ。

けれども私はそこまであの壁に執着してはいなかった。単なる興味、暇つぶし、運が良かったら受かるといいなとか、そんな軽い気持ちでしかなかった。


だから別に、このまま落ちて行っても構わないし、なんなら落ちることさえやめても構わない。


「やっぱり厳しいよな、男がメイドだなんて」


そう言って、私は壁から背を向けて歩き出した。

もう一度とか、次こそはとか、そんな希望的観測は無かった。






「はぁぁぁぁぁあぁぁ……」


公園のベンチの上で深いため息をつく、体にも頭にも全く力が入らない。

貯金を貯めて買った参考書や勉強道具、寝る間も惜しんで鉛筆を握った日々が全て無駄だと思うと、全部どうでもよくなってきた。

二回目の受験はやる気的にも金銭的な意味でも無理だ、仮にアルバイトを増やしたとしても、勉強に時間を喰われてしまい、最悪の場合過労で倒れる。


やる気、金、時間、あらゆる点に置いて八方塞がりな自分の状況が、この季節の殺人的な陽光をさらに際立たせた。


「……あつ、い」


ダラダラと汗が出る、止まらない、止まってくれない。

そう言えば昨日から緊張して何も食べていない、思考した瞬間に腹が鳴り始め、一気に腹の底の力が抜けていく。


眠い、そう知覚した瞬間私は深い眠りに落ちていた。

誰かの呼び声が聞こえた気がするが、もうそれを確かめる術は無かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] やられました(笑) 何の試験に落ちたのかなと思って読み進めると、まさかの。いや、笑ってしまいました。 続きが本当に気になります。 更新楽しみに待ってます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ