黒い葬儀社2
門は、文字通り「門」の字形でその背丈3メートルにもなろうかと言う高さで、それを起点に同じ高さの壁が広がっていた。先ほど通り過ぎた街並みとこの先に広がる領主の庭とを隔てる屈強なものだった。
まるで「持つ者」と「持たざる者」を分かち、一線を引くように。
門は関所の様な造りになっており、番の兵が二人立っていた。
バンを降りたヨキが兵に話しかける。
『「実葬」で伺ったUnderTaker社なんですが。』
ヨキが兵に手帳を見せた。社の証明書とも言える黒革で中々金のかかった重厚なものだ。
兵は手帳を手に取り、開き、裏返し、念入りに吟味していた。その間ももう片方の兵は市街に睨みを飛ばしていた。
『どうぞ。』
兵は門を開け、二人を促した。
ヨキはバンに乗り込み発進させ、安堵の息を漏らした。
『見たか?』
禅は訊ねた。
『え?』
『あの兵、襟で隠してるつもりかつもりじゃねーのか、喉に「印」があった。』
印とは「召喚」と言う技法を一度でも使用すると、その詠唱を唱えた喉に刻印されるものである。
『よく車から見えたね。僕全然気にしてなかった。』
ヨキは心から感心したように言った。
『門番してるだけじゃあ魔法召喚なんて要るわけがねぇ。どうやらここの領主サマは戦争経験者の元軍人を雇ってやがるようだ。』
『つまり相当用心深い人なんだろうね。』
『・・・アホ。』
禅は馬鹿にしたように言い、ヨキの側頭を小突いた。
門をくぐって何分経ったか、二人の目はやっと領主の住むであろう屋敷を捉えた。
『でけー・・・。』
その屋敷は50メートルほど下がらなければ画角に収まらない程の広さだった。アイボリーがかった白い壁、所々のディテールにくすんだ赤や緑。
屋敷の戸を開くと、一人の老執事が迎えた。
『ようこそお越しいただきました。葬儀社のお二人様。』
燕尾服に身を包んだ老執事は恭しく頭を下げた。
『どもっ!』
禅が砕けた返事で答えた。ヨキとしてはこの様な禅の応対に毎度肝を冷やしていた。
それには反応を示さず老執事は『ご主人様がお待ちです。こちらへ。』と二人を案内した。
『ご主人様。葬儀社の方々で御座います。』
老執事は一際重厚で、誰の目にも「ここに主がいる」と分かるような扉に向かって言った。
『入れ。』
少し間が空いて、中から声がした。
二人を中へ促し、老執事は辞去した。
『失礼致します。今回ご依頼いただいたUnderTaker社です。』
ヨキが「ここは禅に任すべきじゃあない」と、我先に挨拶をした。
『よく来てくれた。』
領主はテーブル越しの革張りの椅子に腰掛けていた。
立ち上がり二人を一瞥すると応接用のソファーに促した。
『今回のご依頼は「火葬」と伺っております。』
ヨキが確認した。
『その通りだ。』
この領主は年齢50後半から60前半に見えた。
口周りを覆う髭には白いものが混ざり、前髪はすっかり後退している。
毎度の贅沢な料理で肥えたのであろう腹回りは恰幅は良く、しかし眼力は鋭かった。太古の猪の様である。
『つきまして、ご遺体は・・・?』
ヨキは気圧される様に語尾を濁しつつ訊ねた。
『私だ。』