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勇者パーティーの、とある初期メンバーの日常

作者: 高橋りゅう

 

 数年前、世界を救うという勇者に仲間入りした。

 当初は3人から始まった勇者パーティーも、旅の途中で勇者の人柄に魅せられた仲間がたくさん集まってきた。

 最初からメンバーに入っていた俺も、更に勇者の人柄にほれ込んだ一人だ。


 心強い仲間が増えれば、それだけ魔王退治が楽になると思うだろう。

 だが、だがそのように世界は甘くない!! 

 どんなに仲間が増えても、パーティーに連れて行けるのは4人までだった……っ!!



 勇者は面食いのようで連れて行くのは、長髪のキラキラしい賢者や、世捨て人だったくせに無精ひげも生えていないニヒルな剣士。

 もう一人なんて、入手が難しいアイテムを渡してやっと仲間になった気難しいエルフだ。やっぱり外見はキラキラなのだが、どうして物を渡さないと仲間にならないような奴をパーティーに入れるんだ!


 俺なんて最初こそは王の命令でパーティーに入ったものの、それだって国のため、世界のため、勇者のためという崇高な精神の元でだ! 報酬なんて求めたことはない!

 初期の雑魚にすらてこずる勇者のため、我が身を楯にして守ったり、剣となって強い敵に(弱い敵は勇者にまわして)ぶち当たってきたというのに!!



 おっといかん、まるで男に捨てられた女のように女々しく愚痴ってしまった。

 たとえパーティーに入れてもらえなくても、俺は世界を救う勇者の仲間の一人だ。

 パーティーに入っていないメンバーが控えている酒場で、ただ飲んだくれているわけではない。


 パーティーにいないがために勇者たちとレベルに差が出ては、いざパーティーに入った時に役に立てない。

 待機している俺たちも、モンスター討伐や、商人の護衛など、酒場に入ってくる依頼をこなしてレベルを上げている。そして依頼をミスしたかクリアしたか、それによってどのくらい成長したかが一冊のノートに書き込まれ、それを酒場に帰ってきた勇者が確認するというシステムだ。



 久しぶりに酒場に帰ってきた勇者が、今目の前で俺の成長記録ノートを読んでいる。

 内容的にはいつもと変わらず、ほとんど依頼をクリアして前回よりレベルが2つほど上がっている。


 だが、今回見てほしいのはそこではない!


 数あるクリアした依頼の中に、レアモンスターを退治した記録が入っているのだ。

 その戦いは熾烈なもので、何度くじけそうになったかわからない。だがその戦いの報酬は大きかった。

 なんと、レアモンスターの身体の一部が何個か手に入ったのだ!! このアイテムを鍛冶屋に渡すと、強力な武器や防具が作れるのだ!!


 ノートを読んでいる勇者を前に、俺は自分の鎧をそっと撫でる。

 王の命令で勇者の仲間になってから、一度買い直しただけのこの鎧。傷だらけの、皮の鎧。

 元々俺の鎧は、国から支給されている鉄の鎧だった。

 だが新メンバーが入った時に、そいつが着ていた俺の装備よりも劣る皮の鎧と交換させられ、そしてパーティーメンバーもそいつと交代させられ今に至る……。



 ノートを読み終わり、顔を上げた勇者の目が強く俺をとらえた。

 勇者よ、そのレアアイテムで俺の新しい装備を作ってくれ。そうしたら俺は前以上に君の力になれるぞ!!

 心の中で叫ぶ俺の目の前で、勇者の顔がくもった。


「僕たちが()()()()に倒したモンスターが、こんな町の近くにまで出るようになっているなんて……。そこまでモンスターの浸食が進んでいるんだ」


 勇者は憂い声でそうつぶやくと、きっと顔を上げた。


「こうしてはいられません。早く旅をすすめて、こんな町の近くにモンスターが出ない平和な世界になるように頑張ります!」


 さすが勇者だ。とても立派だ。その決意した顔がとても凛々しくて眩しいぞ。

 だがその言葉に、俺のいろんなものが切り刻まれた。


「…………」


 いや、ここでくじけては勇者の仲間でいる資格はない!

 俺は気を抜けば弱々しく震えそうになる声を、奮い立たせて言った。


「勇者よ、今回手に入ったレア……いや、アイテムで私の武器と防具を作ってもらえないだろうか。そうすれば、今以上に町の平和を守ることができるのだが」

「……すいません。このアイテムで作った武器と防具は、この前、更に強い武器と防具が手に入ったので全て売り払ってしまいました」

「そ、そうか……」


 勇者の申し訳なさそうな顔に、俺はそれ以上続ける言葉が出てこない。

 だが聡明な勇者は俺の微妙な空気を敏感に感じ取ったのか、がらっと表情をかえて明るく笑顔になった。


「あ、でももうすぐ次の段階の武器と防具がそろうので、そうしたら戦士さんに今のパーティーが装備している武器と防具を差し上げます。そのほうが、このアイテムで作ったのよりも何段階も強い装備になりますから!」


「……そうだな。ありがとう勇者」





 数十分ほど前に、勇者は「戦士さんのためにも、早く次の装備をそろえるぞーっ!!」と意気揚々と酒場を出て行った。

 何やら申し訳なさそうな顔で出ていくメンバーと視線があうことはなかった。だが彼らの装備が、確かに俺の持っているアイテムで作るより数倍もいい装備なのだけは、バッチリと確認できた。



 今日は。

 今日だけは。

 依頼を受けず、浴びるほど酒を呑んで死んだように眠ろう。



そんな夢を見ました。もちろん自分が戦士で。

夢では勇者に直接言われたわけでなく、いつの間にか記録ノートに赤ペンで

『レアモンスターを倒した? それ、僕たちは数か月前に倒しました』と書かれていました。

勇者に会ってすらないよ、酒場に放置されっぱなしだよ。なんで交換日記みたいになってるんだよ。

夢でぐらいチートになってもいいじゃない!


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― 新着の感想 ―
[一言] 待機仲間にも自動装備システムがあればこんな事には……!
[気になる点] 全く笑え無い話をコメディーのジャンルにしていること 本編はただ胸糞悪い話、あとがきではなく本編で落ちをつければまだ良かった
[一言] うわあぁぁぁ(´;ω;`)!! このまま終わってはいけない! 蘇れ戦士、不死鳥の如く!!
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