言ってみたいセリフ
この日は結局何も起きなかった。
ただ女性を付け回しただけ……。
字面だけで見れば、確かにストーカーだ。
3日後。
今日こそはと意気込んで出発。
何も起きない方が良いんだけど、襲われて欲しいというジレンマ。
そしてストーカーに見える屈辱。
うん、起きる起きない、どちらにせよ、早くして欲しいな。
俺の心が折れる前に。
「あっ、動きがありましたよ!」
「何っ!」
ヘコんでいた俺を放っておいて監視していたタヌキが叫んだ。
それはお嬢さんが孤児院を出て馬車に向かった所だった。
暴れ馬が馬車の後ろから走ってきたのだ。
その馬は荷馬車を引いていて、お嬢さんの乗る馬車とぶつかった。
混乱の中、フード付きのマントのような物を着ている者が3人現れ、お嬢さんに袋をかぶせた。
麦でも入れるような麻袋で、あっという間にお嬢さんを袋の中に入れてしまう。
護衛で居た男2人は、被せていた男と別の2人が相手をしている。
見ていると護衛の方が分が悪いな。
ぶつかって来た時に負傷したのかも。
それでも善戦はしているが、その隙きにお嬢さんを担いだ刺客が逃げる。
俺達は、タヌキと別れて逃げた刺客を追った。
タヌキと一緒に道を覚えたので、挟み撃ちをするつもり。
素早さではタヌキの方が上なので、俺が後を追う。
タヌキは回り込むように走っているはずだ。
まぁ、タヌキを挟み撃ちをした所で、タヌキ側を抜けられそうだけどね。
だが、そこは考えてある。
どうするかと言うと、タヌキは姿を現さないのだ。
物陰から声だけを出す。
そうすると人が居る様に勘違いしてくれるだろうという企み。
タヌキは無事に回り込めたようで、一本道の路地に入った時に声を上げた。
「そこまでだっ!」
「そうだ、もう逃げられないぞ!」
「ちっ!」
刺客はお嬢さんを路地の横に投げ、俺の方を向いて腰に下げてた短剣を抜いた。
タヌキの方は姿が見えないので、見える方から倒そうと考えたのだろう。
…………怖ぇ~~~~!
タヌキの方に行けよ!
「ふん、逃げられないならお前たちを倒せば良いだけだ」
こうなったら、余裕がある振りをして時間を稼ぐしかない!
「ふっ、そんな短剣で俺を倒せるかな?
俺は魔法も使えるし、ダンジョンにも潜る狩人だぞ?」
「……この短剣には毒が塗ってある。少し傷を付けるだけで良い」
おおっ! 説明してくれた!
やっぱり事前に仕込んでると話したくなるのかね?
たださぁ…………めっちゃ怖い!!
俺、麻痺耐性は持ってるけど、毒耐性は持ってないんだよ!
麻痺毒な事を祈るしかないな。
いや、よく考えたらLV.1だったわ……。
どうしようと考えてたら、タヌキがホイッスルを吹いた。
どうやら護衛か巡回している兵士でも近くまで来たんだろう。
助かった。俺もすぐにホイッスルを手にする。
「ふふふ、こんな事もあろうかと準備をしていたのだよ」
言いたかったセリフを言った後、慌ててホイッスルを吹く。
セリフの割にかっこ悪い?
良いんだよ! 戦っても勝算は限りなく0%なんだから!
だが、刺客はホイッスルを吹き矢だと思ったのか、防御するような体制を取っていた。
そのお陰で動作が遅くなり、結果として兵士が来る時間を稼ぐ事が出来た。
しかもその間に、タヌキがお嬢さんの所に移動して、麻袋の影に隠れた。
タヌキと話し合った通り、刺客は不利になったのが判ったのだろう。
人質にしようとお嬢さんの方に近寄る。
そこでタヌキが飛び出し、顔を引っ掻く。
そう言えばタヌキは毒耐性(Lv.2)を持ってたな。短剣に触れてても大丈夫だろう。
刺客が怯んだ隙に、俺は更に頑張ってホイッスルを吹く!
刺客には近寄らない! 人を呼ぶのだ! 吹く! 吹く! 吹く!!
次話は10日の17時に投稿します。




