姫様の決意
やっと頭の中でまとまったので書いていきます。
ここはレーヴ・アムール。大陸の中で最も大きくそして平和な国として知られている。この国の次の王様もすでに決まっており、その名前は“シャーロット・エルドミリア・アムール”年齢20歳。彼女は容姿端麗、才色兼備、文武両道、気取らず友好的な性格から国民全員から愛されている。シャーロットも国と国民たちが大好きで毎日最低1時間、日によって場所を変えて城下を散歩しなが国民たちと交流するのが日課で彼女の楽しみでもあった。
今日も公務を終えて王都を側近2人を連れて散歩している。するとシャーロットに気づいた人が次々に挨拶をしてくれる。
「姫様!ごきげんよう!」
「お疲れ様です姫様」
「今日も素敵です~!」
老若男女問わず、仕事帰りで疲れた表情をしていた人もシャーロットを見ると途端に笑顔になる。
「ごきげんよう、今日もみんな元気そうで嬉しいわ♪」
その1人1人に笑顔で答えるシャーロット。この気軽さも彼女の魅力の1つである。シャーロットが歩いているとふとスカートの裾を引っ張られた。下を見ると5才くらいの女の子がシャーロットを見上げていた。シャーロットはしゃがんでその子に目線を合わせながら優しく問いかける。
「どうかした?」
シャーロットに笑いかけられほっぺたを少し赤くしながら女の子はおずおずと話し始める。
「んとね、姫様にお願いがあるの」
そのいじらしい様子にシャーロットは頬を緩ませた。
「何かしら?言ってみて?」
「えと、新しい雑貨屋さんができたの、だからね、姫様と一緒にお買い物がしたいの!」
顔をさらに赤くして頑張る女の子にシャーロットはますます顔を緩めた。そして答えようとした時にその女の子の母親らしき人物が慌てて出てきた。
「なに言ってるのリナ!姫様申し訳ありません…」
頭を下げ去ろうとする親子をシャーロットは笑顔で止める。
「私もその雑貨屋に行ってみたいわ。良ければ案内してくれる?」
頼まれた女の子はパッと笑顔を咲かせて「うん!」と頷いた。母親は申し訳なさそうにしていたが、どことなく嬉しそうにも見えた。
新しい雑貨屋は大通りのある路地に入ってまっすぐ行った突き当たりにあった。シャーロットに側近2人、女の子と母親が中に入った。店員はシャーロットが入店してきたことに腰を抜かしそうな程驚いていた。店内を物色し女の子はかわいい赤のリボンを買った。シャーロットもせっかくなので星の飾りがついたヘアピンを買った。それを見た女の子は「わー!」と目を輝かせながらヘアピンとシャーロットを交互に見た。
「姫様それかわいい!絶対似合うよ!」
「うふふ、そうかしら?ありがとう」
小さな子供の真っ直ぐな称賛にまたまた頬を緩ませるシャーロットだったが、
「それをつけたら姫様の王子様も喜ぶよ!」
「!!!」
その場の暖かな空気が一気に凍りつき、女の子以外のその場の全員が生唾を飲み込んだ。女の子の母親に至っては真っ青になり今にも気絶しそうだった。数分とも感じられる数秒の静寂。それを破ったのはシャーロットだった。
「うふふ、ごめんね、私にはまだ決まったお相手はいないの」
「え!?そうなの!?」
驚く女の子。どうやらお姫様には王子様がセットてついていると思っていたようだ。女の子が次の質問を出そうとするその前に母親が急いで女の子の口を手で隠す。
「ひ、姫様…その、あの」
「だ、大丈夫ですから!」
卒倒しそうな母親を必死でなだめたあと、女の子と別れて王宮に帰った。
お城に戻り夕食を食べ、側近2人と自室に戻った。シャーロットは自室に入るとドアを閉め、部屋着に着替えて椅子に座るやいなや側近の1人に問う。
「もう大丈夫かしら?」
問われた側近は首肯した。それを確認したシャーロットは大きく息を吸い込んだ。そして2-3秒息を止めた後大声で叫んだ。
「私だって早く結婚したーい!!」
シャーロットの悲痛な叫びが部屋中に響き渡った。だが壁やドアには音を吸収する特殊な加工がしてあるので部屋の外には聞こえていない。側近の1人、黒髪をポニーテールにまとめたいかにも真面目そうな女性、“クレア・フリーデン”はいつものことといった感じで紅茶をシャーロットに淹れる。シャーロットは出された紅茶をひと口飲み、「ふぅ」と一息ついた。
「落ち着かれましたか?」
「えぇ、ありがとうクレア」
落ち着いた様子でクレアに笑顔を返すがその笑顔はまだ少し元気がないようだった。その様子に気づいたもう1人の側近の“カリン・イノセント”がシャーロットを心配する。
「姫様ぁ、まだ少し元気ないよぉ?あのガ…子供の言葉が原因?」
部屋のソファに腰掛けながらカリンは頬を膨らませた。肩の辺りで切り揃えられたピンク色の髪を無意識にいじる。その1つ1つの挙動がとても魅力的でとてつもなく女性らしい。異性が見たら目が離せなくなり同性が見ても思わず顔を赤らめるだろう。しかし長い間一緒にいるシャーロットとクレアには通じない。
「違うの、確かに少し傷ついたけどそれはあの子の言葉にじゃなくて小さな子供の理想を裏切る自分が情けなくてね…」
「しかし、姫様がお気になさることではないかと…」
「それだけじゃないのよ、小さな子供が私の婚姻に関することを言ったときの周りの大人の反応を見るのが心苦しいの!」
「あぁ…」
シャーロットか町の散歩中に今日のような話をされるのは珍しくない。だが『知らない人』からその話が出る度に『知ってる人』が緊張するのが空気でわかる。この話が出たからといってシャーロットや家族などの関係者がその対象者を罰したということはないのだが、町全体…いや、国全体がシャーロットの婚姻に関して気を使っていることをシャーロット自身もわかっていた。
「それにあの話をしたあの子が母親に叱られているかもと思うとさらに申し訳なくて…」
「さすがに考えすぎですって」
いつもより落ち込んだ様子のシャーロットにクレアはそっとお茶菓子を差し出した。シャーロットはそれを食べるが今一つ元気になれずにいた。
レーヴアムールでは15歳で成人として扱われるようになり結婚が許される。貴族や王族は早くて5歳で婚約者が決められる事も多いので成人を迎えた瞬間に結婚するのが普通だ。平民でさえ結婚の平均年齢は18歳くらいである。
そんな中シャーロットは現在20歳で婚約者もいない。次期王位継承者としてはかなりまずい状況である。
しかしずっといなかったわけではない。シャーロットも5歳の時に父親である現国王が選んだ婚約者がいた。初めはシャーロットもその相手を気に入っていたが、ある日偶然当時5歳の婚約者の少年がメイドにおしおきしているところを見てしまった。しかもそんな場面を見られたというのに婚約者の少年はついさき程までシャーロットと遊んでいた時と変わらない笑顔で「やぁ、シャーロット」と普通に挨拶をしてきたのだ。そんな場面に出くわしたシャーロットは早々に婚約を破棄した。同時にトラウマを心に持ってしまうことになる。
しかし、父親は「早く婚約者を見つけねば!」と色んな相手をシャーロットに紹介してきた。この頃すでに自分の立場を理解していたシャーロットはトラウマを振り切って父親が紹介してくる相手とお見合いをした。ちなみにこの国の恋愛に関する考え方はかなり自由で身分に関係なく両者が納得さえすれば誰とでも結婚できた。故にシャーロットの父親は公爵の息子から優良な商人の息子、他国の王子などなど父親が見定めた相手と次々にお見合いを重ねたが、選ばれた相手がことごとくヤバめの相手で国家転覆を狙っていたり、貴族以外を奴隷としか思っていなかったり、危ない思想を持っていたりとことごとく婚約にはいたらなかった。そのかわり国の危機をいくつか取り除くことはできた。
「そんな感じでお見合いを繰り返していたらもう20よ!」
「まあまあ、その中でも得るものはあったじゃないですか」
破談になったお見合いの理由はほとんどが特殊な性格の持ち主や国を乗っ取ろうというような輩にあたってしまうからだったが、その中の何人かはは自国の問題を抱えていて国を立て直すためにお見合いにくる人物もいた。しかし相手の事情や想いを知ったシャーロットは、その類いまれなる才能で相手の国が抱える問題を解決し、結果婚約がなくなったケースもあった。しかしそういった相手はシャーロットに恩義を感じ、同盟国として政治的に良好な関係を築くことが多く、その度に国も成長するので、一部では「姫様の婚約話が破談になると国が成長する」などという噂まで出てしまった。
そんなこんなで20歳までのうちに計30回のお見合いに失敗しているシャーロットなのであった。
そして自分が選んだお見合い相手がことごとく破談になりさすがに責任を感じた父親は「シャーロット、次からは自分で相手を選んで」ととうとう選ぶのをあきらめた。
「父様のあの時のお顔はとても切なかったわ…」
その時を思いだし遠い目をするシャーロット。紅茶をのみほし息を吐いた。
「ふぅ~、お父様や国のため…何より私のために絶対最高の相手を見つけるわ!」
握った拳を振り上げガッツポーズ!その姿に側近二人も激を飛ばす。
「私も精一杯姫様をお支えします」
「姫様に寄ってくる悪~い虫は私が全部叩き潰すわ~」
「ありがとう二人とも!私、頑張る!」
熱い想いを心に燃やし、シャーロットは早速1人目のお見合い相手を選ぶのだった。