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ただ儚く君を想う  作者: 桜樹璃音
第2章 文久三年三月十二日
9/14

5





「あ、璃桜笑ったな?」


「笑ってない! 笑ってないよ、そうちゃん!!」


「嘘つけ! こら!」




こしょこしょと、脇の下を擽られる。




「きゃー、やめてぇ!」




笑いながら布団の上で、二人で転げまわっていれば、スパーンと物凄い音を立てて襖が開いた。




「そそそそ総司!!! まだ夕餉もまだなのに、総司が部屋でいちゃついてるぅぅぅぅ?!」




驚いてそちらを見れば、目のくりっとした可愛らしい少年が、私たちを真っ赤な顔で見下ろしていた。

布団の上で、総司の下に、入り込んでいる私。

そう言えばこの状況は、兄妹ってことを知らずに、普通に見たら、その、


……………健全ではない。




「平助。うるさいよ。なんでいつもそんなに元気いいの」




ふーっとめんどくさそうにため息を零し、私の上から退くそうちゃんの言葉に、この少年が誰なのかを知った。




「藤堂、平助?」


「え? 何で俺の名前知ってるの?」




きょとんと首を傾げる小柄な美少年。

サラリとした黒髪を後ろで束ね、睫毛の長い瞳をぱちくりと瞬く彼。

どうしてそんなにきれいな顔をしてるのだろうか、と劣等感に苛まれた。


ああ、新撰組って本当にイケメンが多いんだ。

というか、私も男の振りするんだったよな、なんてそんなことを考えて何故だか頬を染める藤堂さんをじっと見ていれば、




「大方、総司が話したんだろ」




突然、少年の後ろからにょきっと大柄な男の人が現れた。




「あ、新八さん」


「よう、総司。飯だぜ。男といちゃついてないで、早く来いよ」




こっちは、永倉新八さんか。

本当に史実通り。がたいが良くて、男気にあふれた感じ。

顔は、身体とは少しだけ趣向が異なり、優しげな眼差しが特徴だと思った。

現代だったら、ラグビー部の副キャプテン、って感じ。

さりげなく周りの人たちを見守って、キャプテンのことを支えてそう。




「ってことは、この子、壬生浪士組に入るのか?」




永倉さんの後ろに、もう一人いた。

背が高くて、細マッチョ的なこれまたイケメン。

うっかり、サラリと流れる前髪から除くその色気を孕む眼差しを受けたら、目を回してしまいそう。


もうこれは、誰なのか聞かなくてもわかる。

だって、平成の一部で新撰組の三馬鹿って、言われてるくらいだもの。




「原田、左之助さん?」


「おう、お嬢ちゃん、よろしくな!」




…………お嬢ちゃんって。

私、今男の子の恰好してるはずなんだけれど。




「左之さーん、その子は男の子だよー、目は見えてる?」




藤堂さんに、目の前でぶんぶんと手を振られている。


でも、藤堂さん、顔真っ赤だよ、どうしたんだろう。




「おう、見えてるぜ、総司にそっくりな、男の子の恰好してる嬢ちゃんがな」




……駄目だ、ばれてる。

私、やっぱりオオカミに襲われてしまうのだろうか。




「女だろう、お嬢ちゃん?」


「え、えと…、」


「あーあ、やっぱり駄目か。左之さんは絶対わかっちゃうと思いましたよー、でもこんなに早くばれちゃうとはなー」




総司が、ぎゅ、と守るように私の肩を抱いた。

その温度に、少しだけ顔を覗かせていた恐怖が去り、安心する。




「当たり前さ、俺が女だってわからないはずねぇだろう?なんたって、据え膳くわぬは男の恥、射止めた女は数知れずの、この原田左之助様だぜ!」




……せっかく、心狂わす女の人がたくさん居そうなイケメンなのに。

中身は、すこし、というかかなり……残念らしい。

総司も同じことを思ったのか、さらりと璃桜に伸びていた原田の暑苦しい手をかわし、私を守った。




「さぁて、それじゃあ、紹介します。俺の双子の妹、沖田璃桜です。これからは土方さんの小姓です」


「え、えと、そうちゃんがいつもお世話になってます……?」




こういう時、なんて言えばいいのだろうか。

困って常套句に走れば、総司から剣呑な視線を送られた。




「待ってよ、璃桜。それだと俺がお世話されてるみたいだよ。逆だって。俺がお世話してるんだから」


「……そうちゃん、社交辞令も知らないほど、馬鹿になったの?」


「璃桜こそ、なんでそんなこと言うの。そもそも、璃桜が男らしくしないからこの3馬鹿に女だってばれちゃったじゃん」


「え、それは原田さんが、女の人に慣れすぎてるから…!」




9歳の時から変わらず、総司と些細なことで言い合いになる。

いつも結局、二人とも沈黙して、知らないうちに仲直りしていた。

けれどここには、二人だけでなく、あの3人もいて。




「総司が、そうちゃん………?」


「泣く子も黙るあの稽古をする、沖田総司が、そうちゃんって呼ばれて、そっくりな顔の女と言い合いしてるぞ………」


「やばい、俺、耐えらんねぇ、……………ぶははははは!!!!」




原田さんの大きな笑い声が、響いた。その笑い声に、総司と共にはっと我に返る。




「はー、馬鹿みたい。ごめん、璃桜」


「うん、私も」




仲直りしてみれば、久々なのに、何だかいつもしていたように言い合えたことが、少しだけ嬉しい。

様子を見ていた永倉さんが、みんなに声をかけた。




「はいはい、喧嘩は終わったか?そしたら早く飯行くぞ。早くしねぇと、土方さんがキレるぞ」




やっぱり永倉さんに感じた第一印象は間違ってなかったらしい。




「はーい。璃桜、行くよ」




総司に手を引かれ、立ち上がる。気が付けば、かなり空腹を感じていた。

そう言えば、昼食べてないからか、と空腹の原因に気が付く。

そんなことを思う初めての私に、みんなはにこにこと笑って話しかけてくれた。




「璃桜、って呼んでもいいか? 俺のことは左之さんでいいぜ!」


「は、はい!」


「璃桜さん、俺のことも、好きなように呼んでくれ。幹部のみんなは新八と呼ぶ人が多い」


「新八さん、って呼びます」


「えー、俺も総司さんがいいー」


「駄目、そうちゃんは、そうちゃん」




皆で部屋を出て、歩き始めた。

と、1人その場で固まって動かなかった人がいる。




「ああああの」


「あれ? どしたの平助。早く行こうよ」




藤堂さん、だった。




「あの、璃桜、俺、」




きょとんと首を傾げていれば、ばちり、と目が合う。


瞬間。




「……………………惚れた!!!!!」




………はい?




「は? 何言ってんの平助」




私が反応するよりも早く、隣にいる総司から剣呑なオーラが溢れだしていた。

それを感じているのかいないのか、藤堂さんは吹っ切れたように、走り寄ってきて、マシンガンの如く話しかけられた。




「璃桜、って呼んでもいいかな。俺のことは平助って呼んで」


「え、えと、いいですけど………、」


「絶対ダメ。璃桜が穢れる」


「敬語も無しで! 宜しく璃桜!!」


「え、うん……。よろしく、平、助?」


「璃桜、話さないで、穢れる」


「んで、逢ったばっかだけど、璃桜、好きだ!!」


「え、えと、」


「璃桜、顔赤い。なんで」




そんな可愛いらしい顔で、そんな純粋に、好き、なんて言われたら、誰でも赤くなるでしょう?!

総司からの殺気が半端なく平助に向かっている。

気配に疎い璃桜でも、分るほどの殺気を、総司はダダ漏れにさせていた。




「またまた~そうちゃんてば、やきもち妬いちゃって」




左之さんが、火に油を注ぎ。




「……左之さん、そうちゃんって呼ばないでください。あと………璃桜は、俺のだ」




呟いた総司の腰から、かちゃり、と鯉口をきる音がした。




「えええええ?! 総司ちょ、ちょっと待て!」


「覚悟! 平助!!」




逃げる平助を総司が追うから、2人して中庭におり、追いかっけっこ状態になっていた。




「あーあ、こりゃほっといて先いこう。長くなるぞ」


「え、でも、いいんですか?」


「ああ、こんなの日常茶飯事だ。総司と平助は仲良しだからな」




新八さんに、背を押され、左之さんと3人で先に向かおうとした。

けれど、止まってくるり、と踵を返す。


やっぱり、皆で、行きたい。そう思ったから。




「そうちゃん!! 平ちゃん!!」




声を上げた途端、ぴたりと止まる二人。




「何、璃桜。今僕こいつを斬りたくて仕方ないんだけど」


「……今、平ちゃんって呼んだ……?」




平ちゃん、って呼びたかったんだよね、藤堂平助のこと。

大学の友達が、藤堂平助ファンで、よく平ちゃんって呼んでいたから。


呼んでやったぜ、旧友よ。なんて、バカなことを考えながら。

非常にいらついている総司と、ぽかんと呆けている平助。

そんな2人に、にっこり笑いかけた。




「私、初めての人のところに行くのに、少しでも知ってる人がいてほしいの。そうちゃんと、平ちゃんと、みんなで一緒に行きたいな」





「「…………っ」」




刹那、息をのみ顔を赤く染めて刀をしまい始めた二人。




「璃桜が言うなら仕方ないな。延期にしてあげる」


「俺も、腹が減ってるんだった、早く行こう」




その様子を見て、思う。

総司に、素敵な仲間がいてよかった。1人じゃ、無かったんだね。

二人のところに下りて行って、そうちゃんの右腕、平ちゃんの左腕と自分の両腕を組む。


その楽しさに、無意識のうちに微笑みが零れていたなんて、自分では気が付かなかった。




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