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第28話 古河公方攻め


 1551年7月


 年が明け、夏になった。


 暗殺者の凶刃から俺を庇った岡本(おかもと)宗慶(そうけい)は、幸いなことにも快復した。すぐに伊王野(いおうの)が駆けつけたこと、手当てが早かったことなども要因だろう。本当に死ななくて良かった。


 下手人と思われる皆川(みながわ)俊宗(としむね)は、やはり新年の挨拶にも来なかった。古河公方に寝返ったというのが風の噂だ。しかしこれも乱世の定め、一気に古河を獲り、また臣従させてやれば良い。



「伊勢寿丸、どうかな?まだ狼煙は上がらぬかな?」


「まだです。昨日の日暮れに進発しましたから、明日になる可能性も十分あります」


「そうか......」


 宇都宮城内で保護した足利(あしかが)藤氏(ふじうじ)は朝からずっとこの調子でソワソワしている。

 宇都宮城から壬生城へは4、5時間の道のりだ。日が暮れてから出発し、暗闇で寝て早朝に強襲すれば、今日占拠できる可能性も十分ある。藤氏の感覚もあながち的外れではない。


「戦は当家の益子(ましこ)安宗(やすむね)にお任せください。我らが気を張っても仕方がありません。藤氏様、蹴鞠(けまり)とやらを教えてくださいませんか」


「そうだの。われが教えてやろう。しかし難しいぞ?」


 芳賀(はが)高定(たかさだ)にも戦のことは我らに任せて遊んでいろと言われている。もうやることないわ、こうなったら蹴鞠で戦国時代を無双してやるか。


 そんなことを考えていると、宇都宮城の兵士が駆け込んできた。


「若様!!南方の砦から狼煙が上がりましてございます!!」


「おおっ....!!」


「そうか、ご苦労。下がっていいぞ」


 手違いでなければ落とせた合図のはずだ。本数で成否を決めようかとも思ったが、混乱するとまずいと思い、動きありの時だけ狼煙をあげることになっていた。


「恐らく壬生城を落とせたかと。なに、早馬が今日中に来るでしょうから、のんびり待ちましょう」


「うんうん、楽しみだの」


 順調だ。一夜明かし、明日には小山城か。結城にくれてやった壬生城とは違い、さすがに小山城は小山氏の本城だ。抵抗は激しいだろう。


 上手くいけば良いが.......。





*****




 初日とは異なり、翌日から早馬がひっきりなしに戦況を伝えてきた。もはや隠す必要も無くなったからだ。


「初日に壬生城を奪還、同日中に壬生城の補修、同夜小山城へ進発。翌朝小山軍と交戦、同昼に敵方は籠城、翌朝に小山城陥落。都合3日か。悪くない」


「おお....さすがわれの矛、宇都宮家の電光石火よな」


「今のところ上手く行っておりまする。古河公方方の皆川、佐野に動きなし。結城は本城から兵が進発するも真岡軍が迫ると引き返すなど、万事計画通りに進んでおります」


 戦況は良い。選挙の行方を見守る与党選挙事務所のようなヌルい雰囲気になってきているが、それもやむを得ないこと。最早、宇都宮家の当確は間違いなしと言っていいだろう。


「佐竹、小田、里見、千葉に送った遣いは戻ってきたか?」


「いえ、いずれも未だにございます」


 北条の専横を糾弾する訴状と、足利藤氏を保護して古河公方を攻める旨の書状を各家に飛ばしたのだ。これも大義があればこそだ。呼応してくれれば良いが、最悪、様子見でも良い。


 頼むから大人しくしててくれよ.....。


 もはや藤氏と蹴鞠をするどころでは無くなった。俺たちは続々ともたらされる次報をまだかまだかと待っていた。




*****



 開戦6日目の昼すぎ。

 宇都宮城に七井(なない)勝忠(かつただ)が駆け込んできた。彼がもたらしたのは勝利の報。


益子(ましこ)安宗(やすむね)殿、旗下4000。兵の損耗は殆どなく、古河城を落としましてございます!現在、古河城にて足利晴氏、足利義氏の身柄も確保しております!」


 七井がそう叫ぶと、評定の間がワッと沸いた。宇都宮家の古河公方攻めを耳にし、各家は宇都宮城に家臣を送り込み、いち早く最新情報を得んと集まっていたのだ。


「若様!!!おめでとうございます!!!」

「誠におめでとうございます!!これで宇都宮家も───」

「若様に藤氏様!!おめでとうございまする!!」


「ほほほ!ついにわれの時代が来たか」

「...........」


 まだ終わってない。大砲なんてオーパーツめいた代物を投入しているのだから城なんて獲れて当然だ。問題はここから。奪った土地を安定化させなければ話にならない。


「藤氏様、手筈通りに我々も南下し、小山城へと駒を進めましょう。小山家の処分に加えて、藤氏様の家督継承と、周辺国へ書状を出して牽制もせねばなりません」


「あいわかった。頼むぞ」


 古河城は最南端すぎる。結城城にも近く、安全性が確保できない。安全性であれば真岡城がベストだったが、真岡領では皆川、佐野の調略に距離がありすぎる。まずは小山城に駒を進める。


 うまくいくだろうか。北条家はどう出るだろうか。最悪のケースを想定するなら、何としても皆川と佐野を引き込んでおきたい。しかし従わなければ一戦交える必要がある。そうなれば一刻の猶予もない。


「勝忠、着いて早々にすまないが、木砲も運べるか?」


「はっ」


 史実の宇都宮家中は野心の塊だった。俺と藤氏が小山城へ移っている間に誰かが宇都宮城を占拠する可能性もゼロではない。残りの火薬を持っていき、武器とした方が良いだろう。


「さあ行くぞ。ここからが本番だ」


 俺たちはすぐに準備を整え、小山城へと進発した。



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