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ひらりひらり。
桜が、舞う。
しゃらりしゃらり。
簪が、鳴る。
その奥に微かに見える、漆黒の貴方は。
一体、何を探しているの。
懸命に。
切なく。
その声で、………………何を、呼ぶの。
“アナタハ、ダァレ?”
*平成 3月11日
真っ暗な闇が支配する真夜中。
ある道場に、ひとり。
「……………っ、はぁ……」
ぶん、ぶん、と何かが風を切る音に混じって、息切れの音が辺りに響く。
「今日は、このくらいにしよう……」
呟きを落とし、溜息を零した私は、今まで振っていた竹刀を片付け始める。
「はは……、この杉野璃桜でも、眠れない夜があるなんて」
自嘲するよう、乾いた笑いが口から洩れる。片付け終わって道場の扉を開けば、優しく満月の光が私を照らす。その淡い光さえ、私には眩しい。目を細めてじっと光を見つめれば、無意識のうちに涙が頬を伝った。
………やっぱり、何年たっても、忘れることなんて出来ない。
「………そう、ちゃん」
ぽつりと彼の名を唇にのせれば、決壊する涙腺に伴って当時の出来事をまざまざと思い出した。
そう、あれはもう、10年以上前のこと。まだ両親もいて、楽しい小学校生活を送っていた。
…………………それに。
………私の隣には、いつもいつも双子の兄、惣次郎が笑っていた。
小学校の入学準備の時、ランドセルを買いに出かけた。
惣次郎は黒のランドセル。璃桜は赤のランドセル。
「何で、そうちゃんとりおの色がちがうの?」
2人で違う色のものを持つのはそれが初めてで、どうして黒ではいけないのかと母を困らせたのは、ずっと忘れられない思い出だ。
「色がちがくたって、りおのこと嫌いになんてならないからね」
「うん! りおもそうちゃんだいすき!」
家族みんなで楽しく幸せに暮らしていくんだ、そう思っていた。ずっとずっと、傍にいてくれると、そう思っていた。
なのに。
「…………事故が、起きちゃったんだよねぇ……」
そう、丁度今日の日付。3月11日。日本列島が、軋み、歪み、唸った日。
あの日、私は近所の女の子の家に遊びに行っていた。