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紅い月
幼い頃からお絵かきが好きだった。
五歳の誕生日。母から貰った二十四色のクレヨン。俺は、白い落書き帳に、自分の感じたことを形にしていった。犬、猫、家族、街。目に映るものが全て新鮮で、描くことでそれをもっと知れる気がした。
「伊月くん、絵がお上手ね」
そう幼稚園の先生から褒められることも少なくなかった。
「お絵かきが好きなの?」
「うん、大好き! 今ね、お月様描いてたんだよ!」
遠い昔の記憶。平凡な毎日が、今は懐かしく感じる。
「せんせー、できたよ!」
「あら、凄いわねぇ。でも…」
そのときから、俺は狂っていたのかも知れない。
先生の不思議そうな顔がそれを物語っていた。
——俺の目に映る月は、紅く輝いていた。