ジェスター・ルーフィーその3「大切な事」
ジェスターは国家反逆罪で捕えられ、同時にジェスターに協力していた者たちも捕えられた。ジェスターの『邪眼』によって操られていた人々も解放された。何人かは精神的にもダメージも受けていたので王宮で専門家によるメンタルケアを受けた。カリンとクレアは『邪眼』による精神への影響はなかったがめちゃくちゃ落ち込んでいた。
「はぁ~~」
「ふぅ~~」
ジェスターの事後処理を終えて数日が経ったが、まだカリンとクレアの心の傷は癒えずシャーロットの部屋でうつむきながら長いため息をついていた。
「あなたたち、いつまで落ち込んでるのよ。私は気にしてないって言ってるでしょ?」
「私たちが気にするんですよ」
クレアが暗い声で返す。2人は先日のジェスターの一件で『邪眼』によって洗脳され、さらに主であるシャーロットに刃を向けたことをかなり引きずっていた。特にカリンのダメージは大きかった。口数が減り笑顔も最近は見ていなかった。
「私が姫様を攻撃しそうになるなんて…」
「カリンもいい加減立ち直りなさいよ、私が調子狂うわ」
「だって、姫様を攻撃しようとしたのよ!?…あの貴族めぇ…許さないわぁ」
「いやカリンあなた洗脳が解けるやいなやジェスターに殴りかかってたじゃない。止める頃にはジェスターの顔がボコボコだったわよ」
「あれくらいじゃおさまらないよ~、それに…うぅ~!」
別の事を思いだし頭をかきむしる。
「あの女~ここぞとばかりに罵りやがって~!」
ジェスターの一件は王宮内には当然知れ渡った。そしてその話は現在王宮に見習い薬師として働いているヴィクトリアにも伝わった。ジェスターはシャーロットに繋がるような人物のみ『邪眼』で洗脳していて現状シャーロットから遠い位置にいるヴィクトリアは対象にならなかった。故に『邪眼』に墜ちてしまったカリンをここぞとばかりにバカにした。
「くそおぉぉぉぉ!悔しいぃぃぃぃ!」
微妙に落ち込んでいる理由がずれているような感じのカリン。それでも落ち込んでいることには変わりない、シャーロットは2人の手を取った。
「姫様?」
「え?なに?」
「2人は私の誇れる臣下で友人だよ。ジェスターの尋問であなたたち2人には一番深い洗脳を施したって言ってたわ、そんな状態でもあなたたち2人はあの時必死に抗っていたじゃない」
「でも、完全には振り払えなかった…」
「あの男の『邪眼』に負けて…」
「でも抗った!」
2人はシャーロットの顔を見た。そこには力強く頷くシャーロットの顔があった。
「『完全にふりきれなかった』じゃなくて『完全には支配されなかった』って私は思っているわ、しかもそれが私への強い想いがそうさせたならとても嬉しいことよ!」
「姫様…」
「それにあの『邪眼』っていうのはね“古の呪法”っていうすごい呪術らしくて、抗えたこと事態すごいことなのよ」
「姫様ぁ」
「姫様」
涙ぐむ2人にシャーロットは優しい笑顔を向けた。
「悪い方にばかりとらえないで、あなたたちはとても頑張ったんだから!胸をはりなさい!」
「姫様ぁ~!!」
涙を流しシャーロットに抱きつくカリン。クレアは静かに涙を拭った。シャーロットは泣きじゃくるカリンの頭を優しく撫でた。
ジェスターは罪が確定後、爵位を剥奪され王宮内にある魔力保持者専用の特殊な独房に入れられることになった。持っていた『邪眼』はシャーロット自らが能力のみを封印した。しかしそれがなくてもジェスターはシャーロットに対して完全に負けを認めていて『絶対に逆らえない相手』と心にも刻まれているので今後再び謀反を考えることはなかった。
そして今回もお見合いは失敗に終わったが、そのおかげで国家転覆を考える貴族をあぶり出しとらえることができ、『邪眼』という呪法について知ることができた。結果的に国のピンチを未然に防ぐことができた。その事実をシャーロットは複雑な気持ちで受け止めるのであった。