黒い葬儀社4
『話は大体解りました。しかし2点確認、と言うか含め頂きたい点が御座います。』
いつの間にか禅がヨキの頭を通り越して会話の主導権を握っていた。言葉こそ丁寧だが足組みに腕組み。どう見ても取り立て屋が返済について債務者に詰めている構図である。
『なんだね?』
『1点、我々は自殺幇助は出来ません。目の前で貴方が自害し、その亡骸を火葬する。これは言うまでもなく法に抵触します。我々は翌日から無職か悪ければ刑務所暮らしです。もう1点、言うまでもなく、我々は殺人も出来ません。我々は翌日から刑務所暮らし、悪ければ極刑です。』
冗談の様な論調だが、禅の確認は当然のことであった。
ヨキとしては話が大きすぎ、その2点の確認など頭から抜けていた。
『はっはっはっはっ。いや、申し訳ない。そこは安心してほしい。君たちは飽くまで葬儀屋だ、葬儀屋の君らに依頼する事とそうすべきでないことは弁えてるつもりだ。実は話が多少飛んでしまうがこれを君らに渡す。』
領主は二人にタバコの箱大のプラスチックの物体を渡した。真ん中のり下半分にボタンが二つ。真ん中より上半分に赤いポッチが一つ。
『私の心臓が止まったら、それが鳴る。それを携帯してほしい。』
『は?』
ヨキは思わず素の言葉を漏らした。
『国王軍の連中はこうしてる今も、街に潜伏して私を監視しているだろう。調印は明後日だ。その前か後か、恐らくは明日、もしくは今夜にでも私を攫い、殺す。そして、これは想像だがその亡骸を相手国の中心街に放置し、そして私は悪鬼に変わる。それだけは避けたい。国王軍が私を殺す、その直後私を火葬してほしいんだ!』
領主は前のめりになり熱弁した。
『つまり、我々にも貴方を監視していろ、と?』
禅は言った。
『そうだ!頼む。この調印だけは上手く通したいんだ!』
利益はテーブルに手をつき、頭を垂れた。
ヨキは絶句している。表情は見えないが恐らく答え倦ねて狼狽しているのだろう。
『…解りました。しかしこれはハッキリと申しまして。我々の職務の範疇を大幅に逸脱したご依頼です。増してや事が終わったさぁ帰ろうとした矢先に逆上した国王軍と戦闘にもなりかねませんね。』
『もちろんだ。そのつもりでそれ相応のインセンティブは弾む!』
『ははぁ、それは如何ほどに?』
『禅さん!』
ヨキが窘めようと声を上げた刹那禅の睨みが飛んだ。ヨキは思わず黙る。
『1000万ダラでどうだ?』
『…貴方はこの調印に文字通り命を賭けてらっしゃる。そしてその事後、貴方は亡き者になる。男の中の男の決断だ。まるでニホンのサムライだ。その1000万とやらは、貴方の決意に相当する額ですか?』
ヨキは思った。この禅と言う男は下手なギャングより悪魔に近いと。
禅の言葉にさすがの領主もわなついている。
『…あと一つ。貴方は我々に隠しごとをしる。』
禅のその言葉に絶句したのはヨキと他ならぬ領主だ。
『………なに?』
『貴方には息子さんがいますね?もう成人され、まあ我々と年はそう変わらんでしょうな。その子に遺すものがあるのでは?』
禅も身を乗り出した。
『…な、何の話だ。確かに息子ならいるが……』
『確かに先ほどの話。貴方が悪鬼に変わったら相手国の心証を害し、調印を反故にされるかもと言うくだりは無くもないロジックだが、少し「弱い」他に貴方が火葬されなければならない理由があるはずだ。それはずばり』
『……くっ……』
禅の口角が鋭くつり上がる。
『貴方は、実験場で完成した魔法の「人柱」になるよう相手国に条件を出された。』
領主の表情が、禅の推理が的を射たことを認めていた。
魔法とは、一つの魔法につき一カ所の「封魔庫」なる土地と「人柱」となる人間の死が必要になる。
この二つが揃って初めて魔法が完成する。
『…その通りだ。本来人柱は相手国から選出するのが筋だろうと思っていたのだが……はは、私は何処までもタカられ続ける性質なんだな。その国の役人は私に「人柱として死んでくれれば私の息子に国籍と役職を与える」と言ってきた。長らく会っていないが、私が死ねば私の息子とて狙われる。さすがに相手国は私のアキレス腱をがっちり押さえていたよ。やられた。そして君にもな。だが信じてくれ。私の財産は本当にそれっぽっちなんだ!頼む!時間がない、君らにしか任せられないんだ!』
領主の目は赤く、潤んでいた。
『…やります。』
とヨキ。領主の手を取り言った。
『おい!何を勝手に…』
『この人はただの守銭奴です。ご安心ください、ボクが説得します。て言うか、もう会社が受けてしまった仕事ですので。』
『おいおいおい、受けてしまったって、色々事情が違ってきてんだぞ?!戦闘になるかもだぞ?』
『禅さん……ビビってんの?』
ヨキは嘲るように言った。
『…ヨキこのやろう…』
どうやら受けるしかないようだ。