黒い葬儀社3
領主その言葉を咀嚼できず、しばしの間を開けてしまった。
『私が死ぬ。』
領主は至極当然と言った顔で言い放った。
『「事前予約」ですか。』
禅が半ば嘲るように言った。
『・・・少し長くなるが時間はあるか?』
領主の話はこうだった。
領主が治めているこの土地は商業と炭鉱と軍事産業の街に別れ、それぞれ発展し賑わっていた。
しかし十数年前に国王が多国間で締結させた平和条約のお陰で軍事産業は先細り、戦争がなくなると炭鉱も不必要になり閉鎖された。
それに併せて多数の失業者を出し、なによりの痛手は未来を担う若者が多数土地を離れた。
領主はそんな現状に歯嚙みし苦肉の策に出た。
「戦争が出来ない国になったのなら戦争が出来る国と手を結ぼう」
領主は隣国の軍事担当者に内々に摺り寄った。
領主が提示した案は難民の受け入れと禁止兵器や魔法の実験場としての土地の貸与だった。
隣国は好反応を示し、計画は進んだ。
旧炭鉱は実験場として再開し、多くの労働者を呼び戻した。
軍事施設は表向きには閉鎖中だが地下に潜り兵器の開発もしている。
商業街には申し訳ないが、街一つの単位としては持ち直した。
しかし国王の目は節穴ではなかった。
領主の企みは悉く見抜かれた。
一時は覚悟を決めた領主だったが国側からの処罰はなく、代わりにこんな事を示唆された。
「これまでの事は目をつぶるから上がりを半分よこせ」
領主は耳を疑った。
こともあろうに国からの申し出がタカリなど・・・。
しかしこれを突っぱねるわけにもいかず、かと言って受け容れるわけにもいかなかった。
またしても領主は頭を抱え、苦肉の策に出た。
「国に爆弾を落とし、この土地を捨てよう」
押しても地獄、退いても地獄。
なんと難民を受け容れていた先の某国に逆に亡命すると言うのだ。
しかしそれは只ではなく「手土産持参」で。
領主は国の横暴の事実を手土産に亡命させてほしいと申し出た。
この手土産さえあればあわよくばその某国は当国王と対等な話し合いのテーブルにつき、交渉次第でこの土地を継続的に使用できると。
某国にとっては悪くない申し出だった。
しかし
『一人の戦犯だけは断られた。』
禅が口を挟んだ。
『そう、私だけは駄目だ。』
領主は言った。
つまり、某国としては領主以外の街の人間を受け入れることは容易だし何よりこの土地を継続して使用できるのは願ったり叶ったりだが、戦犯扱いである領主を受け入れることは国際的に避難を浴びるに値する事であった。
『でもその某国とやらとの交渉はウマくいったんでしょう?何故わざわざ死ぬ必要が?』
禅は訊ねた。禅の傍らにいながらヨキは蚊帳の外だ。
『国王のやっかみさ。上手く立ち回ったつもりが怒らせた。このままでは私は国王軍の兵に殺され、亡骸は捉えられ放置され、やがて悪鬼に変わる。』
『そうしたら某国との約束も御破算・・・ってわけだ?』
禅は我意を得たりと言わんばかりに微笑んだ。 『そうだ、だから明後日の調印の後、早々に私は死ぬ。そうしたらその亡骸を、国王軍に渡る前に火葬してほしい・・・!』