70話 クランケ
暗い暗い通路を抜けた先の治療室にアルラウネの遺体がある。
そこへ美咲はリミィを連れアルラウネ蘇生の為に二人は治療室へ向かい歩いていた。
真剣な眼差しをしながら一人、何かを思い込んでいるような顔をする美咲へ向け今日会ったばかりのリミィは美咲に対し口を開く。
「……貴女、この長かった魔物と人間の争いの勝者なのに、何故そんなに思い詰めた顔をしているのかしら」
少し意地悪な言い回しで、リミィが美咲へ向け疑問であった「何故そんなに思い詰めてるの」と問いただす。
「確かに、私達は勝ったよ……でも、大事だった物が壊れて、私が欲しかった物は何だったんだろうって思っちゃってね」
美咲は初対面だったからこそ、リミィへ偽ること無く自分の今の心境を語った。
「ふーん、私には多分分からない感情だけど、魔王の貴女にも色々あるのね」
そんな会話をしているとあっという間に時が過ぎ、美咲とリミィはアルラウネが眠る『治療室』に来ていた。
美咲がパチンと指を鳴らすと不思議な力で扉が開いた。
――ゴゴゴ。
魔王城内に設置された治療室はとても衛生的とは言えず、リミィが愚痴を零す。
「ひっ……ここ汚いわね、魔王様。とても人が人を治療する所とは思え無いんだけど?」
その愚痴に対し美咲は華麗な皮肉でこう返す。
「知らないよ、だって私最近ここの魔王になったんだから」
「へー、そうなの?」
「ええ、て言うか貴女には口じゃなくて手を動かして欲しいんだけど」
「フン、言われなくても私の指先が疼いてるわよ」
皮肉めいた美咲を追い抜き死した患者であるアルラウネの方へ向かう。
「今助けてあげる、私の可愛い可愛い患者さん」
リミィはどこからともなく取りだした白いゴム手袋を装着し指をうねらせる。
そして持っていた大型のカバンを開け、白衣に着替えボロボロになったアルラウネの死体が浸かっているいる培養液に目を向ける。
機械に管理された土台の上に円筒形のガラスケースが立っており、その中の緑色の液体に漬けられたアルラウネの遺体をまじまじと見てリミィは恍惚な表情で静かにこう言う。
「ふふ、可愛い……」
そしてリミィは白衣と一緒に取り出した魔道具を手にする。
「えっ!! ヒールって魔法でするものじゃないじゃないの?」
リミィが取り出したメスやかんしと言った現世の外科で使う様な医療道具を目にした美咲はこの世界のヒーラーへの疑問を質問する。
「いえ、魔法よ?魔王様、この魔道具は私の魔法を増幅してくれるだけのものだから基本的に治療は魔法でするわよ」
現世の物と違い、リミィのメスは握るとありとあらゆる所が発光していていかにも『魔道具』と言った所だろう。
「す、すご! 私初めて見た……こんな道具」
「ふふ、まあ見てなさいって」
「……んで、魔王様出してくれるかしら……これ、やり方教えてくれれば私勝手にやるけど」
「……」
美咲がムッとした表情をして、少し間を開けてから美咲が口を開く。
「大丈夫、私が開けるから触らないで」
美咲が培養液に漬けられたアルラウネの方にゆっくりと歩き培養液の前に立ちガラスケースに手を当てると美咲は一言親愛なる部下の名前を呼ぶ。
「……アルラウネ……」
今助けてあげるからね……
美咲の瞳からポタリと一粒の涙が頬に伝った。
「また、おしゃべりしたいな」
美咲はアルラウネの事を見ていると自然に溢れてくる一緒に居た頃の記憶が脳内を駆け巡り、これ以上アルラウネとの感傷に浸ったら涙が止まらなくなると思った美咲はこぼれ落ちてくる涙を自ら食い止めアルラウネの上司らしく、彼女の復活に今は全力を尽くす。
「な、泣くのは後だ!! 美咲がんばれ私」
――プシュゥウ。
美咲が培養液の下にあった機械管理されたボタンのスイッチを押し、培養液を解除しアルラウネの遺体を解き放つ。




