ギルドマスター
それにしても、気になる事を言ってるな。
いきなりDスタートはおかしい、って。
Dが最低ランクじゃないのか?
そういえば、ギルドについて何の説明も受けてないな。
「おい、無視してんじゃねぇよ!」
「Dになったのはギルドが勝手にやった事だ。文句はギルドに言えよ」
「う、うるせぇ! お前の実力、俺達が見てやるよ!」
そう言って絡んできた冒険者は殴りかかってきた。
召喚前は運動不足で鈍かったが、今は体が軽く簡単に避ける事が出来た。
それを見てたもう一人も一緒になって殴ってくる。
オレ一人に対して二人がかりとは……まぁ問題無く避けられるんだけど。
避け続けて10分くらい。終わりは突然やってきた。
「何をギルド内で騒いでいるんだ!!」
「ギ、ギルドマスター……」
デカいオッサンが2階から登場した。
この人がギルドマスター?!
「いえ、登録して帰ろうとしたら、この人達が殴りかかってきたんですよ」
「それを避け続けてたって? ふん、なかなか実力はあるようだな」
ギルドマスター?と話している内に、絡んできた冒険者二人は居なくなってた。
まぁ、大体の仕組みは理解出来たけどさ。
俺はギルドマスター?に近づき、耳元で「試験は合格ですか? 副ギルドマスター殿?」と言う。
オッサンは一歩後ろに引き、俺と同時に受付のお姉さんを見る。
受付のお姉さんはため息を一回つくと、こちらに歩いてきた。
「ちょっと場所を変えましょうか」
受付のお姉さんに連れられて、併設されている食堂の一番奥のテーブルにつく。
「ここですか?」
「このテーブルは特別でね。遮音の魔法がかかっているんだ。内緒話をするにはもってこいなの」
「あっ、そうなんですね、ギルドマスターさん」
「……はぁ。何で判ったの?」
俺には神様から貰った能力がある。
それには人や物を鑑定する能力もあるのだ。
受付のお姉さんを鑑定したら「職業:冒険者ギルドマスター」ってなってたんだよな。
俺はただ単に「スリーサイズとか出ないのかな?」というゲスい考えで鑑定しただけなんだが。
しかし、そういう事は言わない方が良いので、適当に答える事にする。
「まず、最初は登録が終わった時でした。絡んできた二人をチラっと見ましたよね。
知り合いが来たのかなと思ったんですけど、その後すぐに絡まれたので変だな~と」
「……それだけじゃないでしょ?」
「ええ。殴ってきた二人は、本気じゃ無かったです。だからコレは何かあるな~と。
そう思ってたら、副ギルドマスターの登場です。
2階から降りてきてすぐに止めたのに、俺が避け続けてた事を知ってました。変でしょう?」
「…………」
「ついでに言えば、冒険者二人が説明するみたいにギルドマスターって言った事ですね。
驚いた様に振る舞ってましたが、目は怯えてませんでした。
後、絡まれてる時に、隣のお姉さんは止めようとオロオロしてたのに、貴方は注視してました。
ここまで来ると何か仕組まれてるな~と。
そこで副ギルドマスターにカマをかけると、貴方の方を見ました。これで確信したんですよ。
さて、俺は合格ですか? ギルドマスターのお姉さん?」
「はいはい。見事合格よ。襲われてる時に周囲まで見る余裕があるとはね。
文句無しにDランクです!」
そうなんだよ。
それについて聞きたかったんだよ。
「Dは最低じゃ無いんですか?」
「普通はGランクからのスタートなの。
でも貴方はワールドベアーの魔石を持ってきたじゃない?
それが倒せるならDランクでも問題は無いのよ。
でももしかしたら、誰かから盗んできた魔石かもしれないでしょ。だから試験をしたのよ」
「じゃあ、もしあっさり負けてたら?」
「騒いだって事で3人纏めて逮捕。ま、2人は仕込みだからすぐに釈放するけどね。
その後貴方をじっくり取り調べよ。
魔石を盗んでたら刑務所行き。譲られただけならGランクに落とす、って感じかしら」
「なるほど。ところで、何でギルドマスターが受付してるんですか?」
「ギルドマスターが書類仕事ばかりしててもダメでしょ。
ギルド内を把握するには受付をしてるのが一番なのよ!
あっ、私がギルドマスターなのは一部の人しか知らないから、内緒にしてね!」
「でも、今ココで俺と話してるのを見られてますけど?」
「大丈夫! 貴方が副ギルドマスターを通して、絡まれた事のお詫びとして私をナンパした事になってるから!」
「おいっ!」
変な噂が立つだろ! やめろよ、目立ちたくないのに!!
こうして、俺の平穏に生きたいという考えとは裏腹に波乱万丈な冒険者人生が始まった……。
芝居が終わると、観客から拍手をもらった。
参加者は皆、嬉しそうにしてる。
ラノベのテンプレって異世界でもウケるんですね。
次話も明日の17時に投稿します。




