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第17話 工作は続く


 1550年2月。


 訪問客に対応に慌ただしい正月を過ぎると、のんびりした2月がやってきた。積雪もだいぶ見かけなくなり、遠くに見える田園では、作付けの準備を始めているようだった。




「こっちも頑張らないとなぁ」


 そんなことを呟きながら毎日のように工業区へ出かけ指揮をとっているが、思ったよりも進み具合が宜しくない。


 和釘の量産はとっくの昔に終わり、工業区には労働者の住居や炊事場なんかもできている。どの建物も和風なのが気になるが、これらも加わり、立派なひと区画になっていた。



「やっぱりダメか?」


「そうですね.....。良い感じではありましたが、目標のギリギリで手前で千切れてしまいました」


 いま作っているのはつる巻きバネ。

 基本的に和釘と同じ製法だ。粘土にバネの形をした穴を開けておき、溶鉄を流し込む。鉄の質が良ければ製鉄後に加工できるんだが、今はこのやり方が限界だ。


 出来たバネも目標が高過ぎるのか、思ったほどには伸びてくれない。恐らく炭素含有が多く、鉄が硬いのだろうと思う。木炭の量を減らしたりしてよく伸びるようになってきたが、木炭をこれ以上減らせば今度は炉の温度が上がらず、鉄が溶けない。


「製法に限界があるのか、バネの芯が細過ぎるのか。しかしまあ、これくらいで妥協するか。これだけ伸びれば7〜8割方は上手くいくだろう」


「兄上様、これは一体なんの役に立つのですか?」


 折れたバネをビヨンビヨンと伸ばしながら、お雪がそう(ただ)してくる。


「バネは色んなものに使える。衝撃吸収機構やスイッチとかな」


「すいっち.....?」


 もう九州では何年も前に金属製の国産バネが作られているはずだ。あっちはたたら製鉄、こっちは高炉製鉄とハンデはあるが、九州の田舎っぺに作れるものが関東で作れないはずはない。


「よし、これを500個は量産しておいてくれ。使わなかったらまた溶かせば良いだけだ。気にするな」


「はい」




*****




 お雪とのやりとりを終え、高炉から少し離れた化学棟に足を運ぶ。大抵は毎日これくらいの時間に通っているから、建屋の中では信芳(のぶよし)が俺を待っていた。


「うわ、臭いなぁ。ということは成功したか?」


「成功したのかどうか、私には分かりませんよ。一応、言われたとおりにはやってみましたが」


 信芳が取り組んでいたのは硫黄の抽出だ。


 硫黄鉱物が採掘できない栃木県。苦慮の末になんとか考えついた精製方法は、湯の花からの抽出法だった。黄色が混じった白い(つぶて)を集めよと命じ、宇都宮近辺の源泉付近にあるものを農民に集めさせた。


 農民なのかな?たぶん農民だろう。


 精製方法だが、なるべく黄色い塊を選別してすり鉢を使って砂粒にし、熱湯に良く溶かして沈殿物を取り除く。この沈殿物は湯の花に混じるカルシウムや鉄などだ。これをちゃんと除去しないと純度の高い硫黄は採れない。

 残った溶液を加熱し、乾留(かんりゅう)、つまり水気を飛ばせば黄色い硫黄の結晶が採れる......はず。


「どれ、うん。良いんじゃないか?」


 握り拳くらいの硫黄らしき塊を指で突き、そう呟いた。


 見ただけでは純度の高低は分からないが問題なさそうに感じる。試料がある訳でもないし、まあ火薬を作って火を付けてみれば分かるだろう。

 それにしてもそろそろガラスも欲しいな。不純物が混じらないようにするにはガラスが最適だ。


「出来ていると良いですが」


「肥溜めを漁った甲斐があったな。これで恐らく火薬が作れるだろう。後はどれくらい作れるかだな。余った湯の花はどれくらいだ?」


「もう全部使いましたよ」


「え......?もうない......?」


 これで全部だと?圧倒的に少な過ぎる。期待していた量の10分の1あるかどうか......。マジか、硫黄はこの握り拳1個分だけ?


「すぐに農民たちに集めさせよう。こんな量じゃ全然足らん。戦までに間に合うか心配になってきた」




 もう2月、春はすぐそこだ。


 壬生と那須を攻略しなければならないというのに、大砲の投入が間に合わないのは致命的だ。化学は敵を圧倒する武器になる。ならばこそ急がなければならなかった。


 那須には硫黄があるのに、那須を倒す硫黄がないとは笑い話にもなりゃしない。俺はただただ、資源のない国、栃木県に絶望した。



湯の花からの硫黄抽出法は創作になります。

ただ構成物質や融解温度などを調べる限り、ほぼこれでいけるんじゃなかろうかと思います。

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