黒い葬儀社
荒野。と言うよりは極端に寂れた片田舎と言った方が似合うであろう未舗装の道路。一台のバンが砂埃を巻き上げて走っている。
『ごぉぉぉぉぉ・・・ごがっ・・がぁぁぁ・・・ごっ』
黒服の男は助手席で高いびき、もとい無呼吸症候群の証である不規則に途切れるいびきをかきながら居眠りしていた。男の逆立った金髪が、開け放たれた窓から流れる風に揺れる。
『禅さん禅さん』
運転手の男は無呼吸症候群の金髪男の肩を揺すった。
『・・・んん?』
『また息止まってたよ。』
運転手の男はそう言い、ため息を漏らした。もっともこの運転手の男、顔はトカゲをモチーフにしたマスクに覆われ、表情は愚か顔のパーツ一切が露見していないためその顔から感情は読み取れない。服は禅同様黒服で、違いと言えばきっちり黒ネクタイを締めている。
『あーあ。寝た気がしねえ。せっかくジャンケンで勝ったのに損した気分。』
禅と呼ばれた金髪の男はそうごちた。男の目は、左は茶に近い黒であるのに対し、右は薄い青色で、眼球を起点に上下に深い傷が彫り込まれていた。上方に伸びた傷は額を通過し頭髪の茂みに入り込んでいた。
『どっちにしろもう着いちゃうよ。』
トカゲ男は言った。
『今回は「なに葬」だっけ?ヨキ。』
『火葬。』
トカゲ男改めヨキと呼ばれた男は答えた。
『まーた俺だけ特別手当てだな!わりいなヨキ!』
禅は戯けた風に言った。
二人の所属する葬儀社「UnderTaker社」は歩合制であることが、禅の『わりいな』の真意である。
『別に。今回は面倒くさそうだからどっちにしよ僕は禅さんに一任で結構だよ。』
ヨキは抑揚なく言った。
『今回の依頼はクソ見てーな金持ちだって?』
卑下しているのか持ち上げてるのかわからないが、クソは禅の口癖である。
『そ。金持ちで権力持ち。大好きでしょ?』
『好きだねぇー。権威ある金持ち野郎は払いがいい。』
仕事自体は会社に入るので、客の金払いなど社員には本来無関係なのだが、禅の言う「払いがいい」とはとどのつまり「こちらが手間賃などふっかけた際に領収書なしで払ってくれる」の意である。
『着いたな。』
バンはいつの間にか未舗装の道からインフラの行き届いた市街に差し掛かっていた。市街と言っても昼間から閑散とした店が多く、人影も年寄りや職にあぶれた浮浪者風の人間ばかりだ。
皆一様にバンに好奇の視線、あるいは排他的な敵意に満ちたそれを向けた。
『皆目が言ってんぜ。「うちの領主様から少しでも多く掠め取ってくださーい」って。あっはっはっは!』
『やめなよ禅さん。お客さんの悪口は。』
ヨキは神経質そうにたしなめた。
『ほら門くぐるからちゃんと座り直して!』
『はいはいよ。小心者。』
禅は毒づくがヨキは意に介さず、門の手前でバンを停車させた。