商人
30分後。
俺は森を出て、近くにあった川に到着した。
飲み物ゲットだぜ!
それにしても、良いハイキングだった………………って違う!!
あれ?! テンプレは?!
何事も無く出てきたらダメじゃないの?!
あっ……そう言えば、テンプレを用意する的な事は言ってなかったな。
って事は、自力でテンプレと遭遇しなきゃいけないのか!
つまり、今回の場合、獣かモンスターと出会うまで森を彷徨う。
もしくは森に居て襲われている誰かと遭遇し助ける。
……うん、後者は無理だね。助ける能力なんかありません。
とっさに動けるラノベの主人公を尊敬します。
さて、そうなると前者の訳だが……多分だけど弱いウサギなんかと遭遇してもダメなんだろうなぁ。
テンプレ希望な訳だから、強者一択でしょ。いきなりレベルが上がるくらいの。
死かレベルアップか。
うん、嫌だね。無理無理。少なくとももっとレベルアップしてからだわ。
もしくはもっとテンプレを集めた後かな。チートに近づくはずだし。
戦う事でレベルアップするなら、チートじゃない内は無理だ。
ならテンプレ集めが必要。
現在可能なテンプレは、森に入って戦闘。
……ループしてるじゃねぇか!
いや、待て待て。
森に出されたから戦闘がテンプレって考えてたけど、違うのもあるんじゃないか?
思い出せ! 思い出せ、俺!!
川べりに座って考える事30分。
何とか3つくらい思い出した。
1.商人(旅人?)と出会い、田舎から出てきた何も知らない人間のフリをして街に行く。
2.商隊が襲われてる所に乱入し助ける。
3.川から人が流れてくる。助けてお礼とか。
問題はこれらがテンプレなのかどうか。
基準は見ている神。くそっ、リストくらいくれれば良いのに!
この中で2と3は受け身だよなぁ。都合良く遭遇する訳無い。
って事で1しかない。これがテンプレな事を祈ろう。
はい、やってきました、街道!
と言っても轍のある舗装もされていない道だけど。
ここで重要なのは出会う相手。
単独で移動している人の良さそうな商人が理想ですね。
って事で木陰に潜んで通る人を見ています。誰かに見つかれば盗賊と思われる可能性大です(笑)
いや、だってさ、先に誰かと出会ったらテンプレにならないじゃん?
さっきも冒険者っぽい集団が通ったけど、その人達と出会った後に他の人に近づいたら不審人物じゃね?
だから該当者にピンポイントで出会う(?)予定なんだよ。
そして、ここで活躍するのが、能力の『鑑定』!
人物を見ながら心の中で『鑑定』と思えば発動する。
するとその人の頭の上に情報が表示されるんだよね。
まぁ、レベル1だからか詳しい情報は出ないんだけどさ、職種くらいは見える。
ちなみに冒険者っぽい集団の先頭の人を見たら、職種が『狩人』だった。
でもその後すぐにキョロキョロしだしたから、見るのを止めて隠れたけど。
もしかしたらレベルの低い『鑑定』は察知されるのかもしれない。
もしくは自分と相手のレベルの差とか、そもそも察知される物かもしれない。
しかし、これ、どうやってレベルを上げるのだろうか?
やはり王道で、使ってれば上がるのかな?
そんなこんなで34人目。
やっとそれっぽい人が登場した!
大きな荷物を背負い、腰には剣と何故かソロバンを下げている30代くらいの青年。
早速『鑑定』してみると、職業は商人! 良し! 当たりだ!
俺は少し先回りして、道の横にあった切り株に座る。
息を整え、困ってる風にキョロキョロしたり落ち込んでるフリをしてみる。
さあ、食いついてくれ! 素通りなんかしないでくれよ!
ちらっと見られただけで素通りされた……。
「ちょっとすみません!」
「えっ? あっ、何か?」
「あ、あの、ここは何処ですか?」
「はい?」
結局こっちから声をかけてしまった。
だってこのチャンスを逃す訳にはいかないだろう?
この先、待っても狙い通りの人が来るとは限らないし、夜になったら最悪だし。
とにかく! この出会いをテンプレにするのだ!
「あのですね、自分はと~~~~い田舎から出てきたんですけど! 道に迷ってしまってですね! どうしたら良いかと!」
「……一本道ですけど?」
「……えっと、実は方向音痴でして! 森から今出てきたんです!」
「方向音痴の自覚があるのに、何で森に入ったんです?」
「貴方、正論ばかり言いますね!」
「いや、誰もが思う疑問だと思いますが?」
「ト、トイレですよ! 見られたくないでしょ?!」
「入った所から出れば良かったのでは? 後自覚があるなら道標くらいしてるのでは?」
「…………えっと。そう! 戻ろうとしたら獣に遭遇しまして!
逃げたら森の奥だったんです!」
「この辺りには危険な獣は居ませんが?」
なんという冷静な判断! これが商人の力か?!
ヤバい、ヤバい。完全に怪しまれている。
神もさ、テンプレ希望なら少しは配慮してくれよ!
どうしよう、どうしよう……。
「あっ、そうだ! その時に持っていた荷物も無くしましてね!
見た所商人ですよね?! 何か売ってくれませんか?!」
「……確かに軽装に見えますね。何がご入用でしょうか?」
おっ、反応アリだ! 良い取引をして街まで連れて行ってもらわないとな!
「今持ってる物って、携帯食料とお金だけなんです!」
「……それだけあれば、街まで行けると思いますが?」
「い、いや、えっと、薬! そう、薬を売って下さい!」
「怪我や病気をしているようにも見えませんけど?」
くそっ、常備薬って考えが無いのか?
こうなったらやけくそだ!
「じゃ、じゃあ、情報! 情報を買います!
街までの案内料金も払います! どうでしょうか?!」
そう言うと、商人は考え出した。
損得勘定をしているようだ。
「判りました。ではそれで取引をしましょう。
しかし、情報は高いですよ? それでも良いですか?」
「うっ、えっと、お金はこれだけしか無いですけど……」
「……貴方ねぇ、全財産を知らない人間に見せるものではありませんよ?
私が悪人だったらどうするのです? しかも結構な大金じゃないですか」
「大金ですか?」
「はぁ……判りました。1枚だけ貰います。
街に向かいつつ、お金の価値から色々と教えてあげますよ」
「ありがとうございます!!」
こうして、俺はやっと街に向かう事が出来た。
テンプレは成功なんだろうか?
連続投稿中。3話目です。