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第5話 家臣への信


 高定(たかさだ)が主命に背き、結城への使者を出していなかった。

 俺を信用していなかったのだろう。そして金鉱を掘り当てたことで信ずるに足り、責めを負おうとこうして白装束でやってきた訳だ。


「できますれば、若様に介錯をお願いしたく。無理を承知でお願い申し上げまする」


「何を馬鹿なことを」


 よくよく考えれば俺が悪い。5歳児が突然、訳の分からんことを口ばしるようになったとあれば慎重になるのも当然だ。そのうえ、この芳賀(はが)高定(たかさだ)は猪突猛進の武人タイプではない。堅実に外交を切り盛りして守りを堅める内政タイプだ。それを汲むべきは俺の方。


「高定、すまん。俺がことを急いていた。きちんと説明していればこのようなことにはならなかったであろうし、負担を掛けていたことを詫びる」


「そ、そのようなことをっ!!」


「いや、良いのだ。俺が間違っていた。5つの小童(こわっぱ)が突然こんなことを言い出したら俺でも警戒しただろうよ」


「............」


「挙げ句の果てについ先日まで争っていた結城を味方に付けるだなんてな。気が触れたと思われても仕方ない。結城に面する真岡領だからこそ、尚のこと理解できぬだろう」



 しかしどうしたものか。戦国転生などと言って信じるだろうか。少し先の世を知っていると濁した方が良いのだろうか。難しいな。


「高定。これから話すことは他言無用で頼む。また、全てを話してもますます信じられぬだろうから、いくらか濁すことを許してくれ」


「許すなどそのような......」


 平伏したままの高定は、抑えた声量で言葉少なに答えた。俺がこれから衝撃的なことを言おうとしていることを、なんとなく肌で感じている様子に見える。


「俺は、俺が無垢な童で過ごした際に、宇都宮家がどうなるかを知っている。高定がどれほどの骨を折り、宇都宮家に尽くしてくれるかも。真岡城へ落ち延びるおり、馬に揺られながら見たのだ。先の世をな」


「そ、そのようなことが.....」


「先の世では、高定が宇都宮城を取り戻すのに8年掛かっていた。その間、関東はつまらない小競り合いを繰り返し、この地に(ゆう)が芽生えず、ゆっくりと力を蓄えた北条や上杉といった大大名にいいようにされてしまうーー」


 いいようにされてしまうから、なんだというのだろうな、俺は.....。次の言葉が続かず、沈黙が訪れてしまう。俺はとんでもなく身の丈に合わないことを言いそうになっている。





「ならば.......」


 永遠にも思えた数分間の後、高定が顔を上げ、口を開いた。


「若様は関東に覇を唱えるおつもりであられる、そういうことでございましょうか?」


 高定は俺には言えないことをハッキリと言いきった。


 その問いにそうだと言える胆力があればどれだけ楽か。織田信長だったらはっきり言いそうだが、あいにく俺にそんな度量はない。


 そうだ....度量がないなら誰かに頼ってしまえばいい。俺の知識で宇都宮家の力を増幅させることはできるが、前線で戦うのは彼らなのだ。俺自身が無理に宇都宮家を牽引する必要はない。


「ははは、高定よ。どうしたら良いだろう?俺も困っていてな。なにせ俺は5つになったばかりの童なのだ。こんな壮大なこと、どうしたら良いかわからぬのよ」


 そう言って(おど)けてみせると、高定は口を半開きにしたまま固まった。いつも皆の模範たらんと真面目な宿老が、阿呆のように放心している顔が異様に面白かった。


「ははははは!高定、面白い顔をしているぞ!」


「.....くっ....くくくく」


 高定の顔がみるみるうちに綻び始め、ついに破顔した。遠慮のない笑い声が部屋に響き渡る。


「くくく.....ははは!!!卑怯ですぞ、若様!!このように振舞っておきながら、うってかわって童なので分からぬなどと!!」


「そうかあ?死に装束を着ながら大笑いしてるヤツの方がよっぽど変だと思うけどな?!!」


「くはははは!!堪忍してくだされ!!腹がよじれまする!」


「ははは....いや、切るつもりだった腹なら我慢できるだろ」


「堪忍してくだされ!!腹が痛うございます!!」


 全てではないが高定に秘密を打ち明けられて、少し肩の荷が降りた。いつも険しい顔をしているから冗談が通じないおっさんだと思っていたのだが、なかなかどうして良く笑うやつだった。


 この高定となら、きっと上手くやれるはずだ。なんとなくそう思う。




───概ね良好ではあるものの、この時の俺は、何か喉に小骨が刺さっているような、そんな違和感を感じていた。

 俺が知っているのは歴史の結果論だけ。仔細わからぬことを知った風に行動し、痛い目を見るのはまだまだ先のことなのである。




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