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完璧姫様の婚活奮闘記  作者: 長星浪漫
6人目ローランド・テクスチャ
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ローランド・テクスチャその1「久しぶりのお見合い」

 秋も深まりを見せてきたある日シャーロットはカリンとクレアを連れて秘密裏に移動していた。


「今回のお見合い相手はエルフですか」


 クレアは手元のお見合い相手の資料に目を落とした。


「えぇ、しかもかなりの大富豪らしいのよ」

「確かにものすごい資産をお持ちのようですね」

「かなり腕のいい発明家らしいわね…だからうまくいかなくてもコネクションが作れれば国のために…」

「姫様、初めからマイナスに考えるのはよしましょう」

「……」


 連敗続きで少し後ろ向きのシャーロットをクレアが励ます。いつもはお見合いを破綻させようとするカリンでさえぐっと堪えている。クレアが資料を確認しながら少し首を傾げる。


「しかし妙な条件を提示されましたね」

「『できるだけ周りの人間には今回のお見合いを伝えないようにしてほしい、両親と信頼できる家臣2名まででお願いしたい』とのことだったわね」

「それに場所まで指定してきました。森の中の小さなカフェですね、一応普通のカフェで危険なところはなかったですが…」

「………やっぱり怪しいわよ!」


 ここまで我慢していたカリンが「もう我慢できない!」と割り込んできた。カリンはシャーロットに懇願するように詰め寄る。


「場所を指定するのはともかく『誰にも内緒』っていうのは怪しいって!ね?姫様、今回はやめとこう?」

「そういうわけにはいかないわよ、すでに了承の意思は伝えてあるし、ドタキャンは相手に失礼な上に国としての印象も悪くなっちゃうわ」

「うぅでもぉ…」

「それにもし何かあってもあなたたちがいれば安心だしね」

「姫様…」

「姫様!私、何があっても姫様を守りとおすわ!」


 カリンはシャーロットの腰の辺りに手をまわして抱きついた。

 落ち着いたところでクレアは話題を戻す。


「ところで姫様、エルフといえば長命の種族ですが、いくつまでが守備範囲なのでしょうか?」

「んん?そういえばエルフの方とお見合いするのは初めてだから深く考えてなかったわね。あまり年をとりすぎていると跡継ぎのこととか大変そうだから…ん?エルフの年齢ってどうなっているのかしら?」

「そうですね、アルヴィスさんに聞いた話を整理すると…」


 エルフはかなり長命な種族である。平均寿命はだいたい1000歳で、まれに1000歳を越えるエルフがいてそういったエルフは『ハイエルフ』と呼ばれるようになる。外観の成長速度も当然人間とは異なり30歳くらいまでは人間と同じスピードで見た目も変わるが、31から700歳まではほとんど見た目は変わらない、700歳を過ぎる頃から少しずつシワなどがでてきて“老い”が始まる。そしてだいたいの場合は1000歳を迎えるまでに寿命を迎えるのだ。


「それを考えると600歳くらいまでがいいわね、それでもかなりの歳の差だけど」

「資料では500歳と書いていますね」

「それでもジジイじゃーん!!」


 そうこうしているうちに3人は目的のカフェに到着した。その場所はレーヴ・アムール国内のとある森の中にある小さなカフェだった。大きくはないもののとてもお洒落な木造の建物で周りには当然森しかなく密会にはかなり向いていそうな場所だった。


「相手はもう来ているみたい」


 乗ってきた馬車を少し開けた場所に停めて3人はカフェに入っていった。扉を開けた瞬間妙に甘い香りが鼻をついた。その香りに少し顔をしかめたが今回のお見合い相手が見えたのですぐに笑顔を作り挨拶をする。


「初めましてシャーロット・エルドミリア・アムールです」


 先に来ていた今回のお見合い相手のエルフも立ち上がり会釈する。


「お目にかかれて光栄です。私は“ヴァイン・クリム”、ご覧の通りエルフです」


 ヴァインはとても綺麗な顔立ちをしていた。肩の辺りまで伸ばした長い金髪に長くふさふさなまつげ、スッキリ整ったまゆにキラキラ宝石よりも輝いて見えるエメラルドグリーンの瞳、どれをとっても人間離れしていた。

 ヴァインも会釈しながらエルフ特有の長い耳をピクピクと動かした。その動作が妙に可愛らしくてシャーロットはクスリと笑ってしまう。


「ごめんなさい、クリムさんの見た目とギャップがすごくてつい」

「あなたの笑った顔がみたくてやったことです。想像以上に可愛らしい」

「そ、そうですか?」


 妙に恥ずかしく感じたシャーロットは護衛の2人の紹介をするとヴァインの向かいの席に座った。お見合いを始める前にまずヴァインが今回の場所を指定したことにお礼を述べた。


「まずは今回私のわがままを聞いていただいてありがとうございます」

「それはかまわないのですが、一応理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「もちろんです。といっても答えは単純なのですが…その…」


 ヴァインは少し言い淀んだ。恥ずかしがってモジモジする様が妙に少年のように見えて、そのギャップにシャーロットは物凄くキュンとなっていた。


「恥ずかしながら人見知りでして、いずれは他の方々にも会おうとは思っていますが、初めだけはできる限り少ない人数にしてほしくて今回はこのような形をとらせていただきました」

「このカフェを指定されたのも同じ理由ですか?」

「少し違います。このカフェは私のお気に入りなんですよ、コーヒーがとても美味しい…それをあなたにも味わってほしいと思ったんです」


 このセリフと同時に店長とおぼしき人物がシャーロットとクリム、そしてカリンとクレアの前にもコーヒーを置いた。クリムは自分のコーヒーを手に取りニコッと笑った。


「皆さんも、まずは一杯」


 ヴァインに促され3人はコーヒーを口に運ぶ。いつもクレアが淹れてくれるものとは違うがまた別の美味しさが口に広がり喉を伝っていった。


「ほふぅ…おいしい」


 その不思議な旨味にシャーロットは無意識のうちに声を漏らしていた。カリンとクレアも恍惚の表情を浮かべていた。コーヒーカップが片付けられ目的のお見合いが始まった。


「ではシャーロット様、あなたのことを教えてください」

「はい」


 そこからお互いを知るために質問をしあった。資料で少し知ってはいたが改めて本人から聞く。好きな食べ物や趣味、考え方や身の回りのことまでお互いに色々話した。

 話す中でシャーロットは自分に違和感を感じていた。


(なんだろ?少しボーッする…)


 先程から妙に頭の中がもやがかかったようにボーッとしていた。起きているのに夢の中にいるようなフワフワした心持ち。


「シャーロットさんについてもっと教えてください…」


 ヴァインはどんどん質問をしてくる。ヴァインはなんともないようだった。シャーロットに対する呼び方も()づけから()()づけに変わっていたがシャーロットは気づいてすらいなかった。そしてさらに質問の内容もシャーロットの身長やスリーサイズにまで及んでいた。いくらなんでもシャーロットもお見合いとはいえそこまで突っ込んだ質問には答える気はなかった。しかし少し戸惑いはするものの答えてしまっていた。そして疑問はもうひとつある。


(カリン…?クレア…?)


 こんな時にいつも必要以上に反応してくるカリンも冷静に動いてくれるクレアも全く反応する様子がない。


「どうかされましたか?」


 ヴァインが心配そうに覗き込んでくるシャーロットは慌てて取り繕う。


「い、いえ!大丈夫です」

「そうですか?」

「はい、疲れているせいか少しボーッとするだけです」

「………そうですか、もし体調が悪くなったらすぐに言ってくださいねシャーロットさん」

「……はい」


 心の中で「なんて優しい人だろう」とぼんやり考えながらシャーロットはお見合いを続ける。

 シャーロットのその様子を見てヴァインは優しげな表情を変えないまま口の端を持ち上げた。

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