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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私立神楽学園

どうして自分が愛されちゃうの!?〜今をときめく転校生と婚約者持ちのイケメン4人の禁断の恋〜

「だから、お前らとは絶対仲良くならないって言ってんだろおおおぉぉぉ!!!!」


 夏のうだるような熱さも少しずつ鳴りを潜め、すぐそこにまで秋が近付いてきていることを日に日に感じるような、特筆することもない極々一般的なある日の早朝。最近ではこれまた極々一般的な出来事として受け入れられてきている怒鳴り声が、今日も私立神楽学園の校門で響いた。

 その怒鳴り声に驚いた鳥たちが己の住居とする梢から飛び立ち、バサバサと音を鳴らして青空へと消えていく。そんな空の下で、先程声を荒げたと思われる一人の生徒がぜぇぜぇと肩で息をしながらキッと己の前に対峙する四人の男子生徒を睨み付けていた。

 その睨み付けられている男子生徒のうちの一人が口を開く。

「あぁ、そんな眼で私を見ないでくれ、そんな情熱的な視線を向けられては、君のその眼の中に浮かぶ激しい炎で私は燃えてしまいそうだ。」

「その絶対に媚びない眼を持つお前は俺に相応しい。滅多に甘えて来ないところが玉に瑕だが…俺のものになれば死ぬほど甘やかしてやろう。お前のその激しい眼が俺だけしか見れないようにしてやる。」

「きゃはっ、可愛い〜!僕のことそんなに睨んでるの、まるで虚勢を張ってるうさぎちゃんみたいだよ?僕に楯突いてくる奴は絶対許さないけど、今なら僕の大好きな君だし特別に許してあげるから、早く僕のものになって?」

「あなたのことが好き過ぎて、おかしくなりそうなのです。あなたが僕の元へ来てくれるなら、何だってあげます。だから、僕のことを救ってください。」

 一人が話し始めれば、他もそれに続くもの。結局四人から熱烈なラブコールを受けた生徒は、顔色悪くその場に立ち竦んで動けないでいる。ゆっくりと四人がその生徒に近付き、あわやその手を掴んでしまう…、というところで、突如激しくブザー音がその場に鳴り響いた。


ビーーッビーーッビーーッビーーッ!!!!!


 その音と共に、学園所有の警備隊が五人の元に駆け付けた。

「大丈夫ですか!?」

 その声は、先程まで恐怖で動けなかった生徒にこれ以上ない安堵感を与え、また付き纏っていた四人には地獄の使者の訪れを告げるものだった。

「あ、やばい、逃げなきゃ。」


“学園に在籍するものは誰一人の例外なく、学園内においては平等に一生徒として扱うものとする”


初代学園創設者が常日頃話していたとされるその言葉は、私立神楽学園幼稚舎から大学に至るまで校則として、何よりも優先されるべき事柄として明文化されている。故に、創設から百何十年を数える今になってもそれは形骸化しておらず、一般家庭出身の生徒を守る言葉としてこれ以上ない影響を発揮している。

「大丈夫でしたか?」

 その為、学園の敷地内で生徒同士がいがみ合っていても周囲は手を出さない。無論、殴り合いの大喧嘩などになっていたら止めるが、精々通常の口喧嘩程度なら何も言わない。

 だが、今回は一人に対して四人。身分云々の前に明らかに人数差で不利に立たされている場合なので当然少人数の方が被害者として扱われる。故に付き纏っていた四人は警備隊の着く直前に急いで逃げ出した。

「すいません、いつもお世話になって…。」

 絡まれていた生徒が弱々しく謝る。

「いえ、生徒の皆さんに安全な生活を送っていただくのが私どもの職分ですのでお気になさらず。」

 現場到達と同時に、絡まれていた生徒の身の安全を危惧する言葉を発した警備隊の一人の男性が爽やかに笑ってそう言った。

「それにしても、いつも大変そうですね。」

 また、気の毒そうに苦笑しながら生徒を気遣う。

「はい、バレないように日毎に時間をズラしているのですが何故か三日に一回は感づかれて…」

 恐怖を思い出しているのか、ガタガタと震え始めた生徒の肩をそっと抱き、彼は励ました。

「宜しかったら、毎朝家までお迎えに上がりますが…?」

「い、いえ!大丈夫です!!」

 願ってもない素晴らしい提案。けれど警備隊員と二人で歩いて登校なんてした日にはそれこそ学校内で一日中噂になってしまう。そんな生徒の気持ちを読み取ったのか、彼は続ける。

「そうですか…?車の免許は持っていますし、目立たないように裏駐車場にお送りしますよ?」

「いやいやいや、警備隊員の人のスケジュールに穴開けさせるのは申し訳ないですし、全然大丈夫です!!まだ頑張れます!!」

「そうですか…。本当に大丈夫ですか…?」

 しゅんとしてしまった警備隊員の彼の頭に犬耳が生えているように見える。そんな幻覚を一瞬でも浮かべてしまった生徒は慌てて首をふってその幻覚を霧散させた。いい人なのだが過保護すぎる。というか毎朝送ってもらうとか気恥ずかしい。

「ほんっとうに大丈夫ですので!あ、ではちょうど友達も来たところなので!さようなら、今日もありがとうございました!」

 生徒はそんな心の慌てぶりをなんとか飲みこみ、ちょうど校門をくぐってくるのが見えた友達をダシにしてその場を逃げ切った。

「おーい!おはよー!」







 そしてその生徒が友達と共に学園の校舎内へと入っていくのを見届け、警備隊員のその男は自らの持ち場である詰所に戻った。

「あら?今日も振られちゃった系?」

詰所に待機していた同期の女性隊員に、戻るなり馬鹿にされる。

「うるさい、黙れ怪力女。」

「はーぁ?振られたからって八つ当たりしないで欲しいわよねー?」

 あわや掴み合いの乱闘寸前。それは女隊員とともに待機していたもう一人の隊員によって制された。

「まぁまぁ落ち着けって。ほらお茶入れるから静かにしてろ?な?」

 面倒見のいい兄貴分の隊員は、事実彼らの二つ先輩で、だからこそ逆らえない。結局二人は椅子に座って反省することになった。

 茶を淹れる。

「でも、あんたもよく飽きないわよね。その子。」

「毎日被害にあってるからねぇ、あの子も可哀想だ。」

 待機していた二名がお茶を飲みつつ、まったりと語る。

「でもさ、あの子なんであんなにストーキングされてるわけ?される要素なくない?いやたしかに顔は可愛いけどさ。」

「うーん、何でなんだろうね。」

「あいつは、人を惹き付ける。」

 ぽつり、と彼は零した。ゆらゆら揺れる水面に自分の顔が映る。それは不安定に揺れて、まるで自分の心情のようだ。

「なぜだか分からないが、酷く心を揺さぶられる。自分の存在が全てあいつのためであるような…そんな気分にさえなる。」

 そう独白し始めた彼を、待機隊員二名は呆然としながらも、どこか得心のいったという顔で見ていた。


 あぁ…あの子、ある意味一番ヤバイのに目付けられてるのね、可哀想。

 まさかこいつが人に対してここまで感情を高ぶらせることがあるなんてなぁ…。

 その言葉は言わない。言ってしまえばこいつは自分の心情にきっと気付いてしまう。今はまだ、あの生徒を助け出すヒーローで居られる。けれど、学園を卒業してしまえば?きっと、もう関わりは持てないだろう。方や一学校法人の警備員、方や将来の明るい若人だ。きっとその先の人生の道は二度と交差しない。ならば、気付かないでおくほうがきっと幸せだ。こいつは、自分の心情には鈍い。けれど聡明だ。気付かないでおくほうが幸せだと脳のどこかで思っているのだったら、彼は絶対にそのパンドラの箱を開けないだろう。だったら、気付かないふりをする彼にとことん付き合ってやろう。

二人はそう思い、お互いに目配せしあい、意思を共有した。







「それで?今日もストーカーのあいつらに絡まれてた、と。」

「そうなんだよ、もうやだよ…。」

 下駄箱で靴を入れ替えながら、そう語る。

「で、そしたらまたあのイケメン警備員さんに助けてもらえちゃってさー、まじかっこいいよな。ああいう風になりてーよ。」

「あー、はいはい。あんたのあの警備員さん好きはもうずっと前から聞いてるわよ。」

 軽口を叩き合いながら、自分たちの教室へ向かう。二人は違うクラスだが階は同じなので、毎朝そうやって教室まで歩く。

「それで、今日なんか、『朝お迎えに上がりましょうか?』とか言われちゃってさ、まじ爽やかすぎてやべーよ。」

「…え?」

「だから、『朝お迎えに上がりm…」

「本当に?本当にそう言われたわけ?」

 なぜだか、その言葉にだけ鋭く反応する友達。実は友達でもありいとこでもあるので付き合いは長いが、時々訳の分からないタイミングで鋭く反応するきらいがある。

「え…?嘘でしょ…?まさかの隠しルートもかなり進んでるわけ…?あれかなり条件シビアな上に運要素も絡むから、登場しててもルート入りしてない可能性高いから大丈夫って高くくってたのに…。だめだ分かんないユイに要相談だこれ。」

 そして、意味の分からないことをぶつぶつ呟く癖もある。

「なんでねーちゃん?」

「っ!な、なんでもないわよ。ちょっと相談したいことがあったから…。」

 こいつは耳がいい。特に知り合いの話だと敏感すぎるぐらいに耳聡い。

「まぁ、なんでもいいけどさ。()は気にしねーし。」

 そうやって、教室に着く。

「じゃ、ばいばいユキ。」

「おう、またな。」

 こうして学校に辿り着くという一番の難所をなんとか今日もクリアして、勉学に励む。途中昼休みにまた男子生徒たち(朝のバカども)が来たが、頑張って追い返す。もう転校しようかなぁとまで考え、自分より更に勉強を頑張ってここよりも更に優秀な高校へ編入していた双子の姉を思い浮かべて、姉がここに居なくてまだ良かった、いたらあいつらに死ぬほど構い倒されていた…と姉の身の無事を幸いに思う。

「君のことを思うだけでこの身が引き千切られるように切ないんだ!」

「やかましい!!」

 人が色々考えているときぐらい静かにしてほしいと思う。っていうかまず第一に

「俺は男だ…。」

 災難続きの転校生、広井 由貴(ヒロイン(男))は今日も今日とてため息を零す。


















「っていうか、あのブザー誰が鳴らしたんでしょうね。」

 ちょうど警備員の一人が巡回に行ったので、詰め所に残るのは待機組二人。必然的に朝の話になる。

「あのブザー、備え付けのものを鳴らすか、生徒全員に配布されてるブザーかどっちか分かんないけどとにかくこの学園の人間じゃないと鳴らせないじゃない。でも、あの場にいつもの五人以外居たって聞いてないわよ?」

「あー…心当たりあるかも。」

 兄貴分が気まずそうに呟く。

「え?誰よ。」

「いやー…









「取り敢えず、朝にブザー鳴らしておいて良かったわ。」

 放課後、学園から駅二つ分離れた街のカフェで女子高校生が二人話していた。可愛らしい外見とは裏腹に、その会話はまったく可愛らしくないものではあったが。

「うーん、確かにあの攻略対象たちに絡まれることで上がるの、あいつらのヤンデレ度だけだものね。今回は死ぬほど役に立たない。」

アイスミルクティーで喉の乾きを潤しながら、彼女らは真剣な顔で話し合いを続ける。

広井 由衣(ヒロイン)があの学園に転校しなきゃ、そもそものシナリオが展開しないんじゃないかって思ってたんだけどねぇ…。」

「我が弟、由貴がまさかその役割に成り代わるなんて普通思わないわよ。」

「そりゃぁね。あなたの勉強の成果も無駄になっちゃったか。」

「いや知識は武器だし。いま学校生活エンジョイしてるからそれはいいわ。公立安いし。」

「…」

 沈黙が満ちる。

「…こほん、取り敢えず、警備員ルートまで進んでるとは予想外ね。」

「…そう、それが問題。彼のルート、いわゆるメリバじゃない。」

再び真剣な表情に戻る。

「…私たちの願いは、由貴を幸せにすること。」

「そう、だからある意味一般攻略対象(自己中ども)に由貴を盗られるよりはマシ。由貴本人が幸せに感じられるならね。」

ぱらりと、資料をテーブルに落とす。

「結局として、由貴の意思が最優先なのよねー…。」

「すごくよく分かる。激しく同意。」

 






幾つかの思惑が絡み合い、もつれ合い、歪な物語を編んでゆく。それを観測できるのは、果たして誰ぞ…

由衣がシナリオ上ではヒロインだったけれど、別の高校へ編入したことでその役割が弟にいってしまったというお話。

由貴、由衣、友達はいとこ同士で、住んでいる場所は違いましたが幼い頃から交流がありました。由衣と友達はその時からこの世界がゲームだと知っていたけれど、由貴だけはそれを知らないのでじゃあ二人で由貴を守ろう!となった訳です。

友達は、ゲーム内だといわゆるサポートキャラですね。

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