60話 自らのチェックメイト
「ぐっ……殺せ……魔王、俺はここでチェックメイトだ」ゼノスは屈辱にも自らの口で降参の言葉を魔王美咲に向けそう告げる。
――カラン、カラン。
ゼノスは握っていた剣を自らの意思で地面に投げ捨てた。
「――!?」
美咲は、自分によって命の危機に際した勇者ゼノスが取ったこの行動に対し、動揺した。
「貴方……勇者軍のトップの癖にこんなとこで諦めるの?」
この程度のピンチで剣を納める勇者に美咲は心底落胆した。
「ねぇ、つまんないよ、向かってきてよ……それがあんたら勇者でしょ?」
勇者の取ったこの行動は美咲の思い描いていた勇者像に傷を付ける。
絶対的なピンチに対し、絶対諦めないそれが勇者美咲はそう思っていた。
そう……今はいないあの人の様に。
「悪いな、魔王さん……俺は分かっちまったんだ、幾つもの命をやり取りをして来た俺はもう分かってる」
「お前には手を出しては行けない、そんな禍々しさをお前に感じるんだ、だから俺はお前と戦わない」
美咲の圧倒的な強さをその豊富な戦闘経験が故に、感じ取ったゼノスはそう美咲に告げる、言わばこれは勇者なりの英断なのであった、『絶対』の力及ばない相手には手を出さない。
一件マイナスに取れるその勇者の選択は実は多くの命を預かる、彼にとってその選択は正解であった無駄な戦闘を避け、そして戦闘で勝てないと悟ったゼノスは人間だげが許される言葉と言う武器を彼は使った。
「……俺を肉なり焼くなり好きにしてくれ、俺は降伏するよ」
「それに、お前は魔族じゃない言葉が通じる人間だ、話し合わないか、お前ら魔族と人間のこれからを」
何故彼女が、魔王であり人であるかの状況を彼は把握出来ては居なかったが勇者は魔族に、魔王の心に歩み寄っていく。
そんな言葉を彼は美咲向け、言い放った。
この完全なる勇者の降伏宣言は美咲を激怒させ
る。
「……ぐ、……」
それは美咲の魔王としてのプライドそしてそれと同時にゼノスを倒す事で美咲はこの世界から帰れると言った誓約をこんな男が握っていると思うと憎くて、じっとしていられなかった。
「なんなの? 貴方達勇者はホント勝手で、――せない、許せない!!」
「うあああああああ!! 消えろ!!」
美咲の身体から邪悪な気が散漫し、辺り一面に邪悪なオーラが立ち込めた。
――ヴォオオオン!!
降伏した勇者ゼノスに対し彼女が取った行動は、彼の降伏に対する拒絶であった。
「死ね!! 死ね!!!」
禍々しい魔力のオーラに包まれた、美咲の身体は変わり果てドロドロに溶けた一つ目の化け物に変化した、その目からはマグマの様なグツグツとした、液体が零れ落ち、それに触れた物が溶解する。
「グアアアアア!!」
化け物と化した美咲が、逃げるゼノスを追い続ける。
辺りの岩や、地面が身体から漏れ出す液体によってドロドロに腐食し溶け始める。
「グギュアアア!!!」
「何!? くっそ、コイツ!! ダメだ、全く話が通じねぇ!!」
怒りにより、化け物と化した美咲は勇者の命を奪わんとそのこの世のものとは思えない手で、ゼノスを追い立てる。
「……まずいな、やはり、戦うしかないか」
ゼノスは圧倒的なその力に諦め、いや合理的な選択を一度取ったが、こうなった以上『駄目で元々』と言うことわざ通りに足掻いてみることにした。
「グォオオ!!」
天空より、迫り来る攻撃を全て交し逃げ回るゼノス。
「見えた!! そこかぁ!!」
――ジャギン!
攻撃の際一瞬の隙を見せた、美咲に反撃の一手を懐から取り出した短剣をクナイの様に投げ付け、それは露出している弱点であろう目に当たった。
『ギィアアアア!!』
美咲は痛みにより悶絶し、化け物の様な声を上げた。
「――ハァハァ……やったか!」
――そして。
「その、言葉……私の世界ではフラグって言うんだよゼノス君♪」
「なにっ!!?」
化け物の姿に変わり、そして自分が今急所を捉えたであろう敵の少女がその姿ではなく元の人間の姿で自分の前にクナイを持ち立っている……脳で処理出来ない現実に勇者は絶望感に追い立てられた。
「クスッ……バイバイ」
――ズサッ!!
「ありがと、楽しめたよ☆ でも、もうおしまい君も君達も」
美咲が四天王ゲロスを翻弄した時と同じ戦術である瞬間移動を発動しゼノスの裏を取る。
「グハ!!……どうして……」
「ふふ、教えない、あの世で生まれ変わるまでにちゃんと考えなぁ~にひひ私からの宿題☆ また会おうね勇者ゼノス君」
「ぐっ……悪魔め……」
「天晴れだその力……いつの日にか貴様はその力に自ら苦しめられる事だ、覚悟しておけ人間の魔王」
――バタン。
そして皮肉めいたその言葉を最後に
勇者の目は閉じ息が途絶えた。




