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ただ儚く君を想う  作者: 桜樹璃音
第1章 平成
4/14

4





翌朝。



「……目が開かない……」



あの後布団に入っても、暫く眠りに就けなかったからか、重たく腫れ気味な瞼を無理に見開いて、冷たい水で顔を洗った。


もう3月も半ば。窓を開ければ、まだ肌寒いが、春の木々の香りが入り込む。その儚い残り香に、なんだか気持ちを持って行かれそうになる。


それじゃあ、駄目。

泣いていいのは一年で一回だけ、3月11日だけだって、決めているから。



「よし」



陰鬱な気分を吹っ切るように、気合を入れて出かける支度をした。今では珍しいだろう引き戸を閉じて、戸締りをする。門から一歩踏み出せば、綻びかけた芽を付ける桜の木々が並んでいる。


そう、私の住んでいるのは、京都。

しかも、壬生寺の近く。徒歩20分程度で壬生寺に着く。


その立地で日々を送っている故か、かの有名な新撰組が大のお気に入り。

誠を貫き、儚く散った人達。

それだけでも十分、学ぶに値する人物たちだが、竹刀を振るっている璃桜にとっては、師のように憧れる存在だ。

特に、憧れているのは、新撰組きっての剣士、沖田総司。

彼の三段突きを、一回でも見るチャンスが与えられたなら、必ずどんなことをしても見に行きたいと日々思っているほどの憧れぶりである。


勿論、新撰組だけではなく、幕末史をもっともっと勉強したくて、大学でも歴史を専攻しているくらいだ。


いつか、タイムスリップとかして、会いに行けたらいいなぁ、なんて呑気なことを考え、ゆったりと歩みを進めていけば、春休み中の子どもたちが壬生寺境内で遊んでいる様子が見える。



「あ! 璃桜お姉ちゃん!」


「ほんとうや!」



遊んでいたのは、璃桜の家から数えて数軒となりに住む、小学生の子どもたち。



「こんにちは、みんな元気?」


「うん! 璃桜ちゃんは、どこいくん?」


「私? 私は、ちょっと用事があるの。みんなは、何をしていたの?」



まさかこんな可愛らしい子どもたちに、お墓参りに行くなど暗い話題は伝えられなくて。さりげなく誤魔化して、にこり笑って問いかけた。



「鬼ごっこ! もうすぐ4年生が終わってまうから、残りは遊ぶって決めたんよ!」


「またまた~、健二は宿題やってないやろ。私知ってるんよ!」


「ああっ、璃桜姉ちゃんにばれてもうた!」


「駄目じゃない、健二。宿題はしっかりしないといけないよ」


「璃桜ちゃん、もっとしかったってえ!」



いろいろ言い合って、自分も混ざりきゃらきゃらと笑いあう。屈託ない笑顔に、自分には無い眩しさを感じながらも、この子たちがずっとこうして笑っていられるように、心の底から願った。



「璃桜ちゃん、いかなくていいん?」


「あ、そうだった! じゃあね、みんな! 健二は宿題するのよ!」


「はーい。またね!」


「またな~」



子どもたちと過ごしていたら、あっという間に時間が経ってしまう。


早くしないと、お墓参りの時間が無くなる!

境内を通り抜け、壬生寺から外に出ようと、焦るように一歩踏み出した。


刹那。

ぐらり、と足元が崩れ始めた。



「え……、」



何、これ。何が起きているの。

先ほどまで駆けだそうとしていた足元の地面は、白い光に呑み込まれて。


どんどんと広がっていく白い光に、自身の躰が呑み込まれていく。


それを見て初めに思ったのは。

死ぬの、かな。

…………やっと、みんなのところに行ける。

…………そうちゃんに、会える。


ただ、それだけだった。


子どもたちのはしゃぐ声が聞こえていることから、巻き込んでしまう心配もない。

恐怖も何もなく、流れに身を任せていれば、

…………しゃらり。

簪の揺れる音が耳元でした。


それを合図にしたかのように、ざぁぁ、と桜の花びらに体を拘束される。


桜………?

今は、まだ咲いていないはずなのに。


こんな状況に有りながらも、恐怖がないからだろうか、どこか落ち着いていて、思考は正常に働いた。どんどん勢いを増す花弁に、微かな願いを掛ける。


…………お願いだから、私をそうちゃんのところに連れて行って。


そう願った時。


―――――――璃桜。


低く艶のある声が、耳を掠めて。



ざぁぁぁぁぁ。


一気に舞い散る桜の花弁とそれに伴って放たれる光の渦。



「……………っ!!」



目を開けていられなくなって、瞳を閉じた。


――――――瞬間。


私が立っていた場所は、もとに戻った。

桜の花弁を、一枚残して。







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