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お盆と、僕。

作者: 雅嵐堂

八月十六日、某所、快晴。

今日でお盆が終わる。

明日から始まる予定の仕事のことを思い出して憂鬱になりながら、繁華街を歩いていた。


お盆は実家で過ごした。

久しぶりに会う親戚が並ぶ中、姉の娘だけは春に生まれたばかりで初対面だったのだが、20代前半で結婚した姉と未だに彼女も居ない魔法使いである自分の差をまざまざと見せ付けられた気がして、おめでたい事なのに気持ちが沈んでしまった。

とはいえ沈んでいたのはその時だけで、その後はこれでもかというほどダラダラして仕事の疲れを癒した。

幸い職場から電話は一通も来なかった。

実家を出てからは、電車に乗り、最寄り駅で降り、スーパーに併設しているホームセンターで必要な物を買い揃えた。

レジにカゴを置いた時の店員の怪訝な顔が忘れられない。

すぐにでも店長を呼びにすっ飛んでいきそうな顔だったので少し吹き出して、睨まれてしまった。

まぁそんな事はどうでもいいのだ。

それからずっと歩いている。


最近は仕事以外で外出することもなく、街の風景なんてじっくり見ていなかったのだが、改めて見てみるとこの街はとても端正な装いをしている。

地面のタイル、ブロック塀、木々までもがまるでジオラマのようにそこに存在しているのだ。良い意味で人の手が加わっているのが分かるこの雰囲気が、僕は好きだ。

四車線の車道を挟んだ向こう側の歩道では、子供達が20円の小さな甘い四角錐台を空にかざして楽しそうに笑っていた。

駄菓子屋で買ったのだろうか。いや、最近の子供は駄菓子屋に行かないのだった。悲しいことである。

その近くでテレビのレポーターが、今日の気温が今年の最高気温を更新したという旨をハキハキと告げていた。

カメラに貼られた番組ロゴのシールを見てもどこの局か分からないのはテレビを見なくなったからだろうか。これもまた悲しいことである。

街はいつもと変わらず動いているはずなのに、今まで全く気にしなかった通行人がよく目に止まる。じっくり街を見て歩くことによる恩恵だろう。


繁華街を抜け、地面がタイルからアスファルト、土へと変化していく。

先程ホームセンターで購入した虫除けスプレーを取り出し、腕や足に噴射してから森に足を踏み入れる。

昔はよくこの森で遊んだものだ。虫を追いかけ回して転んだ事も、今では少年時代の良き思い出になっている。

少し歩き回って、ようやく手頃な木を見つけた。

ホームセンターで購入したロープを枝に括り付けて、これまたホームセンターで購入した折り畳み式の椅子を設置。

枝の強度が少し心配だが、まぁ大丈夫だろう。

片足ずつ、椅子の上に足を乗せていく。

椅子の上に立つことなんて行儀が悪い、と父親なら言うだろう。しかし今はそんな事を気にしなくていい。

準備は整ったのだ。

親や職場に言いたい事、後の事、全て実家に行く前に手紙にしたためて玄関に置いてある。その辺に抜かりはない。

ロープを掴む。



そうして。僕は。帰る。返る。還る。

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