借りる
商人から提案された事。それは単純なものだった。
「全て貴方一人でやれば良いのです。組織ではなく、自営業ですね。
それなら、損をしようとも誰も困りませんし」
確かにそうだけど……。
それでテンプレクリア出来るのか?
いや、無理だろ。
だって自分がギルドマスターであり、受付であり、冒険者でもあるんだよ?
一人芝居じゃないんだから。
……そうだよ。
俺は商売がしたいんじゃないんだ。
ギルドを作る事によって、テンプレイベントをクリアしたいだけなんだよ。
そうか。原点に戻って考えたら、良い事思いついた。
「判りました。作るのは諦めます。
ちょっと出てきます!」
「はい。
あぁ、そうそう。商品が今日入荷するので、私は明日の朝出立しますから」
「ええっ?! 頼もうと思ってる事があるんですけど……」
「では今日の内にそれは済ませてしまいましょうか。
何ですか?」
「えっと、カウンターのある飲み屋みたいな店を1日だけ借りたいんです」
「はぁ。今日だけですか?」
「いえ、今日じゃなくて、1週間後くらいになると思うんですが」
「では今日から1週間借りましょう。私が手続き出来るのは今日だけですので」
「……。予約とか出来ないんですか?」
「出来なくは無いですが、契約した者がその日に行かないとダメなので。
それに何をするのかは知りませんが、借りていれば準備とかも出来ますよ」
確かに。
当日に慌てて準備してもダメだろうな。
なら2~3日で良いんだけど……ぐぬぬ、無駄な出費が。
「じゃあ、それでお願いします」
「規模は?」
「そうですね……この宿の食堂と同じくらいの大きさで良いです」
「判りました。ではお金を渡して下さい。1枚で良いですよ」
「10万コル1枚?! そんなに高いんですか?!」
「そこまでしないでしょうが、保証料とかも必要なので。
心配しないでも、余れば返しますよ」
儲ける手段も無いのに、どんどんお金が減っていく……。
しょうがない。チートになる為だ。必要経費だと思おう。
俺は商人に10万コルを渡して、宿を出た。
これから向かう先は人足所だ。
専門職ではない人を雇うなら、ここに行けと商人に教えてもらった。
到着した場所は、俺が想像してた冒険者ギルドにそっくりだった……。
くそぅ、これが冒険者ギルドなら簡単なのに!
がっかりしつつ、受付に向かう。居るのは勿論オッサンだ。
「すみません、依頼を出したいんですけど」
「おう! どんな仕事だ? 何人欲しい?」
「え~と、10人くらいですかね」
「10人! なかなかの仕事じゃねぇか!」
「その内2人は綺麗な女性をお願いしたいんですけど」
「ああん?! おめぇ、何を企んでるんだ?」
「いえいえ! 犯罪とかじゃないですから!!」
俺は計画をオッサンに話した。
そう。
俺の計画とは、「無いなら仮でも作ってしまえ、冒険者ギルド」だ!
場所も受付も冒険者も全て雇った人。サクラとも言うけど。
要は芝居だ。条件を満たすように芝居をするだけ。
芝居でも仕込みでもクリアにはなるみたいだからね。
ただ、それをそのまま話しても理解してもらえないのは判る。
だから、俺自身が役者って事にした。
練習がしたいから、相手が欲しいと。
劇の内容まで聞かれたから、とある勇者の話って伝えた。
内容はテンプレラノベそのままで。
凄いね、ラノベって。
異世界でもウケたよ。
オッサンが話を聞いて乗り気になり、自分も参加すると言い出すくらいだ。
それならばとオッサンをギルドマスターの役に任命したら、喜んで役者を探してくれる事になった。
ちなみに1人1週間で1000コル。10人なので1万コルの出費である……。
能力が増えるので、安い…………と思おう。
出張になりますので、すみませんが、次話は12日の17時に投稿予定になります。




