お嬢さん
子供達は現金なもので、俺を見捨てて来客の方に走っていった。
どうやら常連のようだ。
あれ? でも男の子は行かないな。
何故だろ?
こっそりと来客を見たら判明。
来客は女の子だった。
と言っても13~15歳くらいだけど。
男の子は照れて行かないんだな。
なかなか可愛い娘だしな。
いや、俺はロリコンじゃないから気にしないけど。
だが、あの娘、何か変。
変と言うよりも違和感があると言った方が良いか。
だってさ、後ろにメイドさんが控えてるんだもん。
もしかして、お金持ちの子かな?
こっそりと覗いてたつもりだが、すぐに気づかれてしまった。
子供達がタヌキを連れて行くからだよ。
飼い主を気にするのは当然だろ。
近くに居た女の子に連れ出されてしまいました。
「ごきげんよう。貴方がフォックスちゃんの飼い主さんですか?」
「そうです。タクヤと言います。ええと……」
「これは失礼しました。
私はペシス男爵家のエリザベートと申します。エリーとお呼び下さい」
おわっ! 男爵家のご令嬢でした!
ん~、想像と違うなぁ。
貴族の娘って、ほら、もっと高飛車だったりするんじゃないの?
俺的にはツンデレであって欲しかった。
いや、性癖とかじゃなくてね? テンプレ的にって事だよ。
それから少し話したけど、良い子だった。
イヤミな所も無いし、俺みたいな者にも話を合わせてくれる。
ええ娘やでぇ。
その会話の中で知ったのだが、この孤児院はやはり教会が管理しているそうな。
で、その教会に多大な寄付をしているのが、ペシス男爵。この娘のお父さんだね。
それもあって、こうやってちょこちょこと訪ねてくるんだそうだ。
しかも今度学校に行く為にこの街を出るらしい。
学校があるのか! 良い情報を貰った。
学校ですよ、学校。
テンプレの宝庫ですよ。
是非とも行かなくては!
ただ、流石に生徒としては入学出来ないらしい。
年齢制限があるんだって。
しょうがない、教師として潜入するか。
現代日本人の数学力があれば、教師として入る事も可能だろう。
まぁ、そんなに成績が良くなかったけどな。
だが、サイン・コサイン・タンジェントくらいは使えるぞ。多分。
ん? どうしたタヌキ?
ズボンを引っ張るなよ。喋れ。
え? こっちに来いってか?
すみませんお嬢さん、ちょっと失礼します。
建物を出て、物陰に隠れる。
「何だよ、言いたい事があるならあの場で言えよ」
「言えない内容ですから。それに、あまり私が喋れる事は知られない方が良いでしょうし」
「ここの子供達は皆知ってるだろ?」
「子供が言っても信用してもらえませんよ」
「まぁ、確かに。子供が『タヌキって喋るんだよ!』って言われてもな」
「でしょ?」
「で、何だよ?」
「さっきですね、外に変な人が居たんですよ」
「ふ~ん。で? 警察とか兵士に言えって?」
「違いますよ。多分ですけど、あの貴族のお嬢さんを狙ってるんじゃないかと」
「なら、より一層話した方が良くないか?」
「普通に考えればそうですけどね。貴方の為ですよ」
俺の為? どういう事?
何を言ってんの、このタヌキは。
「前にテンプレを話してくれましたよね?」
「あぁ。話したな」
「その中に確か『貴族(女性なら更に良し)を助ける』ってのがあったじゃないですか」
「……そうだっけ?」
「ええ。だから、貴方が助ければ良いんです」
「…………は?」
「通報したら、それで終わりじゃないですか。
そうじゃなくて、陰ながら護衛して、危険になったら助ければ良いんですよ」
うわっ、このタヌキ、腹黒だ!
なんてヒドい事を考えるんだろう。
さすが畜生だな。
ナイスアイデア! それ、いただき!
次話は6日の17時に投稿します。




