本能
今日も授業の内容を、耳から耳へと通過させる。
学ぶことに興味のない俺は、あくびなんかして、時間を無駄に浪費させた。人生は退屈だ。が、真面目に勉強するつもりも甚だない。将来のため、出席だけはしてやってるが、いつ終わるかわからない人生の貴重な一日を、いつ使うかわからないこんな雑学のために削るのは納得いかない。つーか、自由を主張するくせに義務だのなんだの言われると、なんて言うか、勝手だなぁ、と思う。
まあ、それも屁理屈だということは重々承知している。だが、納得いかない。学生の戯言だと思ってくれ。
無駄に過ぎていく時間。まだわからない勉強の意味。
時々、考えることがある。超能力があれば。
なんでも生み出せる能力、人を操れる能力、そんなのがあれば、今、この勉強は全てが無意味となる。
楽して生きたい。そう考えるのは、決して悪いことではないだろう。先人たちも、そう考え、効率化してきた。その証拠が、キカイだ。最近はAIなんかも発達して、人間の働く意味すらも、なくなりつつある。
まぁ、屁理屈なんだけど……。超能力があれば、苦労しないのになぁ。自分の異質な部分と言ったら、月が紅く見えること、くらいか。うん、いらねえ。
月が紅く見えて、メリットを感じたことは一つもない。ただ、「ちょっとオシャレ!」ってくらいだ。十六年も生きたら、そんなの、どうでもいい。
学校が終わると、俺は美術部の課題を仕上げるべく、路地裏へ向かう。今回は「パンク」をテーマとした絵を描きたかった。居心地はよくなさそうだから、写真だけ撮って学校に戻ろう。
商店街の隅の隅。店と店の狭い隙間を潜る。スマホをポケットから取り出し、いいスポットを散策していると、激しい怒号が鼓膜を揺らした。
「ごめんなさい! 来週には用意しますっ!」
「もう待てねえなあ。お前の親、生命保険入っただろ?」
あれは……小学生だろうか? 小さな女の子が黒服に怒鳴られてる。状況と話しから察するに、闇金か。
「まずはお前からだ。安心しろ、すぐに親も送ってやるから」
「やっ、やめて!」
黒服はナイフをチラつかせながら、少女に迫る。これは、かなり危険な状態だ。助けるか? いや、しかし、俺が行ったところで何か変わるか?
ここは素直に立ち去るべきだ。死んだら元も子もない。これが普通の考えだ。そもそも、体が動かないだろう。と、思っていた。
……困ったことに、俺はそんなことはなかった。
死ぬのが怖くない。というか、死んでもいいとまで思ってしまう。自棄ともまた違う、本能的なそれは死に対して驚くほどに寛容だった。
人生は退屈だ。ちょっとくらいスリルが欲しい。
自分でもよくわからない。ただ、ワクワクしている、好戦的な自分が怖い。
気づいたときには、少女を庇う形で、両手を広げていた。