75話 運命―サダメ―
神は真っ白なこの空間でコツコツと地面を踏み締め美咲から距離をとる。
美咲は睨みを利かせ、神の動向を伺う。
神は美咲が欲する言葉を焦らしゆっくりとした口調で人の持つ運命について語った。
「……なるほどな、私の答えによっては私に逆らうとそういう事だろ?美咲」
「ええ……もう私は止まらない、彼女の為……私の為に」
「ならば、教えてやろうお前ら人間や生きとし生けるものの運命を」
含みを持った言い方で神は更にこう美咲へ話を続けた。
「勿論……私が決めている。が、誤解しないでくれ俺は貴様らに絶望を与える事はもちろん……時にはそれに釣り合うような希望を与えている、このバランスは俺が決めているがな」
「ぐっ……やっぱり……全部はアナタの手のひらの上って事ね」
「フン……そうと言えばそうだな。ちなみに美咲。お前にはこっちに転移させた時に少々お前の運命のバランスを少しいじったがな」
「くっ……やっぱり……私がこっちに来て頑張っても何も上手くいかないのはアナタのせいだったのね」
「ああ、そうだ……元人並み少女が魔界で勝ち上がって行き、そして苦しみ絶望する。君の異世界人生とても楽しませてもらったよ」
「……ふざけないで……これも、あれも全部アナタの手のひらの上だったなんて!! 絶対に許さない」
「うああああああああ!!!」
美咲が身体強化リミットを極限まで外し神へ反抗する。
――ドゴン!!
建物も何も無いこの空間でさえ、その衝撃により次元の歪みを発生させ雷を纏い空間を振るえさせ文字通り渾身の一撃を美咲は神向けて放つ。
__バシッ!!
美咲最大級の攻撃をいとも簡単に掌で神は受け止める。
「……いい加減お前らはその無力さと愚かさを自覚するといい」
「……ッ!?」
ギリギリっ。
神が少し手に力を入れ掴んだ美咲の手を徐々に圧縮する。
とんでもない痛みに美咲は手を跳ね除け神から距離をとる。
「……ハァハァ……」
まずい……アイツには私の強化攻撃が効かない……。
ならば……。
美咲は強化された跳躍力で神の視界から消失する位距離を取り、短縮呪文を詠唱する。
「こないだ作ったこの技ならいっけぇええええ」
『メテオバレッド!!!』
美咲の身体中の魔力を火球に変えうち放つ。
メラメラと燃え盛る火球の隕石が神向け降り注ぐ。
神の鼻先まできた隕石が半透明になり無効化されみるみるうちに消失する。
「無駄だ……その程度では私に触れる事など不可能」
「この程度か……美咲、何度かこの神聖な空間に足を踏み入れた人間は居たがそいつらより……お前は弱い……この程度なのか?あまりがっかりさせていでくれよ。」
__バシュ!!
神が素早く左腕をかざすと眩いばかりの光が広範囲に照らされその衝撃で美咲は竜巻に飲まれた瓦礫の様に哀れ吹き飛ばされてしまう。
「きゃああああ!!」
そして強い衝撃で壁に打ち付けられそのまま倒れ込んでしまう。
「…無様な」
「……!?」
遥遠くに居たはずの神が自分の耳元でそう囁く。
「運命の配分は我々神が取り決めてるとは言え、その逆境から這い上がれるかは貴様ら人間の努力次第だ……甘えるな、抗え……」
――ブォオオオオン
神がまた左手をかざすとそこからとてつもないエネルギーが発生し神々しく手が光り出す。
そして、神は手を地面に向けかざすと球体状だった光のエネルギーが大きい魔法陣のような形を形成しそこから仮面を付けたこの世の物とは思えない形相の怪物が生まれる。
恐ろしくもまた神々しいその存在は顔として捉えられない不気味な仮面もさながら神聖なその顔に似つかわしくない不気味な身体サイや恐竜の様なザラザラした質感の皮膚に触手を持った下半身。
そんな幻獣がワラワラと三体も召喚される。
「俺は知っている……お前がこの程度で根を上げるようなか弱い少女じゃないってな」
「……ふふ、舐めてくれるじゃない……あんたが仕組んだこのくらないサダメ私が打ち砕いて上げるんだから」
「う。うーー」
「アルラウネ!! 観てて私の超絶カッコイイ所!! わたしはぁ!!!! 絶対に諦めないうぉおおおお!!!!」
美咲は神と再び戦う為。
アルラウネの魂を取り戻す為。
神の召喚した三体の怪物へ向かいその足を前へ前へ踏みしめるのであった。
走れ!!美咲、未来へ!




