面倒くさがりなお姫様
なんとなく思いついたので書いたもの。
初投稿であり、元々文章は苦手な方なため、なにかとあるかもですが、よろしくお願いします。
あえて国名や一部の人物の名前は書いてません。
「あー、めんどくさい」
天蓋付の豪華なベッドの上で、うつ伏せながら少女は呟く。
投げ出されるように広がったピンクブロンドの髪は、少女が、立つと床に着くのでは無いかと思うほど長い。
しかし、それだけ長いが、絡まる様子もなくさらりとしていた。
散らばる髪から見える手足は白く細い。
うつ伏せになっていた少女は、ゆっくりとゆっくりと起き上がる。
さらさらと髪が流れ、人形のような整った顔立ちが現れた。
瞼が半分閉じているが、そこから見えるのは鮮やかな赤い色、さらりと、ピンクブロンドの髪が顔にかかるが、少女は構うこと無くため息一つつく。
「・・・・はぁ」
そしてまた、ぽふんとベッドに倒れた。
「起きるの面倒くさい」
ポツリと呟く。
少女はとても面倒くさがりだった。
コンコン
広い部屋の扉がノックされる。
「失礼します」
一人のメイドが入ってきた。
この部屋の主である少女は返事をしなかったが、少女は入ってきたメイドに何も言わない。
そしてメイドも、ごく自然に当然のように、少女の元へ歩いていく。
「レイア様、お食事の時間です」
「んー」
「そうだろうと思い、いつも通り運んできてます」
「ん」
少女の返事とも言えない返事に、メイドは言葉を返す。
まるで会話をしているように・・・・
メイドは、部屋から出ると、カタカタカラカラと食事を乗せた台車を押して入る。
そして、ベッドの近くにテーブルと椅子を用意し、台車に乗せていた食事をテーブルに載せた。
「ご用意できましたので、後ほど取りに来ます」
「んー」
ペコリとお辞儀をしてメイドは立ち去って行った。
「・・・・」
少女は、のっそりと起き上がり、四つん這いでベッドの縁に移動する。
すぐ先には、湯気の立つ食事を載せたテーブル。
「はぁ、」
とても緩慢な動作で、少女はベッドから降り、すぐそばにある椅子に腰掛け、顔にかかっている髪をかきあげ、後ろへ流す。
そしてナイフとフォークを手に取り、ゆっくり優雅に上品に食事を口へ運ぶ。
「・・・・食べるの面倒くさくなってきた。でもおいしい、はぁ」
食事はおいしいが、食べるのは面倒くさい。
面倒くさいが、だからと言って残すという選択肢は少女の中では無い。
なぜならおいしいから。
一時間ほどして食べ終わり、少女はゆっくりとベッドに戻り、ぽふんと倒れ込んだ。
「ベッドしあわせー」
少女の目は完全に閉じているが、口元には笑みが浮かんでいる。
そろそろ、食器を下げにメイドが来るが、少女はそうと分かってそのまま眠った。
少女の名はレイア。現在十四歳。
両親は、国王と王妃をしており、姉と兄がいる。
そう、彼女はこの国のプリンセス。
そして、面倒くさがり屋だった。
レイアは、入浴以外は基本部屋からでない。
入浴も、部屋にお風呂がないため仕方なく浴室へ行っているだけで、部屋に浴室があれば、完璧な引き篭もりになっていただろう。
そして、そんな彼女を咎める者はいない。
なぜなら、諦めているから。
なにを言っても無駄だと、両親や兄姉、乳母や教育係などは既に諦めて、レイアを部屋から出そうとすることも無くなった。
だからといって、仲が悪くなったわけではない。たまに両親や兄姉が様子を見に来て話しかけていく。
なお、レイアが面倒くさがりで、部屋から出ない事を知っているのはごく一部だけであり、それ以外のものには〝第二王女は病弱のため部屋から出られない〟と伝えられている。
レイアの父である国王は、頭を抱えていた。
その原因は、面倒くさがりだけれども可愛い娘のレイアである。
レイアは、十四歳。年齢が年齢だけに、婚約について考えなければならないが、ここで問題があった。
病弱と伝えられているため、縁談がうまくいかないのだ。
こうなるだろうなとは、思っていた。
が、一国の王女であり、容姿に関しては誰よりも美しく可愛らしい。
一人くらいは見つかるだろうと思っていたのだが・・・・
「まさか全く縁談がないとは・・・・そういえば、レイアがあまりに面倒くさがってお披露目もしていなかった。それに部屋から出てくるのは入浴の時間のみだし、以前は教育もあり仕方なく部屋からでていたが、王族専用の場所だったこともあって、一目に触れることも無かった」
姿さえ広まれば縁談が舞い込んでくるのに。と、それはつまり容姿以外は問題があると言っているようなものだが、事実その通りであった。
容姿は天使、いや、女神といってもいいほどだし、頭も悪くない。が、極度の面倒くさがり。
やれば出来るが、面倒くさがってやらない。
王女なのにお茶会も夜会も誕生日パーティー等も全てめんどくさいでやって来なかったのだ。
部屋から強制的に出そうとしても、面倒くさがって動かない。
筋金入りの面倒くさがりな娘の性格を、国王は思い、
「うーむ、せめてもう少し活動的ならよいのだが・・・・」
再び頭を抱える事になった。
「仕方ない、レイアに事情を説明するか」
婚約とか結婚とか面倒くさい。と言い切られてお終いな気がするが。と、国王は痛む頭を抱えてレイアの部屋へ向かった。
そして、部屋について、ベッドで横になっているレイアを見下ろし、事情を話す。
「婚約とか結婚とか面倒くさい」
「だろうと思ったが、王女がずっと未婚というのは・・・・」
「はぁ、表向き病弱・・・・だからいい」
嫁いだ女性の最大の仕事は子を産むこと。
だが、病弱とされる女性が子を産むのはリスクが高く、一人できたとしても、二人目三人目となると難しいことがほとんどであるため、病弱な女性は嫁ぎにくい。
それをレイアは分かっている。
そして、レイアは面倒くさがりなため、結婚する気はなかった。
病弱と言われてるのは、彼女にとって都合がよかった。
「むむむ・・・・」
国王は唸る。が、唸ったところで仕方ないので、とりあえず退室した。
それからしばらくして、国王は一枚の紙を手にして、固まっていた。
ぷるぷると手が震え、そして
「うおぉぉぉ! やったぞおおぉぉぉ」
その声は廊下まで響き渡り、聞いた者は何事かと驚く事になった。
国王が喜びの声をあげた理由は、隣国の有力な貴族から縁談話がやってきたからだった。
「は、まてまて落ち着け私。まずは娘を何とかして説得しなければ・・・・」
おそらく、面倒くさいからという理由で断るだろう愛娘を説得しなければと意気込む。
「妻にも助力してもらうか」
妻である王妃も、今回の問題は頭を抱えていた。
この機会を逃す事は無いだろう。
「んー」
「面倒くさいから嫌だ。ではないのですよ、レイア」
「ん」
「でも、ではありません。まずは会ってみなさい」
レイアの部屋には、国王、そして王妃がいた。
レイアと話しているのは王妃だった。
「ん」しかいっていないが、王妃は言っている事が分かっているかのように話している。
いや、実際分かっているのだ。理由は不明。
後意思疎通できるのは、レイア専属のメイドだけだ。
話すことすら面倒くさいレイアにとって、母と専属メイドがいるのは助かっている。
「んー」
「面倒くさい。ではありません。レイア、この機会を逃すわけには・・・・」
よくわかるなーと、国王は母子のやりとりを聞いて思っていた。
専属メイドといい、なぜわかるのか謎だった。
それからしばらくして、
「ん・・・・」
「あら、わかってくれてよかったわ」
話がついたらしい。
レイアが、このやりとりが面倒くさくなったというのもある。
「おお、よかった・・・・」
国王は、心から安堵した。
「めんどくさい」
ぼそりと言ってから、レイアは布団にもぐり込んだ。
その夜、国王夫妻は、寝室にて今日の事を話し合った。
「レイアが一応納得してくれてよかった」
「えぇ、あの子はアルフレッドとも仲がいいですし、しっかりしてるし、きっとレイアは気にいるわ。恋は人を変えるといいます。レイアも恋をして変わればいいのですが」
「ふむ、そうだといいのだがな」
夫妻は、アルフレッドからライナーのレイアに対する想いを聞いていた。
だから、面倒くさがりやという事実を教える事にしているのだが、やはり不安はある。
しかし、同時に期待もしていた。
そうして、数日後、本人以外が気合の入った縁談が開始した。
隣国の有力貴族の長男である彼は、この日を待っていた。
彼の父は、国の宰相である。
「やっと、あの子に会える」
全く縁談がなかったかの国の第二王女。
その情報がもたらされてから、彼の行動は早かった。
今でも鮮明に思い出せる天使のような可愛らしさ、時が経った今では、女神のようになっているだろう。
彼がレイアと出会った・・・・正確にはレイアを見たのは五年前、彼が十三歳の時である。
それは本当にたまたまだった。
かの国は友好国であるため、お互いに行き来する事も多かった。
なお、王同士はもはや飲み友達である。王妃同士仲も良い。
そんな国同士だから、宰相が息子を連れて行くのもおかしい事ではなかった。
彼は、その国の王子と親友同士でもあったことも大きいだろう。
その日、父である宰相は、会談へ向かい、彼は親友である王子の元へ行った。
その途中であった。
天使と出会ったのは。
「!」
中庭を挟んだ向こう側、その一角に天使のような少女が歩いていた。
そこは、王族専用の区域となっており、彼が向かおうとしている王子の部屋もそっちにある。
つまりは王族であり、彼が見たことの無い人物、そうすると、それが誰なのか考えればすぐ分かることなのだが、あまりの衝撃に彼は・・・・
「アルフレッドオオォォォ」
親友でもあり、この国の王子の名を叫びながら全速力で走って行った。
バッタァァン
「おう!?」
「アルフレッド! あの天使は誰だっ!!」
「はぁ?」
乱暴に開け放たれた扉から出てきたのは、ものすごい形相の友人だった。
ノックをするどころか、乱暴に開けての怒鳴りこみ、まさかの出来事に驚くが、続いて言われた言葉に「大丈夫かこいつ」と思いつつ
「落ち着け、ライナー、何があった?」
ただ事ではない様子なのでたずねる。
「天使がいたんだよ、この区域に!」
「天使って・・・・あー、もしかしてレイアのことか?」
「む、レイアというのは第二王女の名前だったな」
親友であり王子であるアルフレッドに妹がいることは知っていたが、その妹は病弱で滅多に部屋から出てこられないので、会ったことはなかった。
だから、宰相の息子である彼、ライナーはその第二王女がどんな姿なのか、知らなかったのだ。
「あぁ、しかし天使か・・・・確かにそう言われてもおかしくない容姿だが(中身がなぁ問題なんだよ)」
「なぜそこで視線をそらす?」
「いや?」
「アルフレッド、お前の妹に一目惚れしたなんとかしろ」
「しらんがな」
真顔で何を言い出すのか、落ち着いたようで実は落ち着いてないだろう。と、アルフレッドは思った。
その後、ライナーは父の用事が終わるまで、レイアについてアルフレッドに質問攻めにしていた。
それからというもの、寝ても覚めても彼女の事ばかりで恋い焦がれる毎日だった。
しかし、その事をまわりに悟られる様なことはせず、やることはしっかりやっているので、はた目にはライナーが恋という名の病(重度)にかかっているようには見えない。
ちょくちょく、彼女のいる城へ足を運んだが、あれ以降会えていなかった。
そして、病弱だから。という理由で会うことも許可されなかった。
その度に、アルフレッドに、今どうしているのか、体調は大丈夫か、婚約話はないのか等々質問攻めにしており、アルフレッドを憔悴させていた。
そんなこんなで「縁談全く無くて父と母が嘆いている」という話を聞くとこになり、縁談を申し込んだのだった。
そして本日顔合わせのために、この国へやって来た。
そこへ、友人であるこの国王子アルフレッドがやってきた。
「ライナー、ちょっといいか?」
「どうした?」
「今日言われると思うが、レイアは・・・病弱じゃない面倒くさがりなんだ」
「は?」
突然の友人のカミングアウトに首を傾げる。
アルフレッドは、ライナーの肩に手を置き、真剣な表情で言った。
「面倒くさがりなんだ。筋金入りの」
「天使が?」
「あぁ、だから病弱という話になっている。まさか一国の王女が面倒くさがりのため引き篭もっているなんて醜聞だからな。動くのも話すのも面倒くさがるか程だ。もっと早く教えるべきだったんだろうが、あまりにぞっこんだったから言うに言えなくて・・・・」
と、悲痛な顔でうつむいた。
「父上は黙っておきたいようだが、もし結婚したら間違いなくばれる。国王が嘘をついていたとなると、俺達の国の友好関係も崩れかねんからな。それに、その時言われるより事前に聞いて置いた方が少し考える時間もあるだろう」
黙っていてすまない。と、アルフレッドは言う。
それに対してライナーは、
「面倒くさがりだろうと何だろうと問題ないから安心しろ。天使が動くのが面倒くさいなら、こちらから動けばいいし、もとより病弱ということになっているから、パーティー等に出席しなくても問題あるまい」
素晴らしい笑顔で言い切った。
「お前、本当にいいのか? まぁ、レイアはやれば出来からやるときはやる。と、思うが、たぶん・・・・きっと・・・・」
全く自信がなかった。
「どうしても天使にでてもらわないと行けないときは、まぁなんとかするさ。やればできんだろう? ならきっと大丈夫だろ。それに、俺は天使以外考えられない」
「そうか、そこまで言うなら・・・・まずは会ってみてだが、妹を頼む。面倒くさがって拒否するかもしれんが」
「まかせろ。必ず口説き落としてみせる」
ライナーは気合いを入れ直した。
レイアは、気怠げに座っていた。
念入りにケアをして、化粧して、ドレス着て、とにかく面倒くさかったのだった。
「やはり黙っていた方がいいのか」
実は面倒くさがりやということを伝える事にしていたが、直前になって迷う。
もっとも、既にアルフレッドが告げているので、迷う意味は無いのだが、そんなことは分かるはずも無い。
「いいえ、無事婚約が決まり、やがて結婚となると確実にばれます。評判が悪くなるのはレイアだけでなく、あなたや私や国自身にも及びます。正直に話して納得してもらいましょう。レイアも、相手が全て認めてくれるならと言っているのですから」
「うまくいく事を願しかないか。アルフレッドから聞いたが、一目惚れしてからずっと想っているそうだしな」
とはいえ、やはり期待もあれど、不安も拭えないでいた。
そして、父である宰相と母と共にライナーがやって来た。
レイアは、やってきた隣国の宰相一家を見た。
そして、激震が走ったかのように目を見開く。
(素敵・・・・)
その視界には、ライナーの姿。
彼は、レイアと目が合うと、キリッとした表情から一変し、柔らかく微笑んだ。
さらに衝撃が走る。
だが、彼女はその動揺を封じ込め、優雅に挨拶した。
国王夫妻は驚きに目を見張る。
まともな態度を見たのはいつぶりだろうかと、記憶の彼方を探し始めようとするが、今は重要なとこだと考え直す。
(面倒くさいは面倒くさいけど、でもなにかしらこの気持ち。面倒くさいとは別の・・・)
鼓動が早くなっているのが感じられた。
そしてレイアは気づく。
(そう、きっとこれが恋)
レイアはライナーに一目惚れだった。
そして、ライナーはすごく自然にレイアの手を取る、
「ずっと、貴女に会いたかった」
「?」
レイアは首をかしげる。
彼女は会ったことはなかった。
「五年前、貴女を一目見てから私は恋に落ちたのです。さらに美しくなられて、まさに天使、いいや女神!」
「めがみ・・・・」
「面倒くさがりなのは聞いてます。それを踏まえて私は貴女を妻にしたいのです」
面倒くさがりとはなんだ。と、後ろでライナーの父母が質問しているが、そのようなやり取りは、二人には聞こえていない。
手を握られながらの愛の告白にレイアはうっとりと聞いており、ライナーは今までの溜まりに溜まった想いを、これでもかというほど語っている。
完全に二人の世界が出来上がっていた。
「うわぁー、レイアがレイアがま・さ・か・の!」
「まさに運命! 素敵ですわ」
こっそりと覗いていた国王夫妻の二人の子供、王子と第一王女は、あの面倒くさがりな妹の様子に驚きつつ楽しんでいた。
「姉上、これは、レイアの面倒くさがりも治るのでは?」
「いいえ、レイアは筋金入りの面倒くさがりや。治ると思えませんわ。でも、結婚したら妻としての務めは果たすかも知れませんわね。あの子は面倒くさがりでも賢いですから、やる気さえでればどうにでもなりますわ」
「まぁ、やる気さえあれば、な」
「えぇ、まぁでも、少なくとも結婚に関しては心配はいらないでしょう。桃色空気が甘いですわ」
「色とりどりの花が咲いているように思えます姉上」
見ているだけで胸焼けしそうな空気に耐えきれず、ゆっくりと、覗いていた扉を閉めた。
この二人の行動に、部屋の中の者たちは気づいていない。
そうして、二人は婚約した。
女性は、十五歳になれば結婚できるので、レイアが成人する一年後、隣国へ嫁ぐ事が決まっている。
「・・・・」
「はい、レイア様。私はついて行きます。レイア様の通訳はお任せ下さい」
「ん」
「そうですね、ライナー様にはレイア様自ら話すのがいいですね」
レイアは、ベッドに転がりながら一目惚れした婚約者を想うのだった。
(面倒くさいけど、ライナー様のためになることは頑張ってみよう)
面倒くさいという思考は健在だが、自ら何かをしようという思いは始めてなレイア。
恋は確かに人を変えたのだった。
読んでいただき、ありがとうございました。