尋問
う~ん、どこかで見た気がするんだけどな。
名前も思い出せないから、そんなに接点は無かったんだと思う。
「おや、知り合いかね?」
「どこかで会ってるとは思うのですが、思い出せません……」
「ふむ……。では本人に聞いてみよう。
私は領主のカルベだ。お前の名前と職種を言え。それと税符を出せ」
「お、俺は、マカロ。狩人だ、です。税符は……家に置いてきてしまいました」
「何故ここに徒歩で来た?」
「馬の調子が悪いので今日は馬車が出せないって言われたから、です。
だから、歩いてダンジョンに来たんだ、です」
「目的は?」
「レベルアップと小遣い稼ぎだよ、いや、です」
「無理に敬語にしなくても良い。喋りやすいように喋りなさい」
「わ、判りました」
「ダンジョンに来るのは何回目だ?」
「えっと、10回目くらい……」
んん? 何か記憶が……。
「あっ! 判った!
この人、俺が最初にダンジョンに来た時に乗り合わせた人ですよ」
「ほう。その時は会話をしたのかね?」
「え~と、確か……いえ、あまり会話をしなかったと思います。
その時にベテランの人が一緒に乗ってたので、色々とアドバイスをしてもらいました。
そういえば、俺と同じ様に初心者とか言ってたような……」
「そのベテランと一緒の組?」
「いえ、ベテランが二人と、俺と、この人。合計4人で乗ってたんですけど。
俺とこの人はソロでしたね。
一緒に入ろうと提案したんですけど、『ソロだ』って断られましたね」
そうだった。
確か食い気味に返事されたんだったわ。
「今思い出しましたけど、ソロで3~4回目って言ってたはず。
なのにベテランの話を俺と一緒に真剣に聞いてたように見えましたね」
それを聞いて、貴族は兵士に話を聞き始めた。
その会話の内容は、ダンジョン攻略についてのようだ。
「なるほど。
今色々聞いてみたが、初心者がソロでダンジョンに行くのは珍しいようだな。
なのに3~4回もソロでダンジョンに入ってるのに、素人のような感じ。
怪しいな」
「な、何が怪しいんだよ! ソロでダンジョンに行くのが悪いか?!
それに、そこに居る男だってソロで来てるんだろ?!」
「確かにそうだ。君は何故ソロで?」
あっ、俺に話が回ってきた。
俺がソロな理由? 簡単な話じゃないか。
「俺がソロなのは、この町に来て間もないからですよ。
知り合いも居ないし、ツテも無い。
それにダンジョンって物を初めて知ったので、ソロでも大丈夫だと思ってたんです。
ベテランの話を聞いて、実際に入ってみて、危険だとよく判りました。
だから、しばらくは行きませんでしたね。
行くようになったのは魔法を覚えたからです」
「この人の言っている事にウソはありませんよ。商人仲間から話を聞いていますから。
行かない間に芝居をしてましたね。それについては私も協力してたので間違いありません。
なかなか評判でしたので、町の人に聞けば裏はとれます」
この商人、芝居の時の協力者だったのか!
評判だったとか言われると恥ずかしいな。テンプレの為だったんだけどなぁ。
「ふむ。問題無さそうだね。
では君はどうだ? 10回もソロで来てるのか?」
「そ、そうだ。俺も同じ様に、一緒に来てくれるような知り合いが居ないから」
「ほうほう。しかし税符が無いのは困るねぇ。身分が証明出来ない。
残念だが、君はこのまま拘束する。町に戻れば税符があるのだろう?
それを確認後、もう一度話を聞こうじゃないか」
う~ん、怪しいような、そうじゃないような。
俺には判断出来ないな。
まぁ、その辺は貴族の人が上手い事するだろ。
テンプレだと、俺が鋭い推理をして謎解きしたりするかもしれないけど。
残念ながら、そんな切れる頭はしてません。
庶民脳ですから。
兵士を3人ほど残して、町に帰る。
マカロって人は拘束されたまま貴族の兵の詰め所へ。
「ご苦労様でした。今日はこれで解散です」
「あっ、そうですか」
「後日連絡が行くと思うので、町を出ないようにお願い出来ますか?」
「判りました。えっと、町の中を歩くのは?」
「大丈夫です。でも、出る時には宿に行き先を告げてください」
俺も何時までか判らないけど、自由では無くなるようだ。
どうしようかな? やっぱり魔法屋にでも行くかな?
次話は18日の17時に投稿します。




